表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
獣たちの夜戦
68/143

67 その魔物、未だ終わらず

 町外れまで行ってサキと俺は馬から降りる。

 「お疲れ様です、吉瀬団長」

 近くにいた騎士から声がかかる。

 「お疲れ様です。現在の状況は?」

 「はっ、現在イノシシはこちらに接近中です。ここに着くまでに十分とかからないと予想されます」

 「ありがとうございます。カケル、準備はいい?」

 俺は頷いてサキに合図をする。

 街から山の間には草原が広がっているため水平の向こうまでよく見える。

 ゴォォォォ――!

 遠くから獣の叫びが聞こえてくる。

 まだ姿は見えない。

 意識が右手に持っているベスティアに集中する。

 目を凝らすと、徐々に何かが近づいてくる。

 俺は右手に力が入るが、すぐにその力は抜けた。

 なぜなら近づいてきたのはイノシシではなく馬で、更にその上には見覚えのある人物が乗っていたからだ。

 「ハチさん!」

 「おお、カケル殿に吉瀬殿。ようやく来られましたか。いやはや、持ちこたえられず面目ない」

 ハチさんは馬から降りて、俺とサキに頭を下げる。

 「いえ、私たちももっと早く来れていたら……それでイノシシは?」

 「もうすぐ来ますぞ。儂は先行して足止めの準備をしようかと思いまして」

 「わかりました。ではその足止めの時にベスティアを使いましょう。カケル、頼んだわよ」

 「ああ、任せろ」

 最終的な作戦がまとまり、ハチさんは鉄製か何かでできたグローブをはめる。

 「「能力復元(ノスタリジア)」」

 ハチさんとサキの言葉が重なる。

 二人の姿が変化する。

 猫のような細長い尻尾と狐や猫のような耳――俗に言うケモ耳が現れた。

 「……来るわよ」

 サキがケモ耳をピコピコ動かしながら言う。

 瞬間、水平線から土煙が上がっている。

 前方には騎士たちが馬に乗ってこちらに来ているようだ。米粒程度に視認できた。

 「なっ……!?」

 そしてその後ろから巨大な物もこちらに向かってきている。遠目からでもはっきりとわかる大きさだ。

 ある程度こちらに近づいてその全体像が見えた。

 茶色の毛に覆われた体に人の太腿ほどの太さの牙。

 それはまさしくバケモノだった。

 「吉瀬殿、合図を頼みます」

 「了解です!」

 サキがそう言って、着ている着物の裾から玉を取り出してそれを前方に投げつける。

 玉は地面にぶつかると同時に破裂して白い煙を吐く。

 煙は目の前の景色を一瞬で奪って騎士たちを隠す。

 騎士たちにはそれが合図だったらしく、すぐに左右に分かれて煙の外側から来た彼らの姿が視界に映る。

 「ぬんっ……!」

 騎士たちの先頭が見えたと同時にハチさんが右拳を地面に振り下ろす。

 ゴォォォォ――!

 イノシシは煙を散らしながら直進してくる。

 瞬間。

 イノシシの足下から台形の岩が突き出す。その岩石はイノシシの左脇腹に直撃した。

 ゴォォォォ――!?

 急な衝撃に襲われたイノシシは耐えきれずに倒れてしまう。

 今だ。

 俺は約二十メートルの距離を駆け抜けて、ベスティアを標的に振り下ろす。

 ゴォォォォ――!

 しかし、イノシシは巨体に似つかわしくない速度で体をうねらせてこれを躱した。

 ギラギラと光る目がこちらを睨みつける。

 その眼光の圧力に思わず怯んでしまう。

 「ぐっ……うわぁぉぁ!」

 俺は恐怖を振り払って思いっきりその眼にベスティアを突き刺した。

 嫌な感触が手に伝わる。熟した果実を突き刺したような感触に似ていた。

 そこから赤い液体が溢れる。

 ゴォォォォォ――!?

 イノシシが痛みで倒れたまま暴れ出した。この巨体とぶつかればこちらはタダでは済まない。

 俺は慌ててベスティアから手を離して後方に下がる。

 急いでいたせいで足がもつれて尻もちをついてしまって腰辺りに鈍い痛みが走る。

 イノシシは尚も目の前で痛みによる激痛で暴れている。

 暴れているといっても倒れたままなので、足をばたつかせたり、顔を上下に振ったりしかできていない。

 間もなく死に絶えることは間違いないだろう。

 後ろから歓喜の色が聞こえてきた。騎士たちの喜びだろう。ようやく悩みのタネである魔物を倒せて一安心とところかもしれない。

 そう考えていると、いつのまにか今まで暴れていたイノシシは動かなくなっていた。

 「カケル、お疲れ様」

 「お疲れ様です、カケル殿」

 近くまで寄ってきたサキとハチさんが労いの言葉をかけてくる。

 「……終わったんですよね」

 「はい、終わりましたぞ。お疲れのところ申し訳ないが、国宝の回収をお願いできますかな?」

 ハチさんがイノシシの目を指差す。

 そこには聖罰剣の一つ、百獣王牙 《ベスティア》がイノシシの眼球に刀身の半分まで突き刺さっていた。

 ハチさんやサキたちはソウルビーストなのでベスティアには触れることはできないから種族的分類ではリグルートに当たる俺が取りに行くことになる。

 俺は死んだイノシシの目からベスティアを抜いて、イノシシをぼんやりと眺める。

 ふとその時、舞姫の話が頭をよぎった。

 ソウルビーストの能力(スキル)使用時と同じような魔力反応があった、という話だ。

 舞姫は深くは話さなかったが、それはつまり魔物が元ソウルビーストということではないだろうか。

 不意に胸の奥に鉛を詰め込まれたような重みを感じる。

 それは今まで俺と同じように生活をしていたヒトを殺――

 俺はすぐにその思考を中断する。

 可能性の話だと割り切る。このイノシシが元ソウルビーストという証拠はない。

 俺はもう一度イノシシの死体を確認する。

 「……ん?」

 そして俺は妙なものがイノシシの身体にあることに気がついた。イノシシの右前脚に金色の腕輪みたいなものが嵌められている。

 「……なんだこれ?」

 俺がその腕輪に触れようとしたその時。

 ……ヴゥゥゥ――

 イノシシからうなり声のような音が聞こえてきた。

 俺は耳を疑ったが、それが幻聴でないと示すかのようにイノシシの右前脚が僅かに動く。

 「――――っ!?」

 ゴォォォォォ――!

 鼓膜を破るような雄叫びに俺は一瞬遅れて耳を塞ぐ。

 爆音の雄叫びが止むと同時に俺は後方にいるサキたちに異常事態を知らせようと振り返る。

 「みんな、早くここから……!」

 「カケル! 後ろ!」

 サキの警告は虚しく、俺は背後からの衝撃に襲われる。

 「……がっ…………!?」

 硬い獣毛が背中に伝わる。俺はイノシシの突進を喰らってしまったのだと気づいた。

 莫大な運動力で腰椎(ようつい)軋み、一メートル程吹き飛ばされる。

 女神の加護者の能力で腰骨のダメージは回復したして痛みだけが瞬間的に伝わってくる。

 本来なら大怪我をしていたが一瞬の激痛だけで済んでいる。

 俺は女神の加護者の能力に感謝しつつ、痛みが引いたと同時に起き上がる。

 「カケル、大丈夫!?」

 イノシシがまだ生きていたと分かって、サキとハチさんが慌てて俺のところに駆けつける。

 「女神の加護者の治癒能力のお陰でなんとか……」

 俺の無事を確認してからサキとハチさんはイノシシの方を向く。

 「さて、これから如何(いかが)なされますかな?」

 「そうですね……まずは様子を…………え?」

 サキが今後の作戦を伝えようとしたところで、イノシシに変化が起きた。

 ゴォォォォォ――!

 イノシシから突如として薄暗くて淡い光が発生した。

 その光は――

 「あれは女神の加護者のっ……!?」

 「うそっ…………!?」

 その光は女神の加護者がプレアを使う時に現れる光によく似ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ