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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
獣たちの夜戦
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61 その静夜、一変する

 入浴後、俺は部屋でのんびりしていると、コンコンとドアの向こうからノックが聞こえてきた。

 「どうぞー」

 俺が返事をすると、ドアが開いてサキが入ってきた。

 「こんばんは、カケル」

 「サキか。どうした? イノシシ討伐の連絡事項か?」

 イノシシの討伐は明日の朝の予定となっている。

 俺はその前に本殿で百獣王牙 《ベスティア》を取りに行く手筈(てはず)となっている。

 その他に伝え忘れがあったのだろうか。

 「え? ああ、そっちのことじゃなくて…………あ、そうだ。スカーレット様についてはごめんね」

 「あれは別にサキは悪く無いだろ?」

 元凶は舞姫だ。

 一体混浴でどういう説明をしたら俺の顔を見てセレアが顔を赤らめさせることができるのか。

 「んー、まあ話の流れ的に私にも一因はあるというか……」

 サキは困ったように笑いながら、よく分からないことを言う。

 「どういう事?」

 「な、なんでもないわ。この話はおしまい。カケルはいつこの世界に来たの?」

 「いや、話変えすぎ。誤魔化せてないよ」

 俺が苦笑して指摘すると、サキはなぜか得意顔になる。

 「あら、そうでもないわよ。だって私がカケルに会いに来たのはそれが目的ですもの」

 「え……?」

 会話の意図が読めず、俺は聞き返してしまう。今度はサキが苦笑して言う。

 「昼に言ったでしょう? お互いのこれまでの話をしようって」

 「…………あ」

 思い出した。

 昼間サキとお互いの近況を話すと約束をしていた。

 「その様子じゃあ、今まで忘れていたみたいね」

 「忘れていたわけでは…………いや、いい。ごめん」

 忘れていたことは事実なのでしっかり謝ることにしよう。

 そういえば、サキは昔からこうした小さな約束事もしっかり守っていた。

 それが周りからの人望を集めていた一因である。

 そんなところからもサキ本人だという実感と懐かしさが心の内を満たす。

 「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」

 俺が彼女の顔をジロジロ見ていたのが気になって、サキは自分の頬に手をあてる。

 「いや、本当にサキなんだなあって思っただけだ」

 「それ昼も言ったと思うんだけど…………」

 「そうか? まあ、いいや。よく来たな。幼馴染同士、久し振りに語り合おう」

 呆れ顔のサキを座らせて、彼女が引っ越した後からのことについて互いに語り始めた。


     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「………………そう、レイ兄さんが。ごめんなさい、そうとは知らずに聞いてしまって」

 「いや、いいよ。サキが引っ越した後の話だから。知っているはずないし」

 俺がそう言ってもサキの顔は晴れない。

 俺の兄、羽令の話からサキの顔にはだんだんと曇り気味になっていた。

 羽令は既に他界している。

 死因は交通事故による出血多量。

 俺は兄と父と出かけた先で交通事故にあった。

 文武両道を極め、誰もが正しいと肯定した俺の兄の死は多くの人を絶望させたり、落胆させたり、哀哭させたりした。

 自分の弟を居眠り運転から守った兄は最後まで正しかった。

 しかし、父は兄の行動を予測していたのか、又は父として当然のことだったのか、兄と俺を守るように覆いかぶさろうとしていたらしい。

 らしい、という表現であるのは俺が知らないからだ。

 たしかにその現場に三人でいた。俺は迫ってくるトラックを見ることしか出来なかった。

 スローモーションのようにゆっくりに感じる速度でくるトラック。

 その横から俺を守るようにトラックと俺との間に立つ二人の影。

 俺は兄と父が残したものを受け継ぐ義務がある。

 自分を犠牲にしてでも誰かを守れる覚悟や(ちから)が今の自分にあるとは思えない。

 だけど、いつか、その時のために――

 「こんなこと言うのも不謹慎かもしれないけど、最後まで彼らしいわね」

 サキが無理に微笑みながら言う。無理にでも笑わないと泣いてしまう可能性があると思ったかもしれない。

 「……ああ、レイは正しいよ」

 俺は独り言のようにつぶやく。

 「ええ、そのおかげで学校で彼のことを知らない人なんていなかったものね」

 「それは初耳だけど憧れている奴なら何人かいたぞ。俺も何度かラブレターを貰ったし」

 お兄さんに渡しといてと何度か言われた。

 特に同じクラスのアイドル的存在の女の子に言われた時のあの落胆はまさに谷底に落とされたようだった。

 いや、俺ではないって分かっているけどさぁ?

 顔を赤らめながら渡されたらもしかして思うじゃん……。

 そもそも自分で渡せ。

 マネージャーか、俺は。

 「ラッ!? 誰!? 私の知っている子!?」

 座っていたサキが急に腰を浮かして、身を乗り出す。

 俺はサキが近づいた分引き気味に背中をのけぞらせる。

 「誰にって……色々?」

 サキは兄がモテていることは知らなかったらしい。

 そういえば、サキからも手紙を預かったことがあった。

 つまりはそういうことか。

 「なんだ、サキもレイのことねらっていたのか?」

 俺がからかい目的でそんなことを口にする。

 レイには悪いが湿っぽい話は先ほどので充分だろう。

 ここからはレイを絡めた明るい話題に移らせてもらう。

 「え、レイ兄さん? なんで今レイ兄さんが出てくるの?」

 きっと顔を赤くするに違いないという俺の予想に反してサキは首をかしげる。

 どうやら話が噛み合っていないらしい。

 俺がその原因にたどり着くよりも早く、サキの方が納得したようにああ、と声を漏らして、座り直す。

 「カケル、貴方女の子から貰った手紙全部レイ兄さんにあげていたでしょう」

 サキが意図が分からないことを言ってきた。

 「あげるも何も、あれは全部レイへの手紙だ。別にいいじゃないか」

 「えー、本当に?」

 「ああ、間違いない。美人の先輩に話しかけられたと思ったら兄への告白を手伝って欲しいと言われた俺が言うから間違いない」

 「そんなことしてたんだ……」

 サキが俺に対して同情と呆れたような目を向けてくる。

 まあ、結果は……美人の先輩の威厳のために言わないでおこう。

 「……でも本当は、一通くらいはあったかもしれないわよ。貴方への手紙が、ね」

 サキはそう言って、微かに笑った。

 月に照らされたその微笑みはどこか寂しく見える。

 「それって…………」

 俺が言葉の真意を問おうとする。

 その瞬間。

 カァーン、カァーン! カァーン、カァーン!

 突然、けたたましい鐘の音が鳴り響く。

 「なんの音だ……!?」

 俺とサキは異常事態を悟り、弾かれたように立ち上がる。

 「警報よ! 恐らくは……!」

 サキが言い終わる前に、険しい足音がこちらに近づいてくる。

 部屋の扉が勢いよく開く。

 「カケル殿、起きているか!? 例のイノシシが現れた! 予定を変更する! すぐにベスティアを取りに行ってくれ!」

 扉を開けた張本人、不知火さんがまくし立てるように叫んだ。

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