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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
獣たちの夜戦
61/143

60 その少年、温泉で

 豪華な夕食に舌鼓をうち、宿の離れにある温泉に入る。

 温泉には女、男と書かれた暖簾(のれん)の間に混浴と書かれたのれんがあった。

 非常に興味をそそられたが、男湯に入ることにした。

 入らなかった理由は特にないが、決して怖気付いたわけではない。断じて違う。

 そもそも国の客人を招待する場所に何を設けているのだろうか。

 俺は誰にするわけでもない言い訳を脳内でしながら、脱衣を済ませて戸を開く。

 湿度の高い白い煙が辺り一面に広がっている。お湯が勢いよく飛び出す音や、微かな石鹸の香りが漂ってくる。

 どうやら誰もいないらしい。人の気配がない。

 所謂(いわゆる)貸し切り状態だ。

 温泉は室内と露天があるらしく、少し離れた場所に外に出る扉がある。

 俺は体を洗ってから露天風呂の方へ行く。

 露天風呂の方も室内よりは小さいが、空が(じか)に眺められる開放感がたまらない。

 俺は湯に浸かり、一日の疲れを深いため息とともに吐き出す。

 『すごい! 外にお風呂があるなんて!』

 『喜んで頂けたようで何よりだ』

 『あ! マレイ、何でタオルで前を隠しておるのじゃ! 普段、妾と入る時は隠さんじゃろ!』

 『客人の前だ! 当然だろう!? それに貴女と入る時は貴女が裸の付き合いだとか言ってタオルを巻かせてくれないじゃないか! そして貴女は毎度のことだが、少しは隠してくれ!』

 『……私の世界だったら舞姫様はとっくの昔にパワハラとかで訴えられてますね』

 『うむ? サキよ、ぱわはらとは何じゃ?』

 壁越しから賑やかな声が聞こえてくる。

 どうやら女性陣は皆仲良く入っているみたいだ。

 「セレア! そっちは楽しそうだな」

 『その声は……カケル? 貴方も入っていたのね。私は部屋に戻ったら舞姫さんに……誘われてここに来たの。とってもいいところね』

 『セレア殿、攫われたと仰っても構わないのだぞ。部屋に戻るなり、ここに強制連行。その後訳もわからず身包みを剥がされてワタシとサキが駆けつけた時には半泣きで――』

 『きゃー! 不知火さん、ストップストップ! カケルに聞こえるから!』

 どうやらセレアの温泉の最初の思い出はあまり良いものとはならなかったみたいだ。

 今は楽しんでいるみたいだし、結果オーライってことにしておこう。

 壁越しから聞こえてくる楽しそうな声と比べて、今俺の周りには誰一人いないというのはちょっとした疎外感がある。

 誰か俺も誘えばよかったかな。

 この国で知っている同性といえば、ハチさんとミノさんだ。

 まあ、あの還暦くらいのおじ様方にキャキャウフフでキャピキャピな雰囲気を作られても申し訳ないが気味が悪い。

 ふと、そこで俺はあることに気がつく。

 壁越しにセレア達がいるこの状況。

 しかし、男子風呂の隣は混浴だったはず。

 つまり……。

 ゴクリと生唾を飲む音が俺の喉から聞こえてくる。それと同時に後悔に似た感情に襲われる。

 ……あの時、入っていれば。

 しかし混浴にセレアが入るだろうか。たしかに舞姫なら面白半分冗談半分で入るかもしれない。

 だけど今は御付きが二人いるので可能性は低いだろう。

 一体どんな構造になっているんだ、この温泉。

 『うむ? そっちの壁から声がするということは、カケルは混浴には入らんかったのじゃな』

 舞姫の声が壁越しで聞こえてくる。

 口ぶりからして、女性陣側のいる場所も混浴ではないようだ。

 「はい。ていうか、今までそっちが混浴だと思っていました」

 『混浴なんかに入る訳ないだろ!?』

 不知火さんの壁越しでも迫力ある怒鳴り声に思わず身を竦ませてしまう。

 『んんっ、失礼。たしかにこの国には上野殿の主張により多くの温泉で混浴が存在するが、主に女性に人気がなくてそんなに広く場所をとっていないんだ』

 「そ、そうなんですか」

 『あまりにも人気が無いんで、動物と一緒に入ることができるようにして、舞姫様の独断で猿を投入したんだけど、この世界の猿はこの時期になると凶暴だからますます人が来ないのよ』

 サキが不知火さんの説明の補足をする。

 その後、なぜか舞姫の自慢げな笑い声が聞こえてきた。

 『あの、さっきから言っているコンヨクって何ですか?』

 『何じゃ、セレアは知らんのか?』

 「リグルートにはそういう文化はないんですよ」

 そもそも温泉がなかったはずだ。

 俺は頭がぼんやりとしてきたため、そろそろ出ることにした。

 『何と、そうであったか! では説明してやろうかのう。初めはここの文化である裸の付き合いを男女問わず行うべきだというハチの主張で――』

 「お先でーす」

 俺はそこまで聞いて室内に戻った。

 脱衣所で服を着て、暖簾をくぐる。

 「おや、カケル殿ではありませんか」

 すると、隣から声をかけられた。声から察するにハチさんだ。

 「とてもいい温泉ですね、ハチさ――」

 振り向きながら答えるつもりだったが、彼の顔を見て言葉が出なかった。

 彼の顔には無数の引っかき傷があったからだ。

 「……あの、大丈夫ですか?」

 「ハッハッハァ、心配ご無用。それにしても、猿の投入はこの時期だけでも中止するように舞姫様にも申し上げているのだがなぁ……」

 むぅ、と思案顔でハチさんがその場で固まってしまった。

 「猿がいるってわかっていても行くんですね?」

 「……それが漢ってもんだろ!」

 ……こいつ本物だ!

 俺はお疲れ様ですと最上級の敬意を込めて言って、その場をあとにした。

 数分後、廊下で女性陣と遭遇した。

 活き活きとした様子で何かをやり遂げた感満載の舞姫。

 本当に申し訳なさそうにしている不知火さん。

 困ったように笑みを浮かべるサキ。

 そして、のぼせたのか耳まで真っ赤になって、俺と目が会う度に気まずそうに目をそらすセレア。

 何があったのかは知らないが、舞姫はセレアを大変気に入ったみたいだ。

 ところでセレアに一体何を吹き込んだのだろう。

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