57 その巫女、自由気ままに
「成る程。二人は知り合いだったのだな」
男口調のショートヘアの女性が言う。
彼女は不知火まれいと名乗った。
不知火さんは俺とサキの関係についてまとめる。
ちなみに不知火さんは舞姫の世話係をしているそうだ。
「だけどすごい偶然よね」
「全くですな」
セレアの素直な感想にハチさんも同意する。
ミノさんは最初の鳥居の前で仕事があるからとハチさん達に案内を引き継がせて去っていった。
魔物討伐のためにあちこち走り回っているらしい。
「けど、カケルはすっかり変わっていたから最初は気がつかなかったわ」
「俺もまさかサキがこっちに来ていたなんて思ってなかったよ」
そんな会話をしながら長い石段を登りきり、境内に入る。
最後の鳥居をくぐり終えると、参道の先に立派な拝殿が見える。
周りは木々で囲まれて、神秘に満ちた気配が空間を支配している。
俺達は拝殿の向かって右にある建物に案内された。
「ここが舞姫様の館だ。カラクリ仕掛けが施されているから注意してくれ」
「ここに来るまでの石段にはなかったのか?」
「勿論ある。当然カラクリに引っかかりそうな時は注意をするつもりだった。館内は多くのカラクリがあるから単独行動は避けて、ソウルビーストの誰かといてもらいたい」
俺の質問に不知火さんが答えている間にハチさんが引き戸を開ける。
「舞姫様! リグルートの代表、スカーレット女王と加護者が来られましたぞ!」
ハチがそう言って館の中に足を踏み入れる。
続いて不知火さん、サキ、セレアと俺の順番に入る。
電気は文化的に使わないらしく、昼間でも室内は薄暗い。
仄かな甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
館といっても広い畳部屋が一室あるだけだ。
しかし、そんな簡素な造りでもどこか迫力を持っている。
これがソウルビーストの独特の文化なのかもしれない。
あるいは――
「あ、こらっ! 何お酒を呑んでいるんだ! 一日三瓶までと決めただろ!?」
「あら、また散らかしていますね」
「やれやれですな」
あるいは畳が見えない程あちこちに物が散乱し、その中心で不知火さんと同じ種類の巫女服を着て、酒盛りをしている女性の姿に面食らっているだけかもしれない。
「そう怒るでない、マレイよ。元気なのはいいことじゃがのう。ゆとりを持っていないと妾のように育たんぞい?」
「ええい、自慢げに自分の胸を揉むな! 他種族の長が来ていると言っただろうが! もう少し代表としての自覚を持って頂きたい! サキ、すぐに片付けるぞ! 上野殿も何か言ってやってください!」
「心配には及ばぬ、不知火殿。貴殿の残り少ない成長期で一発逆転の機会も無きにしもあらずですぞ!」
「貴公に聞いたワタシが間違っていた。もう喋るな。スカーレット女王、五分ほどお時間をもらえるか?」
「え、ええ」
セレアの苦い笑いに対して乾いた笑みを浮かべた不知火さんは俺とセレアが建物から出るのを待ってピシャリと引き戸を閉めた。
あれは絶対五分では終わらないと思う。
「……す、すごかったわね」
「…………ああ、スゴいな」
嵐のような怒涛の出来事を見せられて、俺はセレアが呟いた本心に心の底から同意した。
*
数分後。正確な時間はわからないがたぶん五分後。
不知火さんから待たせたことへの謝罪があって、俺とセレアは建物の中に入る。
ソウルビーストには文化の面から玄関があったので、そこで靴を脱ぐ。
部屋は先程の散らかっていた物は何処へやら、綺麗さっぱり片付いていた。
「先程は本当にすまなかった。一応昨日片付けたのだが……」
不知火さんが再度謝罪の言葉を述べながら、恨みがましい目つきで部屋にいた女性を見る。
その女性は不知火さんと同じ巫女服を着ているが、明らかに酒盛りの女性の方の服は凝ったつくりになっている。
「うむ、それに関してはホントすまんのう。にゃは!」
女性は水縹の長髪を揺らしながら、あまり反省の色がない謝罪をする。
サキは苦笑を浮かべており、ハチさんは何事をなかったかのように女性の後ろにサキと立っている。
彼らの反応を見るにさっきのことが日常らしい。
「何はともあれ……よく来た、リグルートの長よ。妾こそはソウルビーストが代表、舞姫じゃ! ああ、本名は既に捨てている身なので悪しからず」
水縹色の髪をもつ女性がにゃは! とまた笑う。




