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42 その女の子達、他種族の国へ

***

 「冗談じゃねぇ! なんでこんなガキが次期頭目(とうもく)なんだよ!?」

 それはアルバーレ大陸ではマナ祭四日目の朝のことだった。

 アスタロス王国のとある貧民街で、たてがみを想起させる髪型の男は不愉快そうに吐き捨てる。

 「オキナさんの意思だ。受け入れろ。自分から名前と形見を受け取った奴が次期頭目って前から言われていたじゃないか」

 そこはオキナと呼ばれている、『女神の加護者』が『天寿』を全うした場所だった。しかし、そこにはすでに彼の亡骸はない。

 『女神の加護者』、つまり召喚者は異世界に来てから百年経つとこの世界から消えてしまう。人はそれを『天寿』と呼んでいた。

 そんな召喚者の最後を看取った女の子は困ったように言い合っている男達に目線を右往左往する。しかしたてがみ男と目が合ってしまい、そっと目をそらす。

 たてがみ男は不機嫌そうに舌打ちをして、再び口を開く。

 「……ミムロド、『紅月(こうげつ)の民』の掟では意見が割れた時はゲームで決めるってことになっているよな?」

 「その通りだが、それがどうした? ハティ」

 ハティと呼ばれたたてがみ男はミムロドの後ろできょろきょろと自分とミムロドを交互に見ている女の子を一瞥する。

 カグヤはまたも目が合い、びくっと体を強張らせて自然と目をそらしてしまう。大人達の言い合いに子供の出る幕はない。しかし、その事をまだカグヤは知らなかった。

 言い争っている原因が自分にあることは分かっているので、輪をかけてどうにかしたいと思ってしまう。その思いもハティから向けられる敵意に萎縮して行動に移せないでいる。

 「じゃあこうしよう。明日の内に俺たちはバイオレット王女を暗殺する」

 「なっ……!?」

 ミムロドはハティの言葉に驚愕する。彼だけではない。カグヤや彼女の継承賛成派の陣営から戸惑いの声が生まれる。

 「それをお前らが止める。要するに、カグヤの継承賛成派と反対派のチーム戦だ」

 「そ、それはダメ。掟には不殺の誓いも書かれてあるよ。だから別の勝負に……」

 ハティはカグヤの言葉に大袈裟にため息をつく反応をみせる。

 「じゃあ、あれだ。模擬暗殺だ。それならいいだろう?」

 「模擬暗殺?」

 カグヤはきょとんと首を傾げる。

 「ペイント付きの木でできたナイフを王女に当てるってことだ」

 「おい待て。それは……」

 「口出しするな、ミムロド。こいつに決めさせろ」

 カグヤはまだ見ぬ自分の国の王女が勝手に自分たちの勝負に巻き込まれていることに気づいていない。

 模擬暗殺とはいえ王女に武器を象った物を当てるだけでも、その後自分たちがどうなっているかはわからない。少なくとも謝って済む問題ではない。何らかの罰はくだるだろう。

 普通の人ならゲーム感覚でこのようなことはしないだろう。

 しかし、ここは貧民街。表の世界に居場所がない者やならず者達が集う場所。ましてや『紅月の民』はそこを纏めている集団だ。

 カグヤ達の『紅月の民』という組織はオキナと呼ばれる召喚者が作ったものだ。

 主な活動は悪徳商人やよからぬ噂しかない貴族などの屋敷に忍び込んでは物を盗み、貧民街の人達などの恵まれない人達にそれらを与えることだ。簡単に言えば義賊活動である。

 したがってそれがたとえ王族の城でも彼らなら容易く侵入できてしまう。

 「それくらいなら……」

 「決まりだな。明日の日の出とともに開始だ。それまで準備しておいていいぜ。……俺たちみたいに、な」

 ハティが言い終わると同時に数人が屋内に飛び込んでくる。『紅月の民』のメンバーだ。

 カグヤはこの時、ハティが既に手を打っていたことに気づいた。つまり、ハティは反対派の仲間に王女の居場所を確認させていたのだ。

 カグヤはゲーム前に打たれていた先手に苦痛の表情を隠せなかった。しかし、彼の視察部隊の言葉で早速できた勝敗の差が元に戻る。

 「ハティ、大変だ! 王女サンがアルバーレ大陸に行ってしまった!」

 「なんだと!? 訪問は中止だったはずだぞ!」

 そんな会話を聞いて、カグヤはミムロドと顔を見合わせ、賛成派の人たちの顔もぐるりと見渡す。

 「みんな、リグルートに行くよ!」

 朝の澄んだ空気の中、カグヤの言葉が響いた。




***

 「……ということは、バイオレット王女は誰にも告げずにアルバーレ王国に訪問したということですか?」

 「そうだよ。だって爺やってば昔からボクがちょっと熱が出せば、すーぐ外出禁止にするんだもん。だけど今回は前から楽しみにしていたリグルート訪問だったから諦めきれなくてこっそり来ちゃったよ」

 セレアの確認にシェリーは楽しそうに告げる。

 要するにシェリーが風邪を引いたためにアルバーレ王国訪問は中止になったが、どうしても来たかったシェリーは一人で訪問したということだった。

 昔から、ということは元々病弱体質なのだろう。彼女の肌はセレアのような健康的な白さではなく、病的なまでに白かった。

 ちなみに現在、シェリーの話を聞いたセレアは、というか騎士一同驚き慌てていた。

 セレアの指示で騎士達はアスタロス王国と連絡を取っている騎士や、今後のシェリーの護衛を決めることなどに追われていた。

 俺は騎士を辞めた身なので働く理由も義務もないので、こうしてセレアとシェリーの話を聞いている。

 いやぁ、働かないって素晴らしい。

 色々と手遅れな俺の思いを頭の隅に置いて、俺はセレア達と会話を続ける。

 「それにしても、長旅って疲れるねぇ。身体中が怠いや」

 「まだ風邪が治っていないだけじゃないのか」

 「ははは。イタイところついてくるね、キミ」

 「カ、カケル!? 相手は他の種族の代表だから、もう少し言葉遣いを……」

 「いいよいいよ、気を使わなくて。その方がこっちも楽だしさ!」

 「は、はぁ、そうですか……」

 シェリーの言葉にセレアは生返事で返す。

 「そうそう。だからセレアもそんなに畏まらないで。名前もシェリーでいいから」

 「そういうことなら……」

 セレアは返事は肯定しているが、表情はまだ納得していないみたいだ。

 そんなセレアを見て、シェリーはいたずらっぽく笑う。

 「ねぇセレア、ちょっと仮眠できるところない?昨日は宿屋に泊まったんだけど、もう資金が尽きちゃってさ〜」

 「分かりました。今、ご用意……」

 セレアは不満げなシェリーの顔を見て、うっと言葉を詰まらせる。やがてセレアは深呼吸をしてシェリーを見る。

 「部屋用意しておくね、……シェリー」

 セレアは頰をほんのり赤くして少し恥ずかしそうに言う。途端にシェリーの顔が一変して嬉しそうな表情になる。

 「ありがと、セレア! そうだ! セレアも一緒にお昼寝しようよ!」

 「え!? え、ええと……、残念だけどこれから仕事があるの。すぐ終わったら部屋に行くわね」

 「うん! 待ってるね!」

 仲睦まじい少女達の会話を聞いていると、正午の鐘が鳴った。その音で俺は城に随分長く滞在していたことを知らされる。

 「俺、そろそろ帰るよ。楽しんでいけよ、シェリー」

 「うん、ありがと。またね、カケル!」

 「あっ、ちょっと待って」

 俺が出入り口に行こうとするとセレアに呼び止められた。

 「はい、これ返すね」

 そう言われて手渡された物は、バーチャルバレットだった。

 そう言えば祭りの護衛の依頼でここに来ていたんだっけか。すっかり忘れていた。いや待て、俺まだ返事していないぞ。強制参加ってことか。まあ、することもないから別にいいけど。

 「……分かったよ。どうせ祭りには行くからそこら辺を歩き回ればいいんだろ?」

 「本当にごめんね。助かるわ」

 セレアは俺に拝んだ後、シェリーと一緒に稽古場を後にする。俺も二人の背中を見送ってから、稽古場から離れた。

 大きな城の門を抜けてこの後の予定を考えている。城とエスバルは目と鼻の先にあるため活気ある声が微かに耳に届く。

 どうせ祭りの警護に就くことになっているし、少し早いがちょっと行ってみるか。

 ざっくりとした予定を決めて、足を祭りの方へ向かせる。

 「うわっ!」

 「ん?」

 その時、横から小さな衝撃がきた。見ると、身長が俺の腰くらいの女の子が俯いて額をさすっている。どうやらぶつかってしまったらしい。

 「ごめんな。大丈夫か?」

 俺は屈んで女の子との目線を合わせる。女の子は六歳くらいで、光って見えるような銀色の髪だった。

 「大丈夫。こちらこそごめんなさい」

 女の子は俺の方を向く。すると少しの間、チラチラと後ろの方を向く。なにかを確認しているかのようだった。

 「どうした? 何か落としたのか?」

 「な、なんでもないよ!」

 慌てて女の子が首を振る。なんだかよく分からないが、本人がこう言っているから気にしなくていいだろう。特に怪我はしていないみたいだ。

 「そうか。じゃあ俺はそろそろ行くから。気をつけて歩けよ」

 俺は立ち上がり、再び足を目的地に進ませる。

 「っ! ……待って!」

 進ませたが、女の子に呼び止められてまた足を止める。

 振り返ると、女の子は言いづらそうに口をもごもごさせたり、身体をもじもじさせる。やがて、意を決したように口を開く。

 「あなた、かぐやのパパですよね?」

 ………………………………………………は?

 この時、俺は女の子の突拍子も無い発言に当然ながら驚いていた。具体的には『は?』の部分を声にしたか、しなかったかが自分でも認識できないくらいには驚いていた。

 ただ一つ言えることは、この日、マナ祭最終日がとても面倒なことになりそうだという事だ。

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