23 その騎士団、帰還する
大広間には騎士団の中でも上の立場の人しかいなかった。
静まり返りみんなが注目している先には優しげな顔をしたセレアが立っている。俺はセレアの警護として二、三歩下がったところに静かに立っているように言われた。
俺とセレアの前には四十代くらいの男性と、俺と同じくらいの歳の女の子が跪ずいている。その後ろに多くの騎士達が同じように跪き、こうべを垂れている。彼らから漂う雰囲気は達成感と疲労感が混ざった独特の空気だった。
「騎士団団長ローグ・ド・バイリン、副団長ハリサキミラノ、他二百名の騎士達よ、長い遠征お疲れ様でした」
紅髪の王女の厳かな声が終わったと同時に周りから歓喜の声が響き渡り、明るい雰囲気に包まれる。それは労いの言葉がほとんどを占めていた。
そんな温かい雰囲気のまま銃撃隊の帰還式は終わった。
***
「じゃあ、改めて紹介するわね。こちらが騎士団長のローグよ」
「よろしく頼むよ」
そう言ってローグと呼ばれた男は俺に握手を求める。
「相島翔です。よろしくお願いします」
俺はローグさんと握手を交わす。ローグさんは四十代後半の男性だ。身長は俺より少し高いくらいだが、体格が良くて俺とはまるで違う。灰色の髪を伸ばしているが、オールバックにして後ろで一つに束ねている。
「君の入団を歓迎しよう」
ローグさんは年相応のしわを作り、微笑む。
余談だが、俺は今まで仮入団となっていたらしい。騎士団長か、副団長二名の了承がなければ正式に入団を認められないそうだ。
「ありがとうございます」
「それと彼女がライザー君と副団長をしているハリサキミラノだ。君は剣士だから直接関わることは少ないだろうが一応覚えておいてくれ」
ハリサキミラノと呼ばれた少女がローグさんに促され前に出て、会釈する。
彼女は縁の細い眼鏡をかけた黒髪で、見た目から察するに俺と同じくらいの歳のようだ。
……というか名前といい、黒髪黒目といい、この人もしかして…………。
「……もしかして『女神の加護者』?」
「違うわよ。彼女のお父さんがそうだったけどね」
セレアが即座に否定して俺に説明する。できれば同じ『女神の加護者』として会っておきたいところだ。
「お父さん? その人は今何しているんだ? できれば会ってみたいんだが」
俺のその言葉に俺以外その場にいる全員が言い淀む。その場の空気が一気に重くなる。
「ええとね、カケル、彼女のお父さんは…………」
「お父さんは数年前に死んだわ」
セレアが答えを渋っていると、ハリサキが横から答える。
「え、……あ、ごめん」
「いいわよ別に、知らなかったわけだし。ローグ団長もセレア……様も気を遣わなくてもいいですよ。前にも言ったじゃないですか」
「すまないね」
「ごめんね、みらのん」
ハリサキがため息をつきながら二人を見る。その視線から逃れるように、ローグさんは自嘲しながら謝罪する。その後にセレアも続けて謝罪する。
「ん? みらのん?」
セレアが最後に言った言葉を繰り返すと、ハリサキがばっ、とこちらを振り向く。そして、思い出したかのようにセレアの方を見る。
「セレア、人前ではその呼び方はやめてって言っているでしょう!」
今まで無表情に近かったハリサキの顔が少し赤くなっている。
「えー、なんで? いいじゃない。かわいいし。それに公務中なのにみらのんも私のこと呼び捨てじゃない」
セレアの指摘にハリサキは何も言えずに再度ため息をつく。
「仲が良いいんだな」
「当然よ。みらのんは私の子供の頃からの数少ない友達だもん」
俺は納得した。セレアには王族という身分のせいで歳の近い友達がいなかったのだろう。そんな環境ならハリサキと仲良くなるのは当然だ。
「そうだ。みらのんが気に入っていたケーキ屋さんに新商品が出てたよ」
「そう、じゃあ仕事帰りに…………」
「一緒に行こうね!」
ハリサキが言い終わる前にセレアが横から口を開く。しかし、ハリサキは不快な顔どころか、当たり前みたいな顔をしている。
「わかったわ。仕事終わったら連絡するわ」
「うん、楽しみだね!」
セレアとハリサキがお互いに微笑む。
セレアの身辺警護を仕事としている俺はこれについて言ったほうがいいのだろうか。あまり行きたくない。なぜならこの女子トークに割って話す度胸もないし、ハリサキの仕事終わりということは俺の仕事終わりでもある。
昔から就職したら絶対に残業はしないと決めている。
まあ、このままセレアの命令でもない限り行かなくてもいいだろう。そうと決まれば早めに対策を打とう。
俺はローグさんに軽くお辞儀をしてその場からの退出を示す。ローグさんも片手を上げて応えてくれた。さて、騎士団長の許可がおりた。これで俺をこの場にとどめようとする者はいない。
俺はさらに元いた世界でも使っていたスキル、『空気になる』を使って作戦の成功率を高める。これを使い過ぎると大変なことになる。例えば、小学校の頃運動会が終わった後に、担任の先生からクラス一人ずつ担任の先生作の賞状が配られたが、自分のだけなかったということになる。
まあ、俺の体験談なんですが。先生もしっかりしてくださいよ。名簿順だったから俺が一番最初だったでしょう。今時の親はそのくらいでモンスターペアレンツに進化する可能性もあるんですよ。ちなみに俺の母は大爆笑していました。
苦い思い出が蘇り、心の古傷が疼くがなんとか堪える。出口まであと少しだ。
俺はまだ長い遠征の話で盛り上がっている人々の間を縫うように通り抜ける。みんな俺のことは気にしておらず、話に夢中のようだ。
ちなみにその集団の中にはライザーもいたりする。あ、今目があった。スキル発動中の俺と目があうとは流石は聖騎士といったところか。
広間を抜け廊下に出る。ここまで来れば流石に彼女も俺のことは頭にないだろう。
『さっき仕事サボって怒られたばかりなのに何してんの、俺』と理性が語りかけてくるが、本能が無視しているため聞こえない。『…………泣いてたくせに』と理性が言う。な、泣いてねぇし。はっ、いけないいけない。無視しないと。
そんな己との戦いを繰り広げている中、胸の内ポケットから微かな振動を感じる。タブレットだ。帰還式ということでマナーモードにしていたのだ。
取り出して確認する。どうやらメールのようだ。
『差出人 セレア
さっきの話聞いていたよね? 一応私も変装はするけど、警護よろしくね。働かざる者食うべからず、だよ』
そんな内容が送られてきた。
タブレット、やっぱり異世界には必要ないと思う。むしろいらない。
最近投稿が不定期気味で申し訳ありません。




