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侯爵令嬢の回顧録〜〝傾国の魔女〟と呼ばれて幽閉された私の婚約者は、世界を敵に回した皇太子殿下でした〜  作者: メアリー=ドゥ


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2/6

婚約者の裏切り。


 けれど、アズライアは裏切られたのだ。

 土壇場で、よりにもよって、死地に赴くデュロ本人に。


「君との婚約を破棄する。……逃げろ、アズライア」

「え……?」


 そう、デュロは口にした。

 あの戴冠式の日、攻め込んできた第二皇子エーリとの直接対決に赴く直前に。


 幼少より魔導の天才と呼ばれ、戦争が始まってからは軍略の鬼と呼ばれた黒髪の婚約者は。

 その紫の瞳に冷徹な色を浮かべたまま、アズライアを切り捨てたのだ。


「何で……やだ、デュロ……!」


 呆然としながら彼に向かって腕を伸ばすが、その手は届かなかった。


「連れて行け、ギメル」

「は。……アズライア嬢、失礼致します」

「やだ! 何で! 何でよぉ!!! 捨てないで! デュロ、私を捨てないで!!」


 デュロ、アズライアと共に皇帝の弑虐に加担した側近、竜頭人ドラグーンのギメルに捕まり、そのまま鱗に覆われた太い腕で担ぎ上げられる。


「離して、ギメル! デュロ!! デュロぉ!!」


 どれだけ呼びかけても、彼は振り向かなかった。

 引き離され、小さくなっていく背中。


 ーーー許さない、絶対許さないわ……!


 ボロボロ溢れてくる涙に視界が歪む中で、アズライアは絶叫した。


「私は! 生きて幸せになんか、なりたくないッ! 幸せになんかなれる訳ないじゃないのよぉ!!」


 ーーーデュロがいないのに。

 

 だって、アズライアは。


「私は……貴方と一緒に死にたいのよッ!! デュロぉ〜〜〜〜ッ!!」


 彼を置いて逃げるなど、あり得なかった。

 これ以上生きることなんて、望んでなかった。



「うあぁあああああぁああああぁッッッ!!! デュロと一緒じゃなきゃやだァアアアアアア!!!」



 アズライアは願った。

 確かに、そう願ったのだ。


※※※


 そうして、今、ここに立っている。



 デュロを殺した妹の婚約者……第二皇子エーリに捕まり、魔女裁判の場に。



 アズライアはゆっくりと目を開け、その場に集まった面々を眺めて、微笑んだ。

 見えるのは、皇国の重鎮、他の人族国の支配者達、そして『異人いじん』……かつては亜人や獣人と呼ばれた者達の国を治める、異人各国の玉座に座る者達。


 裁判長は、第二皇子エーリ・パラディア。

 被告は当然、アズライア自身。


 首筋には、魔力を封じる首輪。

 手首には、腕輪と鎖で両手首を繋ぐ硬い拘束具。


 そしてこめかみには、どう見ても極度に緊張している警備兵が押し付ける銃口の、冷たい感触。

 妙な動きをすれば、即座に引き金が絞られる。


 トドメに、被告人席には牢屋のような天井と囲いが立てられて、その中に立たされていた。


 ーーーデュロ、まるでわたくし籠の鳥ですわね〜!


 アズライアは自分の状況を鑑みて、内心でそんなことを考えながら、最愛の人の顔を思い浮かべる。

 彼なら、アズライアがそんな風に口にしたら、きっとこう言っただろう。


『君は、こんな時でも楽しそうだな』


 と。


「うふふ」


 思わず小さく笑みを漏らすと、警備兵が、今にも引き金を絞りそうな程に緊張感を増したので、上目遣いにチラリと見上げる。

 けれど、彼以外に零した笑みは届いていなかったようで、裁判は中断されることなく続いた。


 当然、意見など求められることもないまま罪状が並べ立てられた後、名前が呼ばれる。

 何せこれは、普通の裁判ではなく、形式だけが整えられた魔女裁判なのだ。


「……インフェロー侯爵令嬢アズライア……」

「は〜い! どうなさいましたか〜?」


 エーリに名前を呼ばれたので、返事をすると、場の空気が変わった。


 厳粛げんしゅくだった空気が、一気に困惑こんわくを含み、さらに後に剣呑けんのんな気配を帯びる。


 深く息を吐いたエーリは、デュロによく似ていた。

 昔は紫の瞳に黒い髪まで同じだったけれど、エーリは『天恵』によって、銀髪に変化しているところがちょっと違う。


 アズライアの妹であるベアトリィテが聖女になったように、エーリもまた、『天恵』によって神の使徒になったのだ。

 そんなエーリは、その場の空気を全て無視して、改めて言葉を続ける。


「……以上のことから、インフェロー侯爵令嬢アズライアを……」


 どうやら、名前を呼び掛けられたわけではなかったようだ。

 それで、あの空気になったのだろう。

 

 アズライアは、次は黙ってエーリの言葉が締め括られるのを聞いた。



「ーーー生涯幽閉の刑に処す」


 

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