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侯爵令嬢の回顧録〜〝傾国の魔女〟と呼ばれて幽閉された私の婚約者は、世界を敵に回した皇太子殿下でした〜  作者: メアリー=ドゥ


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天真爛漫な悪女。

 

「お祖母様ー!」


 庭の木陰で椅子に座り、編み物をしていた魔女は、孫娘が駆けて来るのを見て手を止めた。

 微笑みながら、彼女に問いかける。


「どうしたの?」

「何かお話が聞きたいですー!」


 膝に飛び込んできた、お話を聞くのが大好きな孫娘の言葉に、魔女はゆるゆると頷く。


「そうね……今回はどんなお話が良いかしら……」


 少し考えた魔女は、空を見上げた。

 晴れた空と流れる雲の鮮やかなコントラストに目を細めた後、魔女は孫娘に目を戻す。


「なら、貴女には一つ、秘密の話をしてあげましょう」

「秘密のお話!?」


 こちらの膝に手を添えた姿勢のまま、パッと顔を輝かせる彼女に、魔女は語り始めた。


「昔、昔、あるところに、好きな人に裏切られて檻の中に閉じ込められた侯爵令嬢がいました……」

 

※※※


 アズライア・インフェローは、パラディア皇国の侯爵令嬢として生を受けた。


 炎のゆらめきのような光沢を持つ朱色の髪と、とろんとした同色の瞳。

 そして生来の整った容姿と相まって『まるで不死鳥のよう』と称えられるのが常だった。


 天真爛漫、純真無垢。

 そんな性格であると、当時は言われていた。


 生まれてすぐに、二歳歳上のデュロ・パラディア皇太子殿下の許嫁に定められ、そこから、ずっと良好な関係を築いていた。


 転機が訪れたのは、16歳になると聖教会で受ける成人の祝福で『天恵(てんけい)』を授かった聖女が現れた時。

『あらゆる病を癒す』と言われる力を得た彼女は……アズライアの妹、ベアトリィテだった。


 その時に、アズライアは祝福した。


『うふふ〜♪ ベアトリィテ、多分皇后の座は貴女のものね〜!』

『お姉様……』


 アズライアが妹にそう告げた後、案の定、皇国の権力者の意見は二分された。


 一つは、ベアトリィテをデュロの婚約者に据えるべきだとする第一皇子派。

 もう一つは、現在婚約者である第二皇子を皇太子に据えるべきだとする第二皇子派。


 そんな議論が公然と行われた理由は、単純なもの。

 インフェロー侯爵家にとっては、アズライアもベアトリィテも実子であり、どちらが皇后であったとしても侯爵家の地位は揺るがないからだ。


 皇后の後ろ盾を敵に回す可能性がない中、第一皇子派と第二皇子派、どちらの陣営にもアズライアのことを気にする者は居らず……それが、仇となった。


 デュロは、その議論が決着する前に行動を起こしたのだ。


『聖女が生まれたなら、潮時だな』

『あら、本当にやるのですか〜?』

『当然だろう。他の選択肢はない……ついてきてくれるか、アズライア』



 そうしてデュロは……まず、皇太子すげ替えを狙っていた父王を弑逆した(・・・・)。



 これは、第一皇子派にとっても予想外の出来事だった。

 彼はそのまま、皇国内各勢力の武力による平定を始めたのだ。


 派閥の別なく、一部の良識ある者達が、命を狙われた第二皇子とベアトリィテを連れて逃亡。


 これに構わず、デュロは他国にまでその魔手を伸ばした。

 主にベアトリィテを皇后に推した国、身柄を求める動きを見せた国の首都に電撃侵攻し、これを次々と陥落。


 一時、デュロは大陸の八割を手中に収めたが……皇位簒奪(こういさんだつ)と侵略に疑念を覚えた者達が、第二皇子側についた。


『どう思う、アズライア』

『うふふ、皆、正しい選択(・・・・・)を致しましたわね〜!』


 そう言って、二人で笑い合った。


 他の勢力はともかく、第二皇子エーリ・パラディアの一派だけは、予測通りに愚かではなかった。

 

 逃亡後、彼は密かに匿って貰っていた教会勢力を後ろ盾に、皇国内外でゲリラ戦を展開。

 反デュロ勢力を纏め上げ、新たに『教会・聖女派』として、デュロのやったことをそのままやり返したのだ。


 戴冠式が行われる日に、皇都へ電撃侵攻したのである。

 国外まで戦線を広げ過ぎていたデュロ側は、戦力を一点集中したエーリ側に対抗出来ず、皇国辺境近くまで撤退。


 内海の島を舞台に行われた最終決戦で、デュロは討たれた。


 

『君との婚約を破棄する。……逃げろ、アズライア』



 そう言い遺して、デュロは死んだ。

 けれど、アズライアは逃げなかった。


 第二皇子を出迎えると、彼は厳しい表情でこう言った。


『……意外だな。逃げなかったのか』

『うふふ。私はデュロの魂と、生涯を共に致しますわ〜! 逃げる必要がどこにありますの?』


 アズライアがニコニコとそう告げると、エーリは唇を震わせる。


 優し過ぎる彼は、きっと内心で逃げて欲しいと思っていたのだろう。

 そういうところは、デュロとよく似ていた。


『兄上に殉じる、ということか』

『あら、私を殺しますの〜? うふふ、出来るなら(・・・・・)構いませんわよ〜!』


 しかし、大陸を混乱に陥れた戦犯の一人であるアズライアは、結局死ななかった。


 第二皇子エーリに身柄を拘束され、結論ありきの魔女裁判にかけられたにも拘らず。

 死刑執行を望む皇国内部や、各国首脳部の総意に反して……。



 ーーー下された判決は、『生涯幽閉』だった。

 

 

 後にこの件は、『幼少より聡明であったデュロが謀反を起こした理由は、〝傾国の魔女〟アズライアに惑わされたからである』とされた。

 また、事態を収めた第二皇子エーリの婚約者が、アズライアの妹である〝永遠の聖女〟ベアトリィテであったことから、一連の事象はこう呼ばれた。


 【聖女・魔女闘争】と。


 そしてアズライアの物語は……ここから始まる(・・・・・・・)のだ。

 

『ついてきてくれるか、アズライア』


 かつてそう問いかけたデュロに、アズライアはこう答えた。


『うふふ、良いですわよ〜!』



 ーーーデュロの為なら、喜んで地獄の底まで行きますわ〜!


 

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