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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
一章 ムルマンスクの孤児
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14 傭兵リー

 ガチャ。


 扉を開けて執務室に入ってきたのは、様子を見に行くと言って出ていった副官の男だった。


「どうだった?」


「た、隊長……」


「どうした? ……後ろに誰を連れている?」


 リーに答える前に副官の男が前のめりに倒れた。


 副官の背中には彼が愛用していた短剣が刺さっている。


 そして、血に塗れた少年が一人、姿を現した。


 整っているが顔立ちが幼い。まだ十歳にもなっていないだろう。


 ただし、人族でならの話だが。


「……小人族の暗殺者(アサシン)か?」


 小人族は大人になっても子供の姿のままだ。


 そのため小人族から子供を攫い、暗殺者として教育する組織があると聞いたことがある。


 だが、リーは自分の言葉を心の中ですぐに否定した。


 暗殺者として教育を受けたわりには、身のこなしがズブの素人だった。


「グレアム!? どうしてここに!?」


 グレアムの姿を見て、トレバーが驚きの声をあげる。


「そ、その姿は? こ、これは、君がやったのか?」


 倒れた副官とグレアムを交互に見て、その口調には怯えが混じっていた。


「院長先生。知り合いか?」


「こ、孤児院で世話している子供だよ」


「そいつはまた、とんでもない化け物を飼っているな」


 そう言って、リーは鞘から剣を抜いた。


「どういうことだ、リー?」とデアンソ。


「この商会で今、生き残っているのはここにいる四人だけでしょうね」


「な、なんだと?」


 顔を青くするデアンソ。


 少年の目的がデアンソの命であることを悟ったのだろう。


「だ、誰の差金だ? 王都のマッセル商会か? "翁"に献金は欠かせていないぞ。わ、私が孤児院の土地を狙っていることを知って暗殺者を潜り込ませていたのか?」


「そんな回りくどいことはせんでしょう。いずれにしろ、理由はここを切り抜けてからゆっくり調べてください」


「か、勝てるんだろうな、リー?」


「さて、ね」


 リーの『危機感知』スキルは過去最大級の警告を告げている。


 それでもリーは負ける気はしなかった。


 部下を全員殺されたようだが、部下全員が束になってもリーのほうが強い。


 伊達や酔狂で荒くれの傭兵を統率できはしない。


 リーは剣を構えて、ゆっくり少年に近づいていく。


 少年が何かをする前に、一瞬で切り捨てるつもりだった。


「おい、トレバー! 孤児院で世話をしていると言っていたな! このガキについて知っていることをすべて教えろ!」


 デアンソがトレバーに詰問する。


 書類にサインした今、敬称も丁寧な言葉も不要とばかりに乱暴な言葉遣いだった。


「え? ええと、多少、頭がいいというくらいしか……。あ! 『スライム使役』! グレアムは『スライム使役』のスキルを持っています!」


「『スライム使役』? なるほど。さっきのスライムどもはおまえさんのしわざか。スライムを使って何をするつもりだったか知らないが、目論見通りいかず、こうして姿を現した。違うかい?」


 やはり、こいつの正体は小人族の暗殺者で間違いないだろう。いつから孤児院にいたかは知らないが、おおかた組織から足抜けでもして追手から身を隠すために孤児院に潜り込んでいたのだろう。


 リーの質問にグレアムは否定も肯定もしない。


 少年の表情からも何も読み取れず、ただ冷めた瞳をリーに向けているだけだった。


 それに薄ら寒い感情を覚えるリー。


 "心無き神"の使徒がいるとしたら、きっとこいつのような瞳をしているに違いない。


「スライムを使った暗殺。それがおまえのスタイルだな。身のこなしが素人なのはそれで説明がつく。であれば、こうして姿を見せるのは本意ではなかったはずだ」


「……」


 グレアムは何も答えない。


 だが、リーの勘は自分の言葉が正しいと確信する。


 こいつの武器はスライムだ。警戒すべきはスライム。


(しかし、どこにスライムを隠している? スライムをどう使うんだ?)


 グレアムがスライムを連れている様子はない。


 副官もリーほどではないにしろ、そうそう後れをとる腕前でもない。 


「ひっ!」


「スライムが!」


 突然、リーの背後からデアンソとトレバーの悲鳴が聞こえた。


(しまった!)


 リーはデアンソが襲われたと判断した。


 そして、振り返りもせず、グレアムに切りかかった。


 使役者を殺したほうが早い、そう決断した。


 踏み込んだ瞬間、バランスを崩すリー。


(何が?)


 見ると、踏み込んだ右足が膝まで消えてなくなっている。


(!? 切り飛ばされた!? いや、足の感覚はある)


 混乱するリー。


 その一瞬の隙をついて、グレアムがリーに何かを投げようとしている。


 それ対し幾度もの修羅場をくぐり抜けたリーの体が咄嗟に反応する。


 リーの剣が振るわれ、グレアムの右手の薬指と小指を切り飛ばした。


「ぐっ!」


 苦痛の声をあげ、投げようとしていたもの――スライムを取り落とすグレアム。


 リーは止めを刺すため、再度、剣を振るおうとして、突然、視界が闇に覆われた。


 デアンソの襟首つかんでさっさと逃げておくんだった。


 急速に遠くなる意識の片隅で、リーは最後にそう思った。

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