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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
一章 ムルマンスクの孤児
12/441

12 フォレストスライムの爪牙

「ちょいと小便」


「おう」


 見回り中に便所の前を通りかかった赤髪の傭兵は、尿意を覚え用を足していくことにした。


 しかし、便所の扉を開けた瞬間、赤髪の傭兵が倒れた。


「おい。どうした?」


 倒れた同僚の後を追いかけ、もう一人の傭兵が便所に駆け込み、


 ドサ。


 便所に入った瞬間に意識を失う。


 そのまま、二人は永遠に目覚めることはなかった。



「降りた」


「へへ、悪いな」


 そう言うと髭面の傭兵はテーブルに置かれた金を自分の元へ引き寄せる。


「ふぅ。なんだか暑いな」


 顔に傷のある傭兵はカードを置くと、シャツのエリを広げて中に空気を送り込む。


「確かにな。窓を開けよう」


 額に汗粒を浮かせた髭面は窓枠に手をかける。


 だが窓は漆喰で固められたように動かなかった。


「どうした?」


「いや、窓がな、開かないんだ」


「ん? なんだこりゃ!?」


 窓に近づいた傷の男がガラス越しに、窓枠に貼り付いているスライムを見つける。


 それも何十匹も。もしかすると百を超えているかもしれない。


「こいつら、窓枠に何重にも貼り付いてんのか?」


 いかにスライムの貼り付く力が弱くても重なれば、かなりの強度となる。大の男二人の力でも開けられないことは実験で確認済みだった。


「だから窓が開かないのか?....、どうなってんだ?」


 スライムがこんな行動をとるなど聞いたことがなかった。臆病で人前に滅多に姿を現わすことはなく、最弱でネズミ一匹にも勝てない。


 それがスライムの世間一般の共通認識である。


 そのため、二人は今、スライムから攻撃を受けているなど思いもしなかった。


「くそ! なんだってんだ! おい! ドアを開けてくれ! 暑くてたまらん!」


「ああ」


 だが髭面がドアを開けようとしてもドアはピクリともしなかった。


 窓と同じようにスライムたちが貼り付き、開かないようにしていた。


 窓とドアだけではない。壁の隙間に屋根裏、床下の穴。おおよそ部屋の隙間という隙間はスライムたちによって塞がれ、部屋は外気循環のできない密室状態となっていた。


「くそ……、なんだ? めまいが」


 その言葉を最後に髭面は倒れた。


 その光景を見て傷の男は一刻も早く、この部屋から出なくてはならないと思った。


 窓を破ろうとし、ガラス窓が自分の給与の何ヶ月分もすることを思い出した。


 その一瞬のためらいが男の命を奪った。


 窓を破ろうと全身に力を込める、その前に傷の男の意識は暗転した。




 グレアムはフォレストスライムから発生する気泡の正体を棚上げにしていたが、傭兵ギルドの老兵からの話をヒントに酸素ではないかと仮説をたてた。


 空気中には21%の割合で酸素が含まれる。


 その空気を肺呼吸によって取り込み、酸素濃度21%から16%となるまで人体で消費する。


 ところが、空気中に16%以下の割合しか酸素が含まれておらず、その空気を取り込んだ場合、逆に人体から酸素が奪われるという現象が発生する。


 仮に酸素濃度10%の空気を人体に取り込んだ場合、6%分の酸素が人体から奪われることになるのだ。


 では、その結果、何が起こるか。


 酸素濃度12%でめまい、吐き気。

 酸素濃度10%で意識不明。

 酸素濃度8%で死に至る場合がある。


 グレアムは前世で、どこかの温泉宿で宿泊客が次々に倒れたというニュースを目にしたことがある。


 その時に"酸素欠乏症"という言葉を覚え、低酸素濃度の空気が人体に及ぼす影響を知った。


 スライムをいじめて暇を潰していた傭兵がスライムに顔に飛びつかれた直後に意識を失ったことから、フォレストスライムは空気中から酸素のみを分離して低濃度酸素の空気を作り出すことができるのではないかと考えた。


 スライムが顔に飛びついたのは低酸素濃度の空気を吸わせるためで、その空気を吸った傭兵は"酸素欠乏症"になり意識を失ったのだと。


 そこでグレアムはその仮説を検証するため、気泡に火を近づけてみた。

 

 炎が上がれば酸素であり、火がすぐに消えれば二酸化炭素、爆発すれば水素と、中学校でやった理科の実験を思い出したのだ。


 結果は激しく燃え上がった。


 間違いないと思った。


 フォレストスライムは空気中から酸素を取り除き、体に低酸素濃度の空気を内包している。


 爪と牙を持たないはずのスライムの隠された爪牙だった。

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