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お宝日誌【7/7 ③】第三夫人ベランジェールの二つ名がもたらすもの…(飛竜でのんびり旅する話じゃないの?)

ノエル  「これでえっくんのお義母さんが全員登場ね」

エクトル 「俺も初めて会うんだが、なんか凄い人らしいよ」

ナタリー 「男が皆一目で惚れちゃう~とか?」

ブランシュ「いいデスねぇ♪ 『ただしエクトルに限る』とかで♪」


ボルフェンク(それじゃただのエクトルホイホイだろう…)


 王宮のとある一室は昨日から作戦本部と化している。もうすでに作戦は完了し解散となるはずが、別の作戦に変わり続行している。


 作戦名は…『式の主役を取り戻せ!』とでも言うのだろうか。


「しかし、よりによってベランジェールの元に飛ぶとはねぇ…」


「あいつは幸運と試練を同時に連れてくるからなぁ…」


 トリスタンとコンスタンスがため息をつく。


 ベランジェールには『騒乱女王』の通り名がある。何故か彼女の周りで面倒事に巻き込まれる人間が後を絶たない故についたアダ名がそれである。


「ギリギリまで王都に来ないように調整した結果の幸運がエクトル達の転移なら、試練はなんだろうな?」


「転移失敗がエクトルくんへの試練じゃないの〜?」


「あれはきっと、何かベランジェールに所縁の物を『物品捜索』に使った結果だろう。むしろあいつがいる間に転移したんだからラッキーと考えた方がいい。飛竜で飛んで来れるからな」


 ナディーヌにトリスタンが返す。


「あいつのもたらす試練がエクトル達に降りかかった場合の影響のデカさは想像がつかん…」


「そうね…あの子だものね」


 トリスタンはフワフワと浮かぶ水玉に向き直る。


「ミズハさま、エクトルに呼ばれたらそのまま映像を繋いで欲しい。あいつが関わる、となると命に関わるからな。」


「わ、わかったのじゃ」


 契約者から遠く離れた場所に分身の片割れを自ら飛ばすのは難しい。分身全てがエクトルの元に行ってしまい、そうなるとトリスタンの元へは戻ってこられない。


 危ない事態になったら、エクトルにミズハを呼び出す指示を出すつもりだが、今はまだその心配はなさそうだ。


「無事に着くといいわね〜♪」


 ナディーヌはお気軽に言うが、そう言うのをとある異世界では『フラグを立てる』と呼んで忌むのを彼女は知らない。



 ――――



「あのう…ベランジェールさん?」


「なぁに?エクトル」


「これを使って『物品捜索』して転移したら、モンペイユの領主館に転移したんですけど…」


 俺はそう言って紫の紐で編まれた辺境伯家の紋章を見せた。


「あら?随分懐かしいものを持ってるわね?それはね、私があの庭でせっせと編み込んだ紋綬なのよ?」


「へー、そんな大事なものだったんですね。パウロさんから説明もなく受け取っていたので知りませんでした。」


「パウロならそうするかもね。あのやろう…」



 なんか最後怖い声が聞こえたけど忘れよう。というか、何故転移先があそこになったのかはわかった。


「ついでに、じゃないけど、これ持って行きなさい」


 ベランジェールさんが俺に手渡した物は、何か小石のようなものだった。


「これは?」


「中庭にある巨石の一部を削り取ったものよ?これがあれば中庭に転移できるでしょ?」


「あ、はい。まあそうですね、ありがとうございます」


 もう転移は当分したくない気分だけど、いざという時の退避先としてはアリかもね。



 ――――



 飛竜の旅は想像よりも快適だった。

 バサバサ羽ばたいたりせず、全然揺れない。恐らく、魔法の力で空を飛び、羽はその発動機関なんだろう。


 そして俺たちは窓から見える絶景に夢中だ。

 古来から人間は空への憧れを捨てていないのだな?と思う。


「うわ〜♪ 空からの景色は素敵ね〜♪」

「人がゴミのようデース♪ 」


 これこれブランシュちゃん…

 その発言は色々不味そうだ。



 ――――



 お昼こそ休憩を挟んだものの、その他はずっと北へ北へと飛び続けて、日が沈む頃に『モンロン』という街に到着した。


 辺境伯領はすでにとっくに出て、この街も小さいながらも男爵領という事だった。



 驚いたのは、飛竜が街中に降り立っても誰も驚かなかった事。王都と辺境伯領を移動する際の拠点らしく、こちらに手を振る人がいるくらい、慣れたものだった。



 飛竜は領主館の中庭にゆっくりと着陸すると、そのまま何処へと飛び去っていった。


 あれ?逃げちゃいましたけど。



「ドランゴくんは笛の音一つで戻って来る賢いペットだから大丈夫よ?」


 飛竜がペットって一体何者なんだろう。ベランジェールさん…



 そうこうするうちに、細身で背の高い身のこなしが速そうなおじさんがこちらにやってきた。


「ここで領主をやっております、

 マクシミリアン=ヴィルドー男爵です。お見知り置きを。」


「エクトルです。よろしく」

「わたくし、エクトルの婚約者のノエルですわ」

「あなたがパウロさんのご息女でしたか」

 ……

 …


 こんな感じで自己紹介が済んだところで、


「さあさあ、夕食の準備も整っておりますので、積もる話はそちらでどうぞ」


 と、執事風の人に促されて中に移動した。


 それほど大きな建物ではないが、窓枠や手摺にも細かい装飾が施されていたりして手が込んでいる。


「結構手が込んでるでしよ?これ、マックス達が自分で彫ったりしてるのよ?」


 格下の男爵家とはいえ、当主をマックス呼ばわりして良いんだろうか?


「姐さんだって喜んで彫刻刀握ってやしたでしょうに」


 男爵様が三下プレーに?!


「エクトルがポカーンとなっちゃったね。」


「エクトルさん、あっしは元々姐さんの子分筆頭だったんですわ。何の因果か、今は貴族なんて柄でもねー事してやすがね?」


 はい?


「この館の住人達は皆、姉さんの盗賊団出身で姉さんには頭が上がらな…恩義があるものばかりなんでさー」


「盗賊団の首領が…ベランジェールさん?」


「ふふふ♪」


「ブランシュも手下を見つけなければなりまセーン!」


 ブランシュちゃんが怪しい目つきになってしまった。まずい…話題を変えないと…



 と思っていたら、突然、


『カーン!カーン!カーン!カーン…』


 と、街の向こうで鐘が鳴り響く。



「マックス!見張り台に行くよ!」


「がってんだ!エクトルさん達もこちらへ!」


 と言うなり、二人玄関の中へ突入して行ってしまった。俺たちも顔を見合わせて『うん』と頷きあうと、二人の後を追いかけた。



 玄関の真正面にある階段を駆け上り、二階の廊下の端に向かう。そこには人一人くらいの幅しかない急な螺旋階段が続いており、そこをグルグルと回りながら登る。


 外ではまた鐘が鳴り響き、さっきとは違い鳴り止まない。



「マックス、この鐘の回数は?」


「強大な魔物が現れた時は鐘を鳴らし続けろと伝えてありやす!」


 それは…ヤバイのが現れた??



 結構登ったところで唐突に開け放たれた扉が目の前に現れ、そこを抜けると屋上だった。


 いや、正確には、塔の最上階と言うべきだろう。二階建ての領主館から太い煙突のように尖塔が伸び、その一番上に俺たちは居た。


 先に登ってた二人が凝視する東の方を見ると、街の城壁を壊し、街の家々や店を破壊しながらこっちへと向かう異形の者だった。



 ――――



「角や黒い羽から悪魔デーモンのようですが、何者か迄はわかりませんデス」


 ブランシュちゃんは抜群の視力で夜目も効くので見えているようだが俺には遠すぎて何かが向かって来る事しか分からない。


 街の東側の住人が逃げ惑い、この領主館に殺到する。



「逃げろー!地獄の業火に焼かれると灰にされるぞー!」


 住人を避難誘導する人が叫んでいる。確かによく見ると、たまに黒い焔のようなものを吐き、建物が崩れ落ちている。


 あんなもの、普通の人が食らったらひとたまりもない。気ばかり焦るが、どんな敵か分からず迂闊には動けない。



 そして間の悪いことに、今日は転移で城に帰るつもりだったので、低レベル呪文は物品捜索や解析で埋めてしまい、『魔法の矢』も『水』も一発ずつしか撃てないのだ。それは恐らくマリアちゃんも同じだろう。


 奴の事がわかれば対処のしようもあるのだが。



 あ!

 知ってそうな人?がいる!



「ミズハ!いるかい?」


『やっと呼んでくれたのぅ♪』


「ミズハ、早速で悪いんだけど、あの悪魔の対処法を知りたい!」



『うーむ…あやつは…』


 ミズハさまが目を凝らして東の方を凝視している気がする。水玉だけど。その答えを待つ静寂を破って、何者かの声が頭に直接声が響きわたった。


【感じるザマス!忌々しい神の波動を感じるザマスよ!】


 え?誰?この変態?声が下品!



 見張り台のみんなも、ベランジェールさん達もキョロキョロ辺りを見回しているので同じものが聞こえてるっぽい。


【我が名は『魔将カスピエル』。人間の皆さんに我に跪く栄誉を与えるザマス。】


 そんな栄誉いらん!


 そして、下の逃げ惑う人々も一斉に東の方を指差して騒いでいるので、同じように聞こえているッポい。


 不味いな。パニックにならないといいけど。


 俺の心配をよそに、一部の正義感に溢れた冒険者風な人たちが、手に得物を携えて悪魔の方に向かってしまった。

 声は聞き取れないが、何か叫びながら突っ込んで行くのが見えた。


 マズイな、と思った瞬間、魔将カスピエルが黒い霧のようなものを口から吐き出した。

 その霧に包まれた冒険者達は、次の瞬間には灰の山に成り果てた。



「ミズハ!あの霧みたいのは?」


『地獄の業火と呼ばれるブレス攻撃じゃの。判定に失敗すると問答無用に灰になる…』


「何か手はないのか?!」


『判定に成功すれば無傷で済むが、それ以外に有効な手立てが見当たらんのじゃ』



 ミズハさまは苦々しく呟いた。

 くそう、ノエルちゃんのダイス判定インチキだって限りがある。


 ならば接近戦は捨てて遠距離で潰すか?!

 とはいえ、火力は半減してしまうし、追いつかれて接近戦になったらいずれにせよジリ貧だ。


 マズイマズイ。

 なんとか打破する手はないか?



 そんな俺の焦りを嘲笑うかのように、カスピエルの不快な声が頭に再び鳴り響く。


【我は魔界の博打に苦杯を飲み、懲罰バツゲームでここに来たザマス。千人分の魂を集め終わったら、とっとと魔界におさらばするザマス♪ 命の惜しい方々は、領主の館にいるあの水の女神にでも助けてもらうと良いザマス♪ ケケケケ】



「なんて事を言いやがる!」


「これじゃアイツの思うツボね…許せない!」



 カスピエルが余計な事を言ったばっかりに、全方位から人々が殺到する。こんな人が密集した所にあの黒い霧を吐かれたら、次々と灰にされてしまう!

 ブレス攻撃への対処の基本は散開なのに!



 そこに、魔道通信機の呼び出し音が鳴る。


【エクトルか?そいつはヤバイ!ベランジェールをなんとか説得してそこから退避せよ!】


 なんで親父は今ここで起きてる事を知ってるかのように言うんだ?


 ブランシュちゃんは無線機に今の状況を簡単に説明している。



『契約者殿、今妾の分身は二つに分かれて、その一方がトリスタン殿の傍に居るのじゃ。』


「なら、どういう状況か、わかってんだろ?親父!!」


【それでも、だ。撤退せよ!今すぐに!】



 そんな事言われても、今眼下には多くの住民たちがいる。文字通り『悪魔の囁き』によりワラにもすがる思いでこちらに逃げてきた無力な人々だ。


 彼らを見捨てて逃げろ?

 どうやって?

 物理的にも、精神的にもそんなの無理だ。


 もうあの悪魔にしてやられたのだ。

 引返し可能ポイントなんてとっくに通り過ぎてんだよ!



 ベランジェールさんは例の笛を吹く。領主であるマックスさんもゆったりとした上着を脱ぎ捨てると、中に皮鎧を着込んでいた。


「マックス、ヤル気満々じゃないの?」

「姐さんが来るんならこのくらいの準備は常識でさあ」



 ニヤっと笑うと、ベランジェールさんはブランシュちゃんから通信機をひったくり、


「『騒乱女王』を止めたいんなら、ちっとはマシな口説き文句でも考えなさいよ、トリスタン!あたしらはひと暴れしてくるからね♪」


 そう言って通信機を叩き切った。


 壊れてないかな?

 そんなバカな事を考えてると。



「あたしらは飛竜で行くよ!お前達もついておいで!」


 そう言うベランジェールさんに即座に反応したのはノエルちゃんだった。


「お義母さま! 5分! 5分だけ時間をください。必ずあの黒い霧をどうにか致します!」


「ほう?」



 しばしの見つめ合いの後、ベランジェールさんは踵を返し、見張り台の端の方へ歩いて行った。


「5分! あの鼻たれ悪魔を引き受けるから、その後は頼んだよ?ノエル」

「はい!!」




 こうして、『魔将カスピエル』との戦いの火蓋が切られようとしていた。


あらすじ:どんでんどんでん♪(怪獣があらわれた!)

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