お宝日誌【7/7 ②】転移は危険よね?…(王道な移動を好む母談)
ノエル 「9レベルになるとね、領主になれるんだって。」
ナタリー 「それならエクトルがやればいいと思うの~♪ 」
ノエル 「魔術師の場合は…魔法使いの塔の主になるみたい」
マリア 「ドル●ーガの塔みたいになるのね?!」
ブランシュ「それではご主人さまが悪魔エクトルで悪者デース!」
ボルフェンク (いっそ、それでもいいんじゃないだろうか?)
王宮のとある一室。相変わらず扉もカーテンも閉ざされ、薄暗い部屋の中で、中央に浮かぶ水玉だけが相変わらずここではない場所の映像を壁に映し続けていた。
「どうやら群がる蜘蛛の洗礼は受けないですんだようだな」
「あれはあんまり見てて楽しいものじゃないわよね~」
トリスタンとナディーヌはほっと息を吐く。
「さーて、もうエクトルたちが戻ってくるのは時間の問題だから、その前にやることやっておくか。ミズハさま、魔法陣の右下の端の方を映してくれないか?」
中央に浮かぶ水玉はちょっと不満そうに、まるでカメラの向きを変えるように、へたり込む少年たちから視点を変え、床に刻まれた古い魔法陣の端の方を映し出す。
「そうそう、もうちょい右の方…よしそのへん!」
こういうとトリスタンは慌てて羊皮紙に何やら描き始める。壁に映る模様と同じものを描き写しているらしい。
「もうダメね~。こうなるとトリスタンは夢中になっちゃっうから。私は紅茶でも淹れて彼らの帰りを待ってようかな」
しばし無言の時間が過ぎ。
壁に映す水玉が何気なしに言葉を発する。
『契約者殿は何をしているのかの?』
「遅いわよね~。もうあの場所には用がないと思うのだけれど。」
お茶を淹れてしまって退屈になったナディーヌが応える。
『そういう意味ではないのじゃがの。』
「ん?」
そんな時、部屋の扉がパタンと開き、第一夫人であるコンスタンスが部屋に入ってきた。
「あれ?エクトルたちはまだ帰ってきてないの?」
「ん~まだなのよ~?」
『それなんじゃがの…何やらさっきから鞄やら指輪やらからモノを引っ張り出してなにかうんうん言っておるんじゃが…』
「なにやってるのかしら!ちょっと映して見せてくださる?」
水玉ことミズハが視点を動かしてエクトルたちを映し出そうとするとそれに待ったをかける人間がいた。
「ちょ、ちょい待ち、今終わるから …… ふう、大体描き終わったかな。いいぜ動かしても」
夢中で写していたトリスタンも描きたいところは大体描き写し終わったようだ。
満足そうな表情でぬるくなってしまった紅茶を構わず口に流し込む。
壁に映る景色は最後に鞄を指輪にしまう少年たちを映し出した。
ゲートの呪文の前段階の魔法陣も薄く輝き、出発寸前のようだ。
少しの間をおいて彼らは光に包まれ、そして映像は途切れた。
ここにいる人間はこの女神ミズハによる不思議魔法の事など当然知らないから途切れても特に何も思わない。
どうせすぐに彼らかはここに魔法の力で戻ってくるので大した問題ではないからだ。
しかし、ミズハだけは少しばかり慌てていた。
映し出す魔法の効果が切れたのではなく、あそこに居たはずのもう一つの分身がここに戻ってきたからだ。
『ん~。リンクが切れたみたいで分身が戻って来てしまったのぉ』
「え?それってどういう意味です?」
少々不安になったコンスタンスが少し大きくなった水玉に問いかける。
『言いにくいのじゃが、どうやら彼らは妾が知らぬ所に飛ばされたようじゃ』
「「「え!!!!」」」
慌ててトリスタンはこの国が全て描かれた広域の地図を広げ、高レベルの探索魔法を唱える。
この作戦中の非常事態のために『使える呪文』として覚えておいた、とっておきのものである。
数秒後、地図上に怪しく光る赤い点が映し出される。
場所は…この地よりもはるか南。海に近い一つの都市。
「なんであいつら…領地に飛んだんだ?」
――――
一瞬の後、気が付くとそこは、想定していた王宮の一室ではなかった。
拡がる芝生に、花壇に割く色とりどりの花。
少し潮の香の混じる風、照りつける太陽。
どうみても屋外である。
体に三人の柔らかい感触があるのを確かめ、俺は思わず誰ともなしに尋ねる。
「王宮にこんな庭あったっけ?」
「後ろの建物も王宮っぽくないですわね…」
ノエルちゃんのいう通り、白っぽい2階建て位の建物以外に周囲に高い建物はない。
王宮自体が結構な高さがあったし、尖塔もあったはずだ。それらが見えないのはおかしい。
「風も日差しも王宮の周囲のものとは違いマスね?」
「でもリモージュのものでもなさそうね~」
どうやら俺たちは予想外の場所に来てしまったらしい。
そこへ、衛兵さんらしき二人が向こうから歩いてくるのが見えた。
定期巡回だろうか?
「今、俺たちがここにいるのを…みられるのはヤバい…よな?」
「まずい。隠れよう!」
一番傍にあったガゼボ(庵?)の影まで移動すると、ちょうど見計らったかのように魔導通信機からピロピロと音がする。
トリスタンからの呼び出し音だ。
「こちらブランシュ。我々は今謎な場所に…」
【詳しい話は後だ!お前たちは今『モンペイユ』の街にいる!なぜそうなったのか?は分からんが、今から…】
ブランシュちゃんの応答を遮るように慌てて話しかけてきた親父はここがモンペイユだと言っていた。
その街の名前、どっかで…
「辺境伯様の領地じゃない!なんで?!」
ノエルちゃんの驚きの声も目の前の状況を見て声が続かなくなる。
そこには、
さっき見かけた衛兵らしき人が大きく反りの入った刀をこちらに向け、
威圧的に見下ろしていた。
「怪しい奴らめ!おとなしく武器を捨ててこちらに来てもらおうか?」
――――
ここは地下の一室。いわゆる地下牢という奴だ。
まさか自分の実家?で不審者扱いされて牢屋に入れられるとは思わなかった。
とはいえ、衛兵さんに対して暴れるのも後々問題になりそうだったから大人しく捕まることにした。
どうせ、あとで自由になれるだろうしね。
俺たちは武器や指輪を取り上げられ、鎧はそのままに大きめの一室にまとめて放り込まれている。
退屈なので、なぜこんなことになったのか振り返ってみた。
まず根本の原因は、王宮へと帰る方法をちゃんと考えておくのを忘れたことだ。
親父たちはいくらでもそんなものを持っていたのだろうが、来たばかりの俺たちにはそんな物はない。
これは俺のミス…なんだろうか?
親父もボケボケだと思うなあ。
次が、帰る方法が分からない、と判明した時に、親父に連絡をしなかったこと。
これは俺が悪い…だろうな。
みんなあの蜘蛛エリアを抜けるので慌てていたし、抜けたら抜けたで気が抜けてしまった。
親父に相談したら、何か別の手段が見つかったかもしれない。
失敗、失敗。
それから、王宮に帰りつくためのアイテムの選定を見誤ったことだ。
せめてリモージュ所縁のアイテムや、ひょっとしたらパン窯の方がマシだったかもしれない。
「そうでもないわよ?」
突然牢屋の俺たちの前に現れた、真っ赤なドレスに身を包んだ美女が俺の思考を遮った。
というか、なぜ俺の考えていることが分かったんだろう?
余りにも場違いな人の登場で唖然とする俺たちに向かって、その女性は言葉を続けた。
「私の名は『ベランジェール=ゴティア』。エクトルの三人の母のうちの一人、ということになるのかしらね?」
「え~?!」
――――
ベランジェール=ゴティア。
俺は会ったことがない、親父の元冒険者仲間にして、主に領地の留守を預かる第三夫人。
「ごめんなさいね、エクトル。まさかあなた達がここに来るとは思わなくて。衛兵も職務に忠実だっただけなので、悪く思わないでくださいね?」
「いえ、突然俺たちが押し掛けたのですから、むしろ謝らなければならないのは俺たちの方で。」
どういう事が裏で起こったのか分からないが、俺たちは晴れて自由の身になり、このベランジェールさんと話ながら、地上への階段を登っていた。もちろん取り上げられていたものは全て返してもらえた。
それにしても、意外だ。
第一夫人がしっかり者、第二夫人がぽわぽわ系、ときたので、なんとなく第三夫人はブランシュちゃんのような人を想像していたのだが、思いっきり予想が外れたらしい。妖艶な魅力を持つ如何にも大人の女性という感じだ。
「なんかご主人さまが失礼な比較をしている匂いがするのデス!」
ブランシュちゃんも人の心を読むのは止めようね?じゃなくて、比較なんてしてないから!
「色々話したいことはあるけど、今は時間がないの。道中で自己紹介するとして、まずはあれに乗り込んで、王都に向かいましょう?」
地上に出てちょっとした中庭のような広いスペースに出ると、彼女がとあるものを指差しながら言った。
指の先にあるものは…馬を繋がれていない馬車?
馬車の割には全長が倍くらいあり、屋根が妙にがっちりとした造りになっている。
彼女が先導して、馬車の背面の扉を開け、俺たちを中に招きいれる。
中は二人掛けソファーのような座席が全て前を向いて、左右に1脚ずつ、真ん中の通路を挟むように備えていた。
入るとわかるのだが、その左右1脚ずつのソファーが、前後に4列並んでいる。
定員が4×4の16席とは予想以上に大きかった。各ソファーの壁際はちゃんと窓になっていて外の様子が見える。
最前列には鎧を着た男性が二人、それぞれ両脇にすでに座っていた。なので、俺たちはちょっと遠慮して後ろの方の席を確保することにした。
こういうとき、ボルフェンクたちはあまり悩まないですむのがちょっと羨ましい。
こっちはノエルちゃんとブランシュちゃんがじゃんけんを始めている…
結局、右最後尾がブランシュちゃんと俺。その前がノエルちゃんと姉さん、俺たちの横の左座席がボルフェンクたちとなった。
彼女は最後に乗り込む時に、いつの間にか傍にいた執事風の真摯に二言三言伝えると、扉を閉めた。
「あの、ベランジェールさま?この馬車ものすごく大きいのですわね?」
「ふふふ。馬で牽けるのか?って顔をしてるわね。そのうちわかるわよ?」
ベランジェールさんはニヤリと笑ってノエルちゃんの質問に答える。
そのまま、姉さんの左横、誰も座っていない座席の通路側に半分俺たちの方を向きながら腰を下ろす。
「貴女がノエルさんで、その隣がナタリーさんね?」
「「はい。初めまして。」」
「エクトルの隣がブランシュさん?」
「はい、そうですの」
「あなた達がボルフェンクくんとマリアさんね?」
「「はい、よろしくお願いします」」
「コンスタンスやナディーヌから、色々聞いているわよ?やらかしているみたいね?」
「え…」
何を聞いたのだろう。俺の知らない間に噂が独り歩きしていないといいんだけど。
「冒険者にとって、やらかして有名になるのは、狙った通りなんじゃないの?」
「いえ、俺たちはあまり目立ちたくないというか、なぜこうなった?というか…」
ついこの間まで、ゴブリンたちと熱い勝負をしていたというのに、いつの間にやらワイバーンだの火竜だの。
なんかもう大昔の出来事のようだな。
「あなたたちはね、一言で言えば、神のお気に入りになってしまったの。だから、エクトル…諦めた方がいいわよ?」
この人いきなり何を言い出すんだ?
それを聞いた女の子たちがクスクス笑ってる。
「あ! 来たわね? ちょっと揺れるわよ?」
いきなりベランジェールさんが意味不明なことを言い、胸の谷間から銀のストローのようなものをいきなり咥えて息を吹き込んだ。てっきり笛かと思ったが音はほとんど出なかった。
「来るわよ?掴まって?!」
掴まるって何に?とりあえず手すりがあったので掴んでみた。
ブランシュちゃんは俺の右腕を抱え込んでいる。あ…極楽…
フワフワ感に包まれていると、
いきなり『 ガコーン!』という音と共に馬車が横に揺れた。
そしてその直後。
いきなりの浮遊感とともに景色が下に流れ始めた。
地面がみるみる下に、遠くなっていく…
「この馬車ね? 馬じゃなくて、飛竜が運ぶのよ? 空飛ぶの。素敵でしょ?」
そう言って舌を出すベランジェールさんは、すっかり悪戯っ子の顔をして笑っていた。
「これぞ、王道な移動でしよ?」
今度はどこに向かうのだろう。。。。
あらすじ 飛竜でヘコヘコ飛んで結婚式当日に間に合うのか?




