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ロリな魔王と変態勇者  作者: 鹿鬼 シータ
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オリガノン帝王



「ごめんなさい…」


 場所はオリガノン帝国では中ランクの宿屋の一室。ギルドで合流した一行は一先ず落ち込む戦士を宥めながら宿に向かい、部屋に備え付けられた浴場にて旅の汗を流す。その後、軽い食事をして戦士を立ち直らせつつ二人は心の準備を行った。


「さて、聞こうか。」


 切り出したのは神官。


「無駄な抵抗は止めておけ。」


「嫌だ。聞きたくねぇ。」


 こっそり、耳をふさぐ魔法使いを神官が咎める。

 そして、語りだした戦士の話をまとめるとこんな感じ。


「ほら行くよ。てか、見た目ほど酷くないんだから自分で歩いてよ。」


 二人と別れて歩き出した戦士は引きずる荷物のせいで余計な注目を浴びていることに気付き文句を呟く。言われた勇者はされるがまま大人しくぼーっと周囲に視線を向けている。この手を離したらすぐに駆けだすんだろうなぁ、と戦士はいろいろ諦め、大人しく宿を探す。奇異の目で見られながら聞き込みを行い、目標とする水準の宿に当たりを付けるまでそう時間はかからなかった。問題はこの後。目的の宿で受付を終えた時、ふと周囲を見渡すと変態の姿が見当たらないことに気が付いた。


「ちょっ、えぇ…」


 慌てて宿を飛び出すとすぐにその姿を発見し胸をなでおろす。


「勝手に居なくなるのは止めてよね。」


 どっと来る疲れに辟易しながら近づくと勇者の異変に気付く。


「リーダー?」


 どこか遠くの空をじっと見つめ、周囲を行きかう人の喧騒も聞こえていないかのように茫然と空に目を…いや、勇者は目を瞑っていた。呼吸すらも忘れたように微動だにしない勇者を見て戦士は何かの只ならぬ予感を感じ取り戦慄した。


「りー」


 駆け出す戦士。


「…呼んでいる。」


 勇者の呟きが聞こえた。予感が確信に変わる。戦士はまた一歩力強く踏み出すと勇者に両手を伸ばした。


「っ」


 だが、無情にもその手は空を切る。


「幼女の笑顔が俺を強くする!幼女の嘆きは俺を引き裂く!幼女の悲鳴が俺を呼ぶ!!今行くぞ!まだ見ぬ幼女が為、俺、緊急出動!!」


 一瞬で姿を消した勇者の雄叫びが空に響く。それを聞きながら手足を地面につけた戦士は震える。そのまま深呼吸を一回、二回、大きく吸い込んでぇ……


「リーダーの……あほぉおお!!」


 勇者はどこまで行っても変態である。


「「はぁ…」」


 事の顛末を聞いた二人。想像のど真ん中を行く勇者の奇行にいつまで経っても慣れることはなく頭痛と吐き気に襲われながら更に溜息を吐く。気分が悪い。これはもう病気なんじゃないかと神官は思う。病名、ユウシャハラターツ。アホな考えを頭の隅に追いやりヒールを掛けるもやはり収まらない不快感に酒が欲しくなるのだった。


「よし、勇者は死んだ。今は次の話だ。」


 風評対策を一番重んじる魔法使いがそう言った。だが、本心では捕縛を優先したいと目元に輝く雫が物語っている。


「何か緊急な要請でもあった?」


 それに気づいた戦士はそれより重要な案件があるのだと察しながら質問する。


「あぁ。指名依頼だ。」


「…相手は?」


「皇帝だよ。」


 指名依頼。それは読んで字のごとく不特定多数の冒険者に向けたものではなく特定の相手を指名して発注される依頼である。二手に分かれた後、魔法使いと神官はギルドに情報収集のためギルドカードを提出していた。それにより勇者一行がこの国に来ていることを知り、これ幸いにとギルドマスターに報告が行き、そのまま皇帝へと情報が届けられ、皇帝の命に従い代理の者が勇者一行へ依頼を出し、魔法使いと神官はそれを受け、合流した。と言う流れである。


「それは断れないね…」


「あぁ。だが、今回の依頼はあくまでもあたしら含めた一行への依頼だ。最悪、勇者は別件で動いている事にしてあたしらだけで片づけても問題はない…はず。」


「その間、あれが何の問題も起こさずにいれたらの話だがな…。」


「やめろ…考えただけでも恐ろしい…」




 そして、翌日。

 一行は迎えに来た馬車に揺られ宮廷へとやってきた。そこはダンジョンで栄えたと言うだけはあり、細かな装飾や金銀などを贅沢に使った華やかさはほとんどなく、最低限の装飾のみが施されは実に実用的で堅牢な建物だった。


「では、私はここまでですので、後は彼らの後にお願いします。」


 そう言って、ここまで運んでくれた御者は去り、代わりに武装した数人の兵士がやってくる。


「お待ちしておりました。皇帝陛下の準備は整っておられます。このまますぐにお会いしていただく事は出来ますでしょうか?」


 丁寧に腰を折り問う兵士。その様子と言葉に一行は少々驚きながらも快諾する。本来、高貴な者と会う時は必ず待たされるし、兵士たちも表に出すことは少ないが大概上から目線で有無を言わせず、ついてこいの一言と適当に豪華な部屋に連れてこられて待っていろと言われてあからさまな監視を置かれたりすることばかりだったのに。それが、今回初めから丁寧な対応を受け、更に皇帝は既にこちらを待っていると言う。これは今回勇者を伴わずに来たことが逆に無礼な結果になったなと魔法使いは内心舌打ちをするのであった。


「やぁ。私がこの国の皇帝、リオン・オリガノンだ。今回は指名依頼に応じてくれた事、深く感謝するよ。」


 公式ではないと言いたいのか、会談の場は謁見の間ではなく最低限、客をもてなすために作られたであろう一室で行われた。入ってすぐに座すように言われてソファーに並んで座る三人の前にその老人は居た。リオンと名乗った男はそのまま頭を下げる。


「んなっ!やめていただきたい。あたしらのような冒険者なんかにそんな事をされてはなりません。」


 そんなリオンを見て魔法使いは口早にそう言うと床に膝をつき首を垂れる。一行他二人もそれにならう。


「いいんだ。君たちこそ頭を上げて。さぁ、座っておくれ。」


「……はっ。」


 これ以上続けるのは逆に失礼になると判断した一行は言われるがままにソファーに座りなおす。


「恐縮させてしまったね。気づいていると思うけど今回は公式の場ではない。だから、楽にしてほしいな。」


 魔法使いは柔和な笑みを浮かべる皇帝の顔をじっと見つめる。本来ならば不敬と言われるかもしれないが今回は良いだろう。と、皇帝の顔を見て入室してすぐに感じたものが間違いではないと確信を得る。化粧で隠されているが頬はこけ、落ちくぼんだ目元には隈が浮かび肌の色も悪い。死相が出ている。それが魔法使いの素直な感想だった。それでも、皇帝としての風格が決して弱ったようには見せない。


「…失礼ですが、本題に入る前に陛下の」


「ふふっ、気にしないでおくれ。私も年なんだ。」


 参ったよ。そんな言葉が表情に現れる。


「ところで。」


 不意打ち気味に空気が変わった。ピンと張りつめられた空気に一行は自然と姿勢を正す。威圧ではない。これが王の風格か。柔和な笑みを受かべ、死相すら浮かんでいた老人はもういない。思わず魔法使いは唾をのむ。


「今回、失礼を承知で公式の場は用意しなかった。だが、それはそちらを気遣っての事…。わかるかね?」


 勇者の事を言っているのだ。確かに、あの勇者は、基、一行は確かな実績と実力がある。だが、大概の人間は言うだろう。勇者自体はそれを帳消しにして余りある奇抜な言動を取る阿呆だと。知る人ぞ知る変態的性癖を持つ勇者。彼は貴族からは嫌われている。実力はあっても華が無い品が無い。所詮は薄汚い平民の成り上がりだと。今回、皇帝はそれを考慮してくれたのだと言う。いくらダンジョン経営に重きを置き冒険者の有能性がわかっているこの国であっても血筋に拘る貴族は一定数存在する。冒険者など卑しき身分の者がなると本気で思っているような、そんな貴族が。室内に入ってすぐに魔法使いはそれに思い当たったが後の祭りである。鋭い眼光でこちらを見据える皇帝。何か言わなくては。焦る魔法使い。だが、先に口を開いたのは皇帝の方だった。


「ふっ…こちらもいきなり呼びつけておいて追い詰めるような言い方はなかったね。」


 ピンと張りつめていた空気が緩む。また、柔和な表情に戻った皇帝はゆったりとソファーに座り直す。


「あの…」


「あぁ、すまないすまない。彼の話は私も聞いていてね。是非とも話をしたかったんだ。」


「話…ですか?」


 あのアホと話す事なんてあるのだろうか。素直に魔法使いはそう思う。


「そうだね。例えば、なんで彼はそこまでして貴族を嫌うのか……とかね。」


「「っ…」」


 これに反応を見せたのは魔法使いと神官だった。戦士は分からない様で首をかしげている。


「ふむ。心当たりはあると。では、そんな行動を諫めているのは虚勢かな?他にも、君たちは決して名を名乗らない。勇者、神官、魔法使い、戦士。自己紹介をするときも仲間内で呼び合う時すらも。それには一体何の…」


 皇帝がそこまで口にした時だった。魔法使いだけではない。神官も戦士も三人とも揃って殺気を出した。思わずではない意図的に、はっきりと拒絶の意味を込めて。


「これはこれは。余りに無遠慮に踏み込み過ぎたかな。失礼した。老い先短い老人のほんの興味本位と言う奴だ。もうしないよ。だから許して貰えると助かるなぁ。」


 先ほどとは違う意味で張りつめる空気。皇帝の後ろと一行をここまで送り届けて扉の前で控えていた兵たちも武器に手を掛け身構えている。だが、兵も皇帝もこの三人の内一人でも行動に出たら間違いなく止められないだろうとはっきりわかっていた。


「ふぅ……失礼致しました。」


「うん。こちらこそ、だね。いゃぁ、興味本位で何でもかんでも聞くもんじゃなかったね緊張だけででぽっくりと逝ってしまうかと思ったよ。これは逆に彼が居なくて良かったって感じだね。」


 そう言ってカラカラと笑う皇帝は明らかに消耗していた。冗談ではなく一行の威圧は堪えたらしい。


「失礼。『ヒーリング』」


 それを見て、すっと皇帝に近づいたのは神官。理由は何であれ本来なら諫めるべき兵たちは先ほどの威圧を抜きにしても神官の動きを捕えることすらできなかった事に背筋が冷える。


「ほぉ…これはこれは。ありがとう。」


 皇帝も初めこそ驚いた様子だったが淡い光に包まれると心地よさそうに目を閉じた。


「この位で結構。これ以上は余りの心地よさに昇天してしまいそうだよ。私にはまだやることがあるし、あまり君たちの時間も無駄にしては悪いからね。」


 神官を止める皇帝。その表情は王の顔でも最初の柔和な顔でもなく本当にくたびれたただの老人に見えた。いろいろと緊張が解けてしまったのだろう。本当に言葉通りになりそうで先ほどの威圧はやり過ぎたと申し訳ない気持ちになる。


「最近はね、私も自分の懐から高額な御布施を払って高位の神官にヒーリングを掛けてもらっていたんだけど、流石は、かの有名な……危ない危ない。本当に気が抜けてしまったらしい。さて、そろそろ本題に入らせてもらおうと思うがよろしいかな?」


 切り替えが済んだのだろう。そこに居たのは王だった。



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