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第104話「カブトムシ」

「今日、子供がですね……」

「はぁ」

「売り場の棚に何もないのを見て、ちょっとシュンとしてたんですよ」

「完売したら、なにもないですもんね」

「子供がちょっとかわいそうかな……って」


「むかーっ!」

「コンちゃん、働いてっ!」

「何故わらわが働かねばならんのじゃっ!」

「いいから働くんですよっ!」

「うわーん」

 さっきからコンちゃん、泣きごとばっかりなの。

 日曜日でお客さんが多くて大変なんですが……

「ポンちゃん、またお客であります」

「シロちゃんは空いた席を片付けて、コンちゃんは注文を取るっ!」

「了解であります」

「ポンから命令されるなど……」

 コンちゃん、まだ文句言ってます。

「じゃ、おそば、運ぶ? ねえ? 重いよ?」

「うう……」

 コンちゃん、しぶしぶ注文を取りに行きました。

 そうそう、今日のわたし達はパン屋の娘じゃないんですよ。

 ぽんた王国のおそば屋さんの娘なの。

 毎週日曜日は家族連れのお客が「ニンジャ屋敷」目当てでやって来るらしいの。

 で、ニンジャ屋敷はポン太・ポン吉の当番。

 おそば屋さんが長老だけじゃ回らないので、わたし達がヘルプしてるんです。

 パン屋さんはほっといて大丈夫かですって?

 パン屋さんは店長さんとミコちゃん、レッドとみどりでやってるから大丈夫。

 わたし、厨房の長老の所に行きます。

「はい、ポンちゃん、ごぼう天とエビ天と丸天」

「えっと、5番でしたね」

「ポンちゃんは前にもやってもらったから、安心できます」

「シロちゃんとコンちゃんも頑張ってますよ」

「コンちゃんは微妙ですね」

「長老、ズケズケ言いますね」

「あれでキビキビ働いてくれたら、いい娘なんですけどね」

「今の娘はそんなもんですよ……」

 わたし、言っておいてから、

「コンちゃん、ミコちゃんに負けず劣らず平家の落ち武者世代のはず」

「美人は使い物にならないんでしょうかね?」

「長老……それではわたしは美人ではないと?」

「早くおそば、持って行ってください」

 で、ですね、パン屋さんとおそば屋さん……

 正直言うとおそば屋さんの方が忙しいです。

 お客が次から次に来るのもあるけど……

 きっと「ニンジャ屋敷」がお隣だからですよ。

 お客さんが来るペースがパン屋さんとダンチなの!

「コンちゃん、ちょっといいですか?」

 お! めずらしく長老がコンちゃんを呼んでます。

「何なのじゃ!」

「老人ホームに配達に……」

「行くっ!」

 コンちゃん、しっぽ振りまくり。

 ラップされたドンブリを受け取ろうとしています。

 わたし、そんな女キツネのしっぽをつかんで、

「長老、なにコンちゃんに配達なんかさせるんですかっ!」

「こ、これ、ポン、しっぽをつかむでないっ!」

「この女キツネは逃げる気満々じゃないですかっ!」

「む、わらわが逃げると言うかのっ!」

「しっぽを見ればわかるんですっ!」

「神を信じぬのかっ!」

「逃げますよね?」

「逃げぬ!」

「絶対逃げるっ!」

「にーげーぬー!」

 わたし達が言い合っている間に、長老はシロちゃんに渡しちゃいました。

 行ってしまうシロちゃんを見て、コンちゃん暗黒オーラを背負って、

「ポン、おぬし、わらわが抜け出すチャンスをつぶしおったな」

「ほーら、逃げる気だった」

「ゆるさーんっ!」

 もう、コンちゃん、本当に働く気ゼロなんだから。

 わたし、長老に目をやります。

 すぐに長老、ツケノートを出して、

「コンちゃん、真面目にやってください、卑弥呼さまに言いますよ」

 真っ青になるツケの貯めっぷり。

 コンちゃん、しっぽがしゅんとなっちゃいました。

「わらわ、注文を取りに行くのじゃ」

 なんだかちょっとかわいそうかな。

 でもでも、ツケを貯めるのがいけないんです。


 さーて、夕日が真っ赤、閉店時間。

「はい、ポンちゃんもコンちゃんも、シロちゃんもありがとうございました」

 長老、わたし達の前に四角いセイロを出してくれます。

 クンクン、おいしそうなニオイです。

「なんですか、長老、おそばじゃないです」

「ふふ、ポン吉が捕まえてきたんですよ」

 って、コンちゃん、もう蓋を開けてます。

「うなぎ~」

 目が少女漫画になってるの。

 わたしとシロちゃん、ニオイで美味しいのはわかるけど……

「シロちゃん、食べた事ある?」

「本官もテレビで見ただけであります」

 でもでも、コンちゃんの食べっぷりを見ていたら美味しいの確実です。

 一口……ほっぺも落ちる美味しさです。言葉もありません。

「おなか空いた~」

 隣でニンジャ屋敷をやっていたポン太ポン吉もやって来ます。

 お豆腐屋さんのおじいちゃん・おばあちゃんも一緒なの。

 パン屋さんのメンバーもやって来ました。

 長老、みんなの前にセイロを配りながら、

「今日は手伝っていただいてありがとうございました」

 みんな、うなぎをパクパク食べてるの。

 わたし、食べ終わっちゃったからお茶を配りましょう。

 そうそう、うなぎ、ポン吉が捕ってきたって言ってました。

 ポン吉にお茶を出しながら、

「はい、ポン吉、お茶」

「ポン姉、サンキュー」

「ポン吉、うなぎってどんなのです?」

「魚だぜ、今度一緒に捕りに行く?」

「うん、連れてって……魚なら釣り?」

「罠をしかけるぜ」

 ふふ、うなぎ、おいしかったから、楽しみです。

 でもでも、どんな魚なんでしょうね。

「はい、ポン太も一杯どーぞ」

「ポン姉、ありがとう」

「あの……ニンジャ屋敷、忙しかったです?」

「うん……ポン姉、ちょっと」

「なんですか?」

 ちょっとシリアスな顔のポン太。

 どうしたんでしょ?

「今日のお店なんですけど……」

「?」

「売り切れてばっかりなんです」

「いいじゃないですか……店長さん、パン屋さんはどうでした?」

 わたしが聞くと、店長さん、箸を止めて、

「全部は売れてないなぁ」

「ほら、ポン太、全部売れるのっていい事ですよ」

 わたし、完売はいいって思ったけど、ポン太の表情は晴れません。

「ダメなんですか?」

「今日、子供がですね……」

「はぁ」

「売り場の棚に何もないのを見て、ちょっとシュンとしてたんですよ」

「完売したら、なにもないですもんね」

「子供がちょっとかわいそうかな……って」

 って、すごい勢いで影が動きます。

 ポン太、そんな影に捕まっちゃいました。

「きゃーん、なんていい子なのーっ!」

 ミコちゃんです、ポン太を抱きしめて、ほっぺすりすり。

「ポン太は何かお店で売る物が欲しい……ですよね」

「子供が多いから、おもちゃとかがいいかなって」

「ふむ~」

 わたし、お店を見回します。

 いました、配達人です。

「ちょっとちょっと、配達人さんっ!」

「何、ポンちゃん」

「ポン太が売り物のおもちゃ、欲しいそうです」

 配達人、やって来てポン太の前に座ります。

「前にも相談受けたんだよ~」

「あ、もう相談してるんですね」

 配達人、ちょっと難しそうな顔で、

「一番はお金なんだけどさー」

「まけてあげてよー」

「ポンちゃん、ポン太の肩持つね」

「だって、頑張ってるし」

「ぽんた王国は前から付き合いあるからなんだけど……」

 配達人が言うのに、みんな注目します。

 聞いてないのはコンちゃんくらい、モリモリ食べてる最中なの。

「藁ぶき屋根のお店でさ、既製品売るってのもどーかなって思うんだ」

「わかりません」

「うちで扱ってるおもちゃってさ、プラスチックのおもちゃとか」

「駄菓子屋さんで売ってるみたいな」

「うん」

「子供、喜びそうですよ」

「でもな~」

 ミコちゃん、ポン太を抱きしめたまま、

「木で作ったおもちゃなら、老人ホームで作ってくれないかしら?」

 一段落したコンちゃん、ほっぺにごはん粒つけて、

「ミコのアイデア、よいが爺婆はたくさんは無理なのじゃ」

「そうねえ」

 わたし、シロちゃんを見ます。

「え……何故本官を見るであります?」

「意見が出てないの、シロちゃんくらいかなって」

「はぁ……本官に考えろと……」

 シロちゃん、ちょっと視線が泳いでから、

「花屋の娘に聞いてみてはどうでありますか」

「え……花屋さん?」

「であります」

 途端に聞いていた配達人もポンと手を打ちます。

「あそこ、果物も作ってるから、分けてもらえるよ」

「本官もそう思ったであります」

 でも、ポン太は不安そう。

「そんなに予算はないんですよ」

「ポン太、わたしも一緒に行くから……話だけでもしてみようよ」

 わたし、ポン太と一緒に花屋さんに行く事になりました。


「こんにちは~」

 花屋さんに到着です。

 花屋さんって言っても、家があるだけなんですね。

 ドアが開いて、花屋の娘さん。

「あ、ポンちゃん……この子は弟さん?」

 花屋の娘さん、ポン太を見て首を傾げて、

「もうちょっと小さくて、キツネさんで……えっと、レッドちゃん」

「この子はポン太、村の……ぽんた王国って知ってます?」

「あ、知ってる、新しくなったお豆腐屋さん」

 わたし達がそんな事を言っていると、ポン太はぺこり。

「はじめまして、ポン太です」

「はい、はじめまして……で、うちに何か用?」

 花屋の娘、ポン太と握手。

 ポン太「ぽんた王国」の説明をして、

「そこで売る物を探しているんです」

「へぇ……お豆腐だけじゃなくて、ニンジャ屋敷もやってるんだ……今度私も行くね」

 花屋の娘さん、ニコニコ顔で、

「うちの農園案内するけど……どうかしら」

 わたし、そんな花屋の娘の腕を捕まえます。

「まけてくださいっ!」

「ポンちゃんストレート……」

「助けると思って!」

 花屋の娘さん、わたしを見て、ポン太を見ます。

「お店で売る物が欲しいのね」

「よろしくおねがいします」

「いいわよ……えっと、ポン太くん」

「はい……」

「じゃ、お代はニンジャ屋敷タダとか、お食事タダで」

 むー、それって高いのか安いのか……

 花屋の娘さんに連れられて畑の隅。

 娘さん、かごを持ってやって来ました。

「これはお土産にあげるわ」

 桃です、スイカもあります!

 ポン太もわたしも大喜び。

 花屋の娘さん、さらに、

「お店は休みに日だけやってるなら、その時卸せばいいの?」

「はい……でも、こんなにいいんですか?」

「よーく見て」

「?」

 わたしもポン太も、もらった桃やスイカを見ます。

 なにかな?

「あ!」

 先に声を上げたのはポン太。

「どうしたんです?」

「ポン姉、これは規格外ってヤツです」

「規格外?」

 花屋の娘さん、腕組みして頷きながら、

「綱取興業はそこまでうるさくないけど……一応見てくれの悪いのは外してるの」

「見てくれ、悪いですか?」

 わたし、びっくりです。

 全然おかしくないのに。

「全部、ちょっと小さいの」

「そ、そうなんだ……」

 ポン太、心配そうな顔で、

「あの綱取興業さんに卸しているんですよね?」

「そうよ」

「これでも受け取ってくれるでしょう?」

「そうね、買ってくれるわ」

「本当に……いいんですか?」

「ゴメン!」

 花屋の娘、いきなり手を合わせませす。

 ここまで見せつけて「今のナシ」とか言わないで!

「ポン太くんにあげるのはいいんだけど……」

「?」

「そんなにたくさんは卸せないのよ……果物は『ついで』だから」

 それはわたしもわかりました。

「いつも出せないって事ですよね?」

「そう……ごめんなさい」

 花屋の娘さん、畑を見回して、

「野菜も出せるけど、きっと『ずっと』は無理」

「はぁ……」

 ポン太、ちょっと残念そうな顔。

 まぁ、娘さん一人でやってる農園だから、たくさんは無理でしょ。

 ポン太が落ち込み、花屋の娘が愛想笑いしている時……

 わたしの野良嗅覚に「なにか」を感じました。

 甘い、腐った、森のニオイ!

 花屋の娘さんの足元の「桶」からするんです。

「あの、その桶はなんですか?」

「あ、これ? これは……」

 わたしとポン太が近付くと、娘さんが蓋を開けてくれます。

 な、中には黒いツヤツヤの虫がびっしり!

「う、うわぁ!」

 Gじゃないんです、カブトムシ。

 でも……桶の中に「うじゃ」っているの。

 モゾモゾうごめいているのを見ると背筋がゾゾってしちゃいます。

「桃に着くのよね……ここじゃ害虫よ」

 ポン太の顔がパァっと明るくなりました。

「コレ、コレを全部くださいっ!」

「「え?」」

 わたしと娘さん、はもっちゃいました。


 そして日曜日……

 おそば屋さんに集まったみんな。

 今日は花屋の娘さんもいるんです。

 ポン太とポン吉以外の表情はこわばってるの。

 ポン太、嬉しそうに、

「カブトムシで10万円っ!」

「やったー!」

 ポン吉ぴょんぴょん跳ねてます。

 店長さんも花屋の娘さんも固まってます。

「「スゴ……」」

 二人とも同じ言葉をつぶやいてフリーズ。

 わたしだってびっくりです。



「むぅ~、何故タヌキそばにはおあげがないのじゃ」

「コンちゃん、おあげ入ってたらキツネそばじゃない?」

「わらわ、タヌキなんか好かん」

「コンちゃん、おあげ食べたいだけだよね」

「おあげ欲しい」


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