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第103話「お空が飛びたくて」

 レッドがカラスとにらみ合っていたのは空が飛びたかったからだそーです。

 鳥につかまって飛ぶなんてかわいい発想ですよ。

 でもでも、お空を飛びたいとは……

 コンちゃんの術ですぐに解決です!

 でもでも、こーゆー時コンちゃんはなにもしないんです、ええ!


 わたしとコンちゃん、お昼のお茶でゆっくりしているの。

 お客さんはいませんね。

 そして駐車場にも、車はないの。

 そんなガランとした駐車場にレッドがいます。

「ねぇねぇ、コンちゃん」

「何じゃ、ポン」

「レッド、さっきからなにやってると思います?」

「うん、レッドかの?」

 お茶も終わって眠りそうになっていたコンちゃん。

 わたしの言葉にコンちゃん、レッドの方を見ます。

「あれは……何をやっておるのかの?」

「だから、それを聞いてるんです」

「ふむ」

 レッド、駐車場でカラスと対峙してるんです。

 さっきから、じっとカラスを見つめているレッド。

 カラスは3羽いて、並んでレッドを見つめています。

 レッドが一歩前に出ると、カラスは一歩後退。

 カラスが一歩前に出ると、レッドが一歩バックするの。

「はないちもんめ……かの?」

「レッド一人ですよ」

「うむ~」

「違うに決まってるでしょ!」

「レッドは手にパンを持っておらんかの」

「あ……あれはおやつのメロンパン」

 そう、さっき一緒にお茶をした時のです。

 レッド、メロンパンをちぎって投げました。

 カラスの1羽がそれをキャッチ。

 レッドは何度か投げますけど……えさをあげてるだけ?

「捕まえたいようじゃの」

 カラスが落ちたのをつついているのに、レッドにじり寄るの。

 でも、カラスもすぐに顔をあげてレッドをにらみ返し。

「レッドじゃ捕まえられないんじゃないでしょうか」

「仔キツネゆえ、のう」

 と、2羽がパンを食べているのにレッド接近。

 今度はカラス、顔を上げません。

 でもでも、1羽がレッドの背後。

 2羽を捕まえようと近いているレッドのしっぽをつつきます。

 ああ、レッド、しっぽを見てあわててます。

 今度は前の2羽が足元を攻めるの。

 逃げ出すレッドを追う3羽カラス。

「やられてますね」

「まぁ、そんなものじゃろう」

「助けに行きますか」

「男の子ゆえ、ほっといてよくないかの」

「見てられません」

「まぁ、みっともないのう」

 わたしがお店を出ようとすると、綱取興業の車がやって来ました。

 カラス、退散、レッドわたしに飛びつきます。

「わーん」

「レッド、弱々です」

「パンあげたのに~」

「はいはい」

 って、車から配達人が降りてきました。

「レッド、カラスにやられてたけど」

「はいたつにん~」

「どうしたの?」

「それは~」

 わたしが聞きたかったの、配達人が代わりに聞いてくれました。

 レッド、わたしから配達人に飛び移るとしがみついて、

「カラスはとびますよ」

「そーだね」

「たのしそう」

「そーかな?」

 わたし、レッドの泣き顔をハンカチで拭いてあげながら、

「どうしたかったんですか?」

「3びきいたら、とべませぬか?」

 わたしと配達人、ポカンとします。

「ねぇねぇ、レッド、カラスをつかまえて飛びたかったの?」

「まんがでありまする~」

「ああ、アニメなんかでありそうな展開ですね~」

「そらをとびたいですよ」

 わたし達、お店に入ります。

 配達人にお茶を出しながら、

「だからってカラスはないでしょ」

「なにゆえ?」

「レッドはここに来る前、どーでしたか?」

「?」

 そーです、レッドがまだ赤毛の仔キツネだった頃の話です。

 3クールの31話の出来事なの。

「レッド、カラスに襲われてたでしょ!」

「そうでしたっけ?」

「もう、平和ボケしてませんか」

「さぁ」

 配達人、お茶を一口してから、

「カラスじゃなくて、空、飛べないの?」

 配達人、明らかにコンちゃんを見ているの。

 コンちゃんは配達人用に出したメロンパンをつまみ食いしながら、

「何故わらわを見るのじゃ」

 配達人、今度はわたしを見てテレパシーが来ました。

『ねぇねぇ、ポンちゃん』

『なんですか? テレパシーで?』

『コンちゃん神さまで飛べるよね』

『し、知ってるんですか?』

『うん、飛んでるところ、見た事あるし』

『配達人……目、節穴じゃないんですね』

『怒るよ』

『まぁ……コンちゃん、確かに飛べます、一緒に飛んだし』

 わたしと配達人が目をやると……

 レッドと一緒になってメロンパンを食べているコンちゃんが、

『何故わらわを見るのじゃ』

『ねぇねぇ、コンちゃん、一緒に飛んであげたら?』

『面倒なのじゃ』

『えー!』

『それに……』

 コンちゃん、メロンパンをモリモリ食べてるレッドを見ながら、

『よいか、二人とも、よーく考えるのじゃ』

 わたしと配達人、生唾飲んで頷くの。

『わらわが術でレッドと飛ぶ』

 そうです、それで解決です。

『レッドは何度も飛べと言い出すであろう』

 でしょうね。

『面倒くさいではないか』

 そ、それだけか……コンちゃんらしい。

『ポン、あきれておるの、いいかの』

『なに、コンちゃん』

『術を使うと消耗するのじゃ』

『普段なにもやってなーい!』

『わらわの寿命が縮むのじゃ』

『充分長生きしてるよね……ってか神さまなんだよね』

『ポン、神さまの言う事は聞くものじゃ』

『面倒くさがり屋』

『ふーんじゃ』

 コンちゃんは術を使ってくれそうにないです。

 レッドは次のメロンパンを見つめて、

「ポンねぇ~」

「はいはい」

「とべませぬか?」

「はぁ……」

 困りました。

 ついつい配達人を見ちゃいます。

「なにか手はないですか?」

「うーん……」

 配達人が考えていると、レッドが飛びつきました。

「はいたつにーん!」

「はいはい、なに?」

「あそんでー!」

「はいはい、キャッチボールでいい?」

 レッド、配達人に抱きついてニコニコしてます。

 遊んでくれる人には誰にでもニコニコしますかね。

 配達人、急に真剣な顔になりました。

「レッドって軽いね~」

「ですかな?」

「どれどれ」

「はわわ」

 配達人、レッドを両手で「高いたかい」。

「わーい」

「うーん、レッド、軽いな~」

「まいにちたくさんたべてま~す」

「そうなの?」

 配達人がわたしを見るから、

「まぁ、レッド、毎日食べてるけど」

 レッド、「高いたかい」がよかったのがはしゃいでます。

「仔キツネだから、そんなもんじゃないですか」

「ふーん」

 配達人、レッドをわたしに押しつけると……

 今度はわたしとレッドを一緒に抱っこなの。

「きゃっ!」

「大人しくして」

「エッチな事したら殺しますよ」

「ポンちゃんにしないよ」

 ちっ!

 肘です、肘、一発お見舞いしちゃうんだから。

 配達人、苦笑いしながらわたしとレッドを抱っこします。

「うわ、ポンちゃんと一緒でも軽い~」

「わたしもタヌキですからね」

 配達人、ニコニコしながら、

「胸がないと軽いかな」

「コロス!」

 もう、さっきよりも強く肘です肘。

 配達人、わたし達を下ろすと、

「よーし、レッド、空を飛びたい?」

「はーい」

「じゃ、飛ばしてあげるよ」

「ほんとう!」

 もう、レッドの瞳に★が輝いてます。

 配達人、レッドの手を引いてお店を出ます。

 わたしとコンちゃんも一緒になって駐車場。

 配達人、レッドに敬礼して、

「レッド君、空を飛ぶ準備はできましたか?」

「はーい」

 レッドも敬礼して返します。

 配達人、そんなレッドを両手で持ち上げて、わたしの方を見て、

「ポンちゃんとコンちゃん、カウントダウン!」

 わたし達、頷きます。

「ごー、よん、さん、にー、いちっ!」

「発射っ!」

 配達人の声と同時にレッドの体が宙を舞います。

 って、配達人が投げただけですけどね。

 放物線を描いて落ちて来るレッド。

 配達人がキャッチします。

 わたしとコンちゃんも駆け寄るの。

 レッド、配達人の胸で目を丸くしてます。

「レッド、大丈夫ですか?」

「はわわ」

「こわくなかったですか?」

「ちょ、ちょーたのしー!」

 すぐに配達人の腕をゆさぶって、

「もっとやってー、もっとやってー!」

 ああ、さっきのコンちゃんの予言の通りです。

 レッドせがみまくり。

 コンちゃんが嫌がるの、わかりますね。

「しょうがないな~」

 配達人「しょうがない」って言ってるけどニコニコ。

 余裕でレッドを何度も放り投げます。

「ほーれ、ポン、わらわの言ったとおりであろう」

「コンちゃんがやってあげればいいのに」

「消耗するのじゃ」

「神さまだよね」

「ふーん」

「それに……」

「何じゃ」

「ポイント稼ぐチャンスだったかもよ」

「!」

「レッドポイント、チャージのチャンスだったかも」

 でも、コンちゃんすぐに、

「レッドはわらわが好きゆえ、それほど必死にポイント収集せんでもよいのじゃ」

「そ、そーだね」

 配達人、何度も投げ上げてるけど疲れないかな?

 ちょっと心配したけど、普段から仕事で荷物運び、レッドくらいお茶の子みたい。

「配達人さん、大丈夫ですか?」

「うーん、レッド、軽いよね」

「ちょっと見直しましたよ」

「何を見直したんだか」

「ちょっと男らしいかな~って」

「俺、男だもん」

「目、細いくせに」

「言ったなー!」

 って、配達人、わたしをじっと見て、

「ポンちゃんでも出来ないかな?」

「え?」

「レッド、軽いし」

 そんな事を言いながら、わたしにレッドを抱かせます。

 レッド、わたしを見て、

「こんどはポンねぇですかな?」

「わたしに出来るかな……」

 配達人、わたしの背中を押しながら、

「いいからいいから、いくよ、5・4・3・2・1」

 有無を言わさずカウントダウン。

 レッドポイントを貯めるため、わたしもがんばり……

「発射っ!」

「!!」

 レッドを放り投げる……激痛!

 思わず振り向いたら……配達人がしっぽを雑巾しぼり!

「なにすんですかーっ!」

 もう、本気チョップなんだから。

 でも、配達人、痛がるどころか呆然としてるの。

「こ、これっ! ポンっ!」

 コンちゃんも大きな声。

「コンちゃん、わかってくれますかっ! しっぽを雑巾しぼりしたんですよっ!」

「そんなのどーでもよいのじゃっ!」

「え……わたしの心配じゃないんですか?」

 コンちゃん、わたしのチョップをつかまえて、

「ぽん、おぬし、力加減を知らんのかのっ!」

「え?」

 そりゃ、力いっぱいチョップしたけど……

「配達人死んでませんよ」

「レッドじゃ、レッド!」

「は?」

 カウントダウンで投げましたけど……それが?

 配達人、空を指差していますね。

「レッド……」

 配達人の指差す先……空……えっと、なにも見えません!

「え、えっと、わたし、レッドをどーしちゃったんでしょ?」

 周りを見回してみても、レッド、いないの。

 どこに行ったんでしょ?

 そんなわたしに配達人とコンちゃんが空を指差します。

「これ、ポン、おぬしやりすぎじゃ!」

「コンちゃん、どーして空を指差すんです?」

「よく見るのじゃ!」

 わたし、コンちゃんの指に顔を寄せて……空を見ます。

 キラリ……昼間なのに★ひとつ。

 一番星かな~

「レッド、星になってしまったではないか!」

「えーっ!」

 ど、どこまで飛んで行っちゃったんですかっ!

「あ、落ちてきたよ」

 配達人、両手を広げてるの。

 わたしとコンちゃんの目の前でレッドをナイスキャッチ。

 配達人の胸で、レッド、ぽかんとしています。

「レッドーっ! 大丈夫っ!」

「はわわ……ポンねぇ」

「大丈夫ですかっ!」

 さっきまでと、ちょっと様子が違います。

「こ、こわかった?」

 わたしの言葉に、レッド、考え込んでいます。

 しばらく視線が泳いでから、

「うーん」

 レッド、唸るばかり。

 コンちゃんが、

「これ、レッド、何が見えたかの?」

「ちきゅうはあおいボールですかな?」

 ど、どこまで飛んで行ったか……知りたくもないですええ!


「むかーっ!」

「コンちゃん、働いてっ!」

「何故わらわが働かねばならんのじゃっ!」

「いいから働くんですよっ!」

「うわーん」


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