第6話 蝦夷侵略作戦
<第六話>
「なんだ、アレは・・・」
情報部作戦本部を包む驚きと恐怖。
さもありなん、完全武装とは言わないが、十分な人数と装備を整えた兵士達が、時代錯誤も甚だしい二人の男女に壊滅させられたのだ。
残存兵力ゼロ。
生存者無し。
完膚なきまでの敗北である。
「一体どんな兵器だというのだ!?」
「指向性地雷や高性能爆薬による地雷と推測されますが・・・」
確かに槌スキルは前方120度に強力な衝撃波を放つ兵器と言えない事もない。
同じく最後に兵士や装甲車を消し炭に変えた火柱も、強力すぎる地雷と言えば言えない事もない。
だが、そんな理屈で説明出来るようなものではないと、誰もが直観していた。
「データと戦力と装備を全て洗い直せ!」
「電波ジャックの映像が全て本気であったと仮定して作戦を立て直すんだ!」
慌ただしく動き始める軍人達。
魔王と名乗る黒づくめの男が、本気で蝦夷を征服しようとしている事が明らかになったのである。
軍隊と交戦し死者を出した。
最早止まる事は出来ない。
「200年ぶりの戦争だな・・・」
「ですね。軍人の本懐ではありますな」
「軽口が叩けるうちは大丈夫だな」
「はっ」
一方的な宣戦布告は済まされている。
今この瞬間に、蝦夷に向かって攻撃が加えられるかも知れないのだ。
「蝦夷の第三師団に即刻連絡しろ。第一種戦闘配備だ。全ての火器管制システムを起動させ、哨戒機を飛ばせ。情報衛星も使用して構わない。最悪の場合は攻撃衛星の使用も許可するとな」
「了解であります」
「旧世代の火薬兵器だけが兵器でない事を教えてやる」
この期に及んでも、皇国軍人はまだ油断していた。
新世代の兵器さえ使えば勝てると。
その甘い考えが覆されるまであと僅か。
一方、情報部だけではなく、皇国軍総司令部からも第一種配備を取るよう命令が届いた蝦夷鎮守府は、これまでにないほどの緊張感と慌ただしさに包まれていた。
「昼の電波ジャックの黒づくめは本気で言ってるんですかね?」
「少なくとも、司令部は本気と受け取ったようだ。おそらく、映像のあとに何か起こったんだろうな」
「でしょうねぇ。じゃなかったら第一種配備で偵察機、衛星まで使用許可は下りないッスよね」
そろそろ夕暮れから夜へと差し掛かろうとする時間である。
おそらく、魔王軍とやらは闇に乗じて仕掛けてくるだろうというのが大方の予想であった。
そして、それは正鵠を射ていた。
「ルイン、どうやって攻めるつもりなのかしら?」
「大軍での力押し・・・と思ったのだが、せっかくだ。異世界の恐怖を味わってもらおうじゃないか」
「どういうこった?」
首をかしげる範馬に悪い顔をしてみせたルインは、おもむろに召喚魔法を発動。
呼び出されたのは薄っぺらな影だった。
「うわ、影人使うのね」
「感知魔法があればこんな小細工は使わないのだがな」
影人。
読んで字の如く、二次元生命体である。
影に潜み、影を操り、人を殺し、喰らう。
生粋の暗殺者だ。
「こいつらを送り込み、殺せるだけ殺してもらう。そのあと、大鬼や屍鬼、巨人兵を中心とした陸戦部隊で正面突破だな。航空兵力として竜どもとリッチでも飛ばすか?」
「魔物VS科学兵器だな」
「せっかくだから、屍鬼の苗床でも基地に送り込んだらどうかしら。影人に持って行ってもらえばあっという間に増えるでしょう?」
「おお、えげつないいい考えだな。さすがはルティアラ」
「褒めてもらっても何も出ないわよ」
「つーか、褒めてねぇだろ、それ・・・」
三人が楽しそうに悪巧みしているのを端で見ている飛鳥。
一部意味不明なところもあったが、要するに潜入工作からの大軍による正面突破なんだなということは分かった。
「飛鳥よ」
「はい!?」
突然自分の名を呼ばれたのに驚いた声を上げる飛鳥。
「鎮守府制圧後の機械関係は任せたぞ。我らにはどうすることもできん」
「お任せ下さい・・・と言いたいところなのですが、制圧後では遅すぎるやも知れませぬ、陛下」
「どういうことだ?」
「高度に機械化された皇国のネットワークは、現地でなくとも様々な運用を可能とします。我々の勝利が確定するころには、敵も何らかの策を弄してくることでしょう」
「例えば?」
「基地ごと自爆。もしくは、戦略級兵器による焦土化作戦」
困ったときの核ミサイルである。
「なるほど。では、戦闘そのものを囮として、戦闘中に基地機能を掌握せねばならんということだな?」
「その通りです」
「なるほど・・・。ルティアラ、頼めるか?」
「ええ。いくらでも」
「では、影人による陽動は、正面での開戦後とする。主力部隊を表で引き付けておくから、その間に基地に潜入して、機能を掌握せよ」
「分かりました、陛下」
「よろしい。ならば戦争だ」
作戦の修正に伴い、ルインは竜を10頭ほど召喚する。
どれも下位の竜ではあるが、一頭一頭がダンプカーほどのサイズである。
その後、ひときわ巨大な召喚陣から現れたのは、全長30mもあろうかという緑竜であった。
『お久しゅうございまする、魔王様。ここは一体?』
「異世界だそうだ。これから侵略を開始するところなのでな、その下位竜どもを率いて空を支配せよ」
『御意。殲滅で構いませぬか?』
「任せる。敵は生き物ではない。金属製のゴーレムとでも思え」
『御意』
緑竜が竜語で下位竜に命令を下す。
羽ばたきとともに空へ浮かび上がる竜。
「では、開戦の狼煙を上げるとしようか」
「いいわね。やはり戦いとは派手でなくてはね」
目を輝かせるルティアラ。
「まずは五月蠅いハエをたたき落とすとしよう」
魔王ルインがその右手を高々と天に差し上げる。
その瞬間、空から降り注いだ雷が、夜の空を飛んでいた偵察機をまとめて十数機叩き落とした。
雷の直撃を受けた飛行機は、爆散。
機体の欠片が地上に降り注いだ。
基地から聞こえてくるけたたましいサイレン。
「行け、ドラゴンども。空からの蹂躙を開始せよ!」
その背に不死者の王リッチを乗せて、竜が基地へと飛び立つ。
「どれ、我らも正面から堂々と進軍するとしようか」
「勿論よ。王たるもの、こそこそとしていてはいけないわね」
「オレはただの勇者でいいよ・・・」
それでも堂々と歩き出す三人。
三人の歩みに合わせて、周囲にわき出す異形の怪物たち。
緑色の肌に角を生やした小鬼。
角を生やした身の丈3mを越えるような大鬼。
土や石で作られた5mはあろうかという巨人。
半透明の幽霊たち。
拗くれた角と蝙蝠のような羽の生えた醜い悪魔。
お伽噺や伝説、空想上の怪物たちが群れをなして行軍を始めたのだ。
「さぁ、戦争だ」
第一次魔王大戦の開戦である。
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