第7話 止まらぬ進軍
<第七話>
蝦夷鎮守府司令部は騒然としていた。
夜間哨戒に出ていた偵察機が不自然な落雷によって全機墜落したのだ。
「これはもしや!」
「敵か。警報鳴らせ!」
「司令! レーダーに敵影が!」
光点が11個。
「未確認飛行物体です!」
「対空兵器全機稼働! 攻撃機の出撃を急げ!」
「了解!」
基地全体にけたたましい警報が鳴り響く。
通達が来てから、鎮守府としては十分な警戒態勢を敷いていたつもりではあったが、やはりどこか本気ではなかった。
だが、実際に哨戒機が撃墜されてから、そんな気の緩みは消え失せた。
皇国製の小型偵察機をまとめて十機以上撃墜してのけるような敵だ。生半可な実力ではないと言うことになる。
「皇国にとってもこんな実践は、歴史の教科書を振り返る方が早いような事態だ。しかもあんなふざけた連中だ。完全に殲滅し、勝利を収めねばならん」
「その通りです、司令」
司令室のモニターに、皇国の戦闘機が次々と発進していく様子が映し出される。
まるで戦争映画のようだ。
「今までは訓練でしか出撃することの無かった機体だ。きっと飛べてよろこんでいるだろうさ」
そんな感慨めいたことを司令が口にしたそのとき。
「なんだアレは!? 竜!?」
戦闘機のパイロットからメッセージが入る。
日頃から厳しい訓練に耐え、皇国の要地、蝦夷を守る兵士として派遣されたパイロットたちが口々に、
「信じられん!」
「竜か?」
「ドラゴンだと!?」
と狼狽した声を送ってくる。
「パイロット諸君、落ち着いて映像をモニターに出せ。音声だけでは分からん!」
「そ、そうだな、これを見てくれ!?」
パイロットが機体のメインカメラの映像を転送してくる。
司令室の画面に映し出されたのは、紛れもなく「竜」であった。
戦闘機に匹敵するような緑色の巨体。
それをさらに上回る、見るものに恐怖を抱かせずにはいられないようなフォルムと深い翠色の巨竜。
幻想世界の生き物と言えばこれ、のドラゴンである。
「バカな!?」
「立体映像か?」
「それともカメラがハッキングされているのか!?」
翠の巨竜がその顎を開く。
白く輝くエネルギーが口腔内に生まれ、その輝きはどんどん強くなっていく。
「まさか・・・」
その呟きは誰の口から零れたものか。
輝きがぎゅうと圧縮されたかと思うと、モニタを白光が埋め尽くした。
スピーカーから流れてくるノイズ。
「司令・・・全機反応が消失しました・・・」
「なんだと?」
「発進した戦闘機、全機撃墜です」
信じられない。
司令室にいた仕官全員が同じ表情をしていた。
最新鋭の皇国製戦闘機が、謎の攻撃によって一撃で全機撃墜。俄に信じられるような話では無い。
「くっ、全機緊急発進! 地上部隊にも総員出撃と伝えろ!」
「了解!!」
鎮守府内を駆け巡る警報と司令の嵐。
待機していた地上部隊も「総員出撃」の命に動きを慌ただしくしていた。
「総員出撃だってよ」
「航空部隊は何やってんだ」
「でも、総員ってことは装甲車とかじゃ無くて戦車とか自律機兵もだろ。攻めてきたっていうトチ狂った奴らはどんだけの兵力なんだよ」
「なに、出撃すりゃあ分かるさ。皇国軍の力を見せてやる」
隔壁が開かれ、自律機兵を戦闘に、地上部隊が展開されていく。
鎮守府を囲む森が不気味な姿を見せている。
「ちょ、見ろあれ!」
暗視カメラによって索敵していた兵が空を飛ぶ竜の姿を目撃する。
「ドラゴンじゃねえか!?」
「ばっか、アニメの見過ぎだよ」
「いや、だってあれ見ろよ!」
宙を舞う竜の姿が、基地のライトに照らされてはっきりと見えている。
その背には人型の生き物が乗っているようだ。
「信じられねえ。夢でも見てんのか?」
そういって兵士が頬を抓ろうとした瞬間。
森の中から無数の火球が飛来、着弾。
戦闘を行く自律機兵を轟音と爆炎の渦に飲み込んだ。
「な、なんだぁ!?」
そして響き渡る鬨の声。
地響きにも似た行軍の音があたりに響き渡る。
「な、なんだあれ・・・」
「ば、化け物!?」
マンガやアニメでしか目にすることの無かったような異形の怪物達が、大挙して押し寄せてきたのだ。
あまりの非現実に一瞬思考が止まりかけた兵士達だったが、生き残っていた自律機兵の攻撃音にはっと我に返る。
「ば、化け物だろうとやることは変わりねえ!」
「そうだ、撃て! 撃てぇ!」
銃撃の音が響く。
さしもの怪物達も、実弾兵器の威力でどんどんと吹き飛ばされていく。
煙の晴れた後には、ぐちゃぐちゃになった怪物達の体が転がっている。
「み、見たか、化け物共!」
だが、兵士達は見た。
化け物共の屍を踏み越えてやってくる、新たな怪物達の群れを。
「新手だ!」
「くそっ、どこの映画の登場人物だ、オレ達は!」
口々に悪態をつく兵士達。
その間にも、怪物の群れはどんどん進撃を続ける。
「びびるな! オレたちの武器で倒せない訳じゃないんだ!」
誰かが言ったその一言で、誰もが銃を構え直し引き金を引く。
凄まじい発射音。
先ほどと違うのは、硝煙の向こう側に怪物達の群れが立っていたことだ。
「ば、バカな!?」
「死なないってのか!?」
厳密には死なないわけではなかった。
先ほどの小鬼達とは防御力の桁が違う怪物達が群れの先陣を切っていたということなのだ。
当然、防御力が高いからといって一切攻撃が通じていないはずはないのだが、元々の体力が人間とは桁違いなため無事に見えるのである。
だが、そんなことが現場の、しかも怪物と戦った経験などあるはずもない兵士達に分かるわけもないし、分かったからといってどうなるものでもない。
結果どうなるか?
先陣を切る鬼人の雄叫びによって恐慌状態に陥った前線の兵士達が逃亡を始めてしまったのだ。
それを見て勢いづいた怪物の群れが兵士達の防御陣を蹂躙していく。
切り裂かれ、貫かれ、叩き潰され、噛み千切られ・・・。
如何に優秀なボディアーマーとは言え、想定していた以上の攻撃を喰らえば役に立ちはしない。
個体のスペックが違いすぎるのだ。
「ふむ。この世界の兵士というのも、大して変わらんな」
「有象無象という点においてはどこも大差なし、ということかしらねぇ」
後方から魔法で状況を把握していたルイン達四人。
展開されている歩兵同士の激突を冷静に分析している。
「じゃあ、行ってくるわ、ルイン」
「うむ。好きにやってくるとよいぞ。飛鳥もな」
「は、陛下。お任せ下さい!」
召喚された魔物を引き連れて、闇に姿を消すルティアラと飛鳥。
別働隊による基地制圧作戦もこうして開始されたのである。
「では、行こうか、勇者よ」
「なんか、もう勇者とは言えねえような気がするんだけど、どう思う?」
「別に勇者が人間だけのものと決まったわけではあるまいよ。何なら黒の勇者とでも名乗るがよい」
「それも厨二くせえから止めとくわ。オレは範馬だ。それでいい」
「その通りだな。もはや肩書きなど必要とはせんよなあ」
そう言って勇者と魔王は笑い合う。
「行くぞ、者共!」
「進軍だぜ!!」
歩兵部隊を殲滅した魔物の軍勢が、応と吠える。
まだ戦いは始まったばかりだ。
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