Code8
サラさんへ
突然、いなくなってしまう僕を許してください。
あの時の契約は白紙にさせてください。
家の闘争に巻き込んでしまって申し訳ありません。
サラさんも傷ついたと思います。
たくさん、恨んでくれてかまいません。
それでも、ついてきてくれたことに感謝しかありません。
ありがとうございます。
サラさんはまだ若いです。
友達と泣いて。
笑って。
ふざけあって。
青春をしてほしいです。
あなたには笑顔が似合います。
影の道を歩いてきた僕にとっては、サラさんは太陽みたいな存在でした。
どうか、元気で。
カイル・コールエン
――カイルさん、違います。
――あなたを誰かに奪われるつもりはありません。
――取り返してみせます。
――覚悟をしておいてくださいませ。
――絶対に見つけてみせますわ。
サラは手紙をくしゃりと丸めた。駅の防犯カメラには、カイルの姿は映っていなかった。人工知能を使って消去されたのだ。
先手を打たれた。
自らの会社が作り上げた物が、逆手に取られたのである。徹夜でコードを追跡する。修復不可能になるまで壊されていた。相変わらず、頭の回転が早い人ですね、とぼやく。行きますわよ、車をだして、と筆頭執事の声をかけた。
サラはロット・ウィーズリーに会うために、市内にある刑務所にいた。あの人なら何か知っているかもしれない。顔すら見たくないが、情報を知るためにはそうするしかなかった。刑務官に付き添われて、面会室に入る。
「ユーズベルトのお嬢様が俺に直接会いに来るなんて、頭でもおかしくなったのか?」
「呪いとカイルさんの居場所について教えなさい」
サラの声は思いのほか、面会室に反響した。
「呪いについて俺が言えるのは、お互いの愛が必要なだけだ。あいつの居場所について俺は知らない」
「愛が必要ですか?」
「でも、気付くまでにあいつの体は持たないだろう。ざぁまみろだ」
ロッドの笑いは不愉快でしかなかった。闇が好きなサラでさえも、体は拒否反応をしている。いずれ、レインとともに重い処罰が下されるだろう。その時が見物でもあった。
「私の婚約者を屈辱するのは、やめてもらえませんか?」
「公爵家の位を返上する予定で、カイルにも捨てられたくせに?」
あら? おかしいですわね、と首を傾げた。話が通じなくて? それとも、立場を理解してなくて? と言い放った。
「公爵家の位を返上したとしても、まだ世間からの支持が強い私と、アイズリー王国全国民からそっぽを向けられたあなた。どちらが格上だと思いまして?」
パシン、パシンと閉じている扇子を叩いて圧をかけていく。
この場の支配者は私なのだと思い知らせるために。
「俺を脅しているのか?」
「脅しているなんて言葉遣い悪くて? 現実を教えてあげているだけですわ」
扇子を開いて口元を覆う。
「まぁ、せいぜい恋愛ごっこを楽しめばいいさ」
「さようなら。二度と会うことはないでしょう」
面会室を出る。
結局、カイルさんの居場所は分かりませんでしたね、と駐車場まで日傘を差す。本当に隠れるのが上手な人ですね、と日傘を回した。
シュワシュワとセミが激しく鳴いている。空には真っ青な入道雲が浮かんでいた。やはり、ロットと会ってしまったからだろう。思っていたよりも気を張っていたらしい。さっきと比べて弱気になってしまった。
――前言撤回をさせてください。
――バカ。
――バカ。
――カイルさんの大バカ。
――強い女を演じていますが、実は弱いです。
――強いなんて嘘です。
――他の誰かが言い出したのですわ。
――あなたはどこでこの空を見ていますの?
――私はあなたの体温が恋しいです。
返事はないと分かりながらも、言葉にしてしまった。それが、虚しくなってしまって、持っている日傘をギュっと握りしめた。




