Code6
アイズリー歴、三二六年、八月十日、午後一時だった。某ホテルのパーティー会場にいた。
「まずは、サラ・ユーズベルト公爵令嬢とゼイン・アーガイル様よりお集まりしていただいた皆様へお言葉をお願いいたしたいと思います」
コツ、コツ、コツとサラが、歩くハイヒールの音だけが響く。瞳の色と同じ新緑のドレスがふわりと揺れる。
「皆様にこれからサプライズをお届けたいと思います」
手を上げると声が流れ始める。
『社長。なかなかやりますね。あのキサラギを手の中で転がすなんて』
<コールエンの両親が、最初から鬱陶しくて仕方がなかった。人工知能が日本を支配する日が来たら、あんな正義の味方なんていらないからなリーダーもそう思うだろう?>
『あなたもなかなか人が悪い。それに、娘を差し出したと聞いた』
<あの子も私の駒でしかない。お前だって両親を自殺するまで追い詰めたじゃないか>
『俺たちは会社と世間では、こんなに善人なのに』
<私はアイズリーの未来を思っているからこそ>
『ただ、一つ気がかりがあります。二人が手を組んだらどうするつもりですか?』
<必要にならなくなったものは消す。それが、私のポリシーだ>
周囲の空気が揺らいだなとサラは、身に感じていた。一強だったレインの立場が、追い詰められているのだ。
誰の手でもない。
娘の手で。
サラからの視界が逸れて、レインへと突き刺さる。アイズリー王室騎士団の騎士に、連行されていくのを、ちらりとみて前を見た。
まだだ。
まだ余興が終わったわけではない。
続きがある。
サラが再び手を上げると、映像が流れ始めた。
『ロット君、どうして!』
<俺はね。最初からあんたたちが気に入らなかった! 皆、コールエン、コールエン! コールエン! あんたたちが俺たちの居場所を奪った! あんたたちのせいだ!>
『私たちはそんなつもりじゃないわ! カイルだってあなたに懐いている! 私たちはロット君と衝突したいわけじゃない! お願い! 考え直して!』
『ロット君!』
<その優しさと正義感ぶっているところが嫌いだ! 死ね!>
銃声が一発、二発と続く。
体が倒れる音がした。
映像が途切れる。
サラとカイルは視線を合わせると頷いた。
「僕――いえ、私はゼイン・アーガイルではありません。コールエン家現当主・カイル・コールエンです。まずは、謝罪を申し上げます。晴れの日にこのような騒ぎを起こしてしまい申し訳ありません。ウィーズリー現当主も逮捕されるでしょう。私は従兄弟とはいえ、両親を殺した彼を一人の人間として許せませんでした。続いて報道関係者の方たちに、お願いがあります。過度な報道は控えていただきますよう、ご協力お願いいたします」
周囲からコールエン――あの暗殺家業の家の!? キサラギか! と驚愕の声が上がったのをサラは聞いた。
一世一代の演技でもあった。
「私は分かっていて彼を選びました」
――私が欲しいと思ったから手に入れたまでのこと。
――文句は言わせませんわ。
サラは持っていた扇子をパシリと叩いた。
「案外怖い人じゃない?」
「確かにコールエン家当主も人を殺してはいる。彼は事実を知るために、殺しを続けるしかなかった。生きるために。悪いのはウィーズリー現当主――いや、元当主とユーズベルト公爵ではないか?」
「そうよ」
――チェックメイト。
――もう少し遊べると思っていたから残念ですわ。
――私はあなたがカイルさんを陥れる計画していた事実を許しはしません。
――邪魔者には退場してもらいましょう。
――お父様。
――ゲームは私たちの勝ちです。
サラの唇には笑みが浮かんでいた。




