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第4章 「魂の軌跡」⑧

ランティスはテンマに、己の過去世、魂の記憶を語る。


全て導かれている……。


そして、放送部の発足の理由とは。

「ランティスは、いえ……ヨウランはその後、どうしたんデスか?」


 巫女とエルファイスの壮絶な最期を語ったあと、しばし口を(つぐ)んだランティスに、テンマは続きを促した。

 落ち着いて見えるテンマだが、(ペン)を握る指先は力がこもっているようで(しら)んでいる。

 ランティスの魂の辿った軌跡――それは、途方も無いほど遠い昔であるはずなのに、簡単に「痛み」はぶり返し胸を締めつける。


 ランティスは呼吸を吐いて、ふたたび語り始めた。


曄藍(ヨウラン)はその後、【(やみ)】の呪いについて調べることに時間を費やした。いつか巫女が転生し、この世に産まれたときのためにな。その事だけが曄藍の生きる意味になっていた……」


 もしもエルファイスが呪いをかけなかったら、巫女のいなくなった世界に絶望し、とっくに曄藍は廃人になり野垂れ死ぬ道を選んでいただろう。

 あの頃の曄藍は、「哀しみ」という泥沼に沈みながら、なんとか顔だけを出し呼吸をしていたようなものだった。いつ死んでも良いと思っていた。

 けれど、巫女の未来だけは……と、暗中模索ではあったが解呪の方法を探し始めた。

 

「だが、多くのことは分からず仕舞いだった。巫女が消えた日に、大陸は真っ二つに分かたれて荒れていたしな。だから曄藍は未来の自分の魂に賭けることにしたんだ――」


「ランティスは、転生を繰り返しながらリルファちゃんの呪いを少しずつ解いてきたと言っていましたが、もしかして……ヨウランであった頃から今まで、全ての記憶を有しているんデスか」


「ああ全て(おぼ)えている。転生後、「記憶」と「使命」を思いだせるようにと、曄藍は鉱脈(こうみゃく)に願ったんだ。それから「際限なくいつでも魔術を使えるようにしてくれ」とも、願っていた。受け入れてもらえたが、「巫女のためだけに魔術を使うこと」という誓約(せいやく)を交わしたんだ……」


「ランティスの魔術は、リルファちゃんに関係することしか使えない……ということデスね?」


 そうだ、とランティスは首肯(しゅこう)する。

 ――曄藍は魔術師としては未熟だった。

 だが「精霊の愛し子」だったことで、鉱脈と繋がりを深め、幾らかは鉱物界の叡智に(のっと)った魔術を施すことは出来た。


 曄藍(ヨウラン)最期(さいご)は、未来の自分にすべてを託し、大地に身を委ねて死んでいった。

 自らの命を使った術を施し、鉱物界の一部となることで、転生後の自分にさらに「力」を与えようとした。

 巫女の「呪い」を解き放つという強い意志を持って……。


「曄藍も、鉱物界も、深く巫女を愛していたからこそ、オレは力を得てここにいる――」


 これまでランティスは誓約のもとに、リルファーナの為だけに力を使ってきた。

 曄藍の意思を継ぎ、生きてきた……。


 ふとテンマが筆を滑らせながら、首を傾げる。


「――でも、ランティスはボクのために魔術を使いましたよね?」


「ああ、確かにテンマの【闇】を浄化するためにオレは魔術を使った。だがそれはいつの日か、おまえがリルファーナに繋がる者だと思ったからだ」


「ええ? ……そんな曖昧な感じで、よく鉱脈は魔術を使うことを許してくれましたね。ランティスが「リルファちゃんの為だ!」と思うだけで了承を得られるなんて……」


「そうだろうか……。オレは導かれたと思ったんだ」


 ランティスは転生してきた幾つかの人生について、(おもい)いだす。

 一番最初の転生の時は、心が折れそうになった……。

 理由は、同じく転生した巫女の「呪い」が想像以上に酷いものだったからだ。

 闇の絡んだ呪いは、主に短命という形で現れていた。

 それに……目が見えなかったり、全身が動かなかったり、原因不明の高熱が続いたり、命を(むしば)むもので見ているのも辛かった。


(オレ自身も、転生のたびに曄藍であったときの記憶が蘇るたび、錯乱していたしな……)


 幾度も愛する者の死を看取りながら、少しずつ、呪いのもとである「闇」を浄化し続けてきた。

 その方法とは、鉱物界の精霊――鉱脈の叡智と、鉱物界が人間界に与えた恩恵のひとつである結晶(クリスタル)を使った魔術で、エルファイスの憎しみがこもった【闇】を浄化し続けてきた。


(そして、やっと、ここまできた……)


 曄藍――ランティスは今世、リステリア国の王子として生を受けた。

 国王の血を継いでないという出生のおかげで、王位継承もあっさり捨てることができたし、生活に困ることもなく、外交はあったが自由にも動けた。

 そして……不思議な(えにし)が多くあることに気付く。


 妹のクリスティナが「精霊の愛し子」だったこと。

 なにより巫女の魂――リルファーナが、リステリア国王の血を継いでいたこと。

 リルファーナは、クリスティナを姉と慕っていること。

 こんな風に関係性がうまく重なるなんて、今まで一度も無かった。


 ――だから導かれたと思った……。


 ランティスが、闇に侵されたテンマと出会ったときも、すぐにそう思えた。

 そして今世こそ呪いに決着をつけると、ランティスは決めてずっと動いてきた。


「巫女が自ら命を絶ったのは、戦争に加担したという罪を償うためだったからじゃない。おそらく――ずっと「孤独」だったからだ。「孤独」が巫女のすべてを狂わせた……。でも今世は違う。リルファーナは「愛」を知っている。出生はどうであれ、ハンナ・ルナディアに惜しみない愛情をかけられ育てられてきた」


「リルファちゃんの、育てのお母さん……デスね」


「そのおかげで、リルファーナは己の境遇にも嘆くことはなく、むしろ他者を慈しむ心を持っている。だからもしも……巫女だったときの記憶を思い出しても、リルファーナはきっと立ち上がる。これからの未来で、たとえ絶望することがあっても……「多くの声」がリルファーナを孤独から救ってくれる……!」


「多くの声――もしかして……!」


 テンマはすぐに理解する。ランティスが言わんとしていることを。

 そして彼の魔術が、本当にリルファーナの為にだけに施されていることを――。

 今までのランティスの行動は一貫している。


「そう――「放送部」だ。「放送部」はリルファーナの為につくった」


 たくさん者の声をリルファーナに届けるために……。

 国家間の利益の格差を埋める為、リステリアを宣伝し旅行者を増やすという目的だけじゃない。

 真の目的は、リルファーナを広い世界に出し、多くの人達と関わり合い、繋がりをつくっていくこと。

 時代が変わった今なら、可能だ――


「リルファーナは、大陸中の人達に愛される存在になる。それはリルファーナ自身が、美しい心を持っているからだ。これから新しい出会いを経験し、たくさんの人々を慈しみ愛していくだろう……。オレはそのために「放送部」をつくった」


「ランティス……」


「オレが消えたとしても、リルファーナがこれから誰かの裏切りに遭ったとしても、きっと……たくさんの声がリルファーナの心を繋ぎ止めてくれると信じている。……オレは今世で、絶対にリルファーナ呪いを解く」


 やっと巡ってきた好機だ。誰にも邪魔させない。

 今世こそ、巫女の魂に絡みついた闇を浄化し自由にする。

 そうすれば、ランティスのなかにある、曄藍の想いも果たされる。


「ランティスが何をしたいのか解りました。ここからは僕の出番デスね」


 テンマが書き留めた手記を、鋭い眼差しで見返しはじめた。

 琥珀色の瞳を動かしながら思考を巡らせているのが分かって、ランティスはただ待つことにする。


(天才、か……)


 ランティスはこれまでの記憶を有していることで、知恵と経験を持っている。

 だが、テンマは違う。

 いつだったか……ランティスはテンマの頭の中が、まるで大陸の英知が詰まった「王立図書館」のようだと思ったことがある。


 テンマは、無駄と思える事象に関しても、自分の頭の中の棚にいつでも取り出せるように仕舞っておく、と言っていた。そうすることで新たな現象と巡り合ったとき、共通のものがあればそこへ仕舞ったり、さらに書き足したりする事を意識的に出来るのだそうだ。

 

 きっと今……ランティスが語った過去世の情報と、現在の事象を繋ぎ合わせて、道を拓こうとしてくれている。それがどんなに心強いことか……

 

「まず気になるのは、何故エルドル王子が「闇」を宿しているのか。加えてどうしてリルファちゃんに近付くのか……不思議デス。ただ「放送部」だからと考えるのは安直かもしれません……だってリルファちゃんは【闇】とも関係がある。僕はわずかに闇を持っていますが、リルファちゃんの呪いは気づかなかった」


「どういう意味だ?」


「強大な魔力を持ち、闇も制御できるエルドル王子が、リルファちゃんに近付くのは偶然にしては出来すぎデス……。ランティスの言うように「全て導かれている」のなら――」


「偶然ではない、のだとすれば……」


「エルドル王子は、リルファちゃんが何者か知っているのかもしれないデスね。……例えば、エルファイスの生まれ変わりが、エルドル王子だとか」


「――っ!」


 ランティスは、息をのむ。

 テンマの出した一つの可能性……(にわ)かには信じがたいが、もしそうであれば、あらゆる事が収まる場所に収まっていく。


 エルドルが闇を取り込みながらも、正気でいられる理由。

 そして、呪いから少しずつ解放されてきた巫女の魂を持つ、リルファーナに近づく理由も……。


(まさか……。オレは幼い頃から、エルドルを知っていたのに……)


 微塵も、そんな気配は感じられなかった。

 闇を宿していることも、テンマに言われて初めて知ったくらいだ。

 気づかないことが、逆におかしい。


 ランティスは、昔からエルドルとは親交があった。

 お互いに王子という立場だったし、魔術にも心得があり、話も合った。

 グランヴェル国が、放送部を始める時も相談を受けたし、力にもなった。

 友情……までは至らないものの、良い関係は築けていると思う。


「ランティスが動揺する気持ちも分かります。……けど、今は目の前のことに対応していきましょう!」


 テンマの迷いのない力強い声が、ランティスの背筋を伸ばした。

 そう――もし、エルドルがエルファイスの魂持っていたとしても、ランティスのやるべき事は何も変わらないのだから。


「エルドル王子が、エルファイスなのか突き止めるのは簡単デス。僕に考えがあります。まずは明日、グランヴェル国放送部との打ち合わせがあります。そこで予測される事態がいくつかあるので、その対策からデスね! 夜が明ける前には終わらせましょう!」


「――わかった……」


 夜明けには、まだ数刻ある。

 ランティスとテンマは、隣の部屋で眠っているリルファーナのことを想いながら、未来を拓くために話し合いを続けた。


 

読んで頂き、有難うございます!


次回からは第5章がスタートします。


クライマックス編となります。


宜しくお願い致します!

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