47 リピート
「うぉぉぉぉ!」
「遅い」
幾度となく繰り返される。
ルカ様は辰への容赦はしない。
そもそも、あっちのルカ様は私とは殆ど関係無い。
「今何回目だい?」
「……………3447万8732回です」
「へえ、結構やったね」
辰が奇跡を起こす、それまでずっと歴史は繰り返される。
ここはあの世界の時間軸とは分離した場所にある。
あの世界は辰が死亡すると同時に消滅し、再度生成される。
今ルカ様の遊び道具となっているのはあの世界だ。
辰が奇跡を起こすまで何度もあの戦いが繰り返されるのだ。
生成される度に世界は少しずつ変わる。
辰の思考、物理計算、そして辰が死ぬまでの時間。
いつか、辰は勝利への鍵を手にする。
ルカ様も私も全く手を出さない、完全に確率のみを頼りにした奇跡。
もし奇跡が起これば、彼はやり直せる。
私の力で、最初からやり直すことができる。
そうなれば、完全に歴史は変わり、彼は誰も死なせることは無くなる。
「試行回数3447万8733回目、始めます」
また辰は死んだ。
それをトリガーにしてリセットは行われる。
私には到底考えられないような思考であるといえよう。
私とルカ様の思考は全く違う。
存在の根幹からして全く違う存在なのだから、当たり前だと言えるのだろうが、それを私が口に出す必要はない。
「試行3447万8734回目、始めます」
「さっきのは早かったね。何か変わったかな?」
「さあ。私には理解できかねます」
「…………………」
ルカ様はまた辰の様子を見ているようだ。
本来は自分の思考を一部だけ削げばいいはずなのに、全ての思考を集中させているとは、よほど楽しみなのだろうか。
私の出番はもう無いかもしれない。
このまま試行が続き、永遠に奇跡が起こらなければ、私がわざわざ歴史改編の許可を取ったことが無駄になる。
全てはあの事故のようなものが原因だったのである。
最高神の内の一人が禁忌を犯したのだ。
禁忌といっても、私から見た感覚ではあるが。
その神はルカ様を複製しようとしたのだ。
その結果、正しく複製を行えなかったシステムは暴走。
不完全なルカ様の片割れが二人生まれた。
ルカ様の思考と能力の一部を引き継いだ二人が、今は一部の世界で猛威を振るっている。
ちなみに、複製しようとした理由は寂しいから、だったらしい。
複製するにしても人を選べと。いや、そんな簡単にはすませないか。
全く、私には理解できない。
その後はルカ様に"お仕置き"の名の元に拷問のような所業が行われたそうだ。
その神も流石に懲りたようで、もう複製なんかしようともしなかった。
今このような事態を呼んでいるのは元を辿ればその神だ。
ルカ様もその気になれば片割れの二人など簡単に滅ぼせるはずなのに。
面白いからと、今も放置しているのだ。
本当に理解できない。
私はかなり最高神の中では異質の存在だ。
私と同じような境遇を持つ神はもう一人いるが、彼女は私よりも遥かに前に生まれた神だ。
確か、最古の最高神だった。
3兆程の年を生きていたか。
今となっては殆ど関係無い事だ。
私たちは時の感覚を持たない。
億を越えようと、兆を越えようと、私たちは生き続ける。
恐らく、辰が奇跡を起こすまでは私の歳が二倍程になっているだろう。
まあ、そんなことは関係無い。地球の人間達は無闇に年を気にするが、私たちは殆ど気にしない。
そんなこと言ったら私もルカ様もみんなおばあさんだ。
さて、辰の様子を見に戻るか。




