094 葛藤
「読めない」
「何をだ?」
「お前が何のために剣を振るかをだ」
「私はルリ様に使えし者だ。ルリ様の言われた通りに剣を振る」
「そのルリって奴に死ねといわれても死ぬ覚悟はあるのか」
「当たり前だ。そういう貴様はどうなのだ?」
反対に自分はどうであるのかを聞き返されたヴォルフガング。眉間にしわを寄せて、しばらく唸り続けた。
「わからねえよ」
「悩むということは、貴様は主人のために死ぬ覚悟を持ち合わせていないに等しい」
魔法剣を一振りし、再び雷の斬撃を放ったリオン。電撃は蛇のように地を這いながら、ヴォルフガングに向かって進撃を続けた。
「なめるなよ」
この程度の攻撃を躱すのは当然とばかりに、ヴォルフガングは跳躍して雷撃を避けた。
「焦りが見えるぞ」
「何?」
その瞬間、リオンは空間転移を使ってヴォルフガングの背後に回り、がら空きの背中に一太刀を浴びせた。
「っち」
寸前でリオンの存在を察知したヴォルフガングは、瞬時に背中を旋回させて回避行動をとったが、その反動で空中を舞ったネクタイを斬られてしまった。
「どうした、動きが鈍いぞ」
「うるせえ」
ヴォルフガングは罪悪感に駆られていた。自分があの日、風華と口喧嘩さえしなければ、風華が屋敷を出ていくことはなく、誘拐されることも無かったはずだと。
「貴様の深層心理を読むのは楽しい」
ヴォルフガングは平静を保っている様だが、リオンの問いかけから風華の安否が気になり始めて、戦闘に集中できないでいた。そのことを、リオンは同じ関係性であるが故に読み取っている。
「俺の心理だと? お前程度の器で俺の底を読めるのか」
「こうみえても、心を読むことに関しては優れているのでな」
「そうかい。俺とは全然違うな」
「なんなら当てて見せようか?」
「嫌、結構だ。そういう心理テストのようなものは、その日の体調や気分次第で答えが左右されるだろ。俺はそういう曖昧な物事が苦手なんだよ」
ヴォルフガングは、容赦の無い正論をリオンに叩きつけた。
「成程。占いを信じないタイプか」
「当たり前だ。占いやら予言だの信じるつもりは毛頭ない」
といっても、魔法界での予言者や占い師というものの的中率はそれなりにあり、日本でいう天気予報士程度の扱いをされている。それでも、ヴォルフガングはまやかしだと言って、それらの類を信じてはいなかった。
「占いを頼りに生きている者も今の世の中では珍しくないぞ」
「俺は自分の意見しか信じない。他人に意見に惑わされるとろくな目にあわないと、身をもって経験したからな」
ヴォルフガングの悲惨な過去が大人になったヴォルフガングの人格を形成していた。
「といいつつ、貴様は俺の一言でだいぶ揺らいでいる様だが?」
「お前の意見が鍵になっただけだ。今の迷いは、自分自身との葛藤。お前の一言がどうこうという事ではない」
「だが、葛藤する理由には繋がるな」
「?」
「理由があるから葛藤し、葛藤がなければ次の理由も起こらない」
「そうだ。人間は自分自身との葛藤を糧にして成長する生き物」
「だが、私は違う」
リオンはそういうと、不敵な笑みを浮かべた。
「どういう意味だ?」
「貴様の大好きな葛藤で答えを当ててみるがいい」




