078 理解の境界線
「一気に往くぞ」
大男の右腕が巨大化し、右腕の服が弾け飛んだ。
「……なんだそりゃ?」
その時だ。大男が猛スピードで突撃し、聖人の腹に強烈な一撃を与えた。
死んだと聖人は思った。しかし、腹を殴られたという感触が無い。全く痛みを感じなかった。
「一発目」
「何?」
「二発目」
再び殴られると感じた聖人は、後方に跳躍して大男の二撃目を躱した。
これで、お互いの武器が届かない距離にまで離れた事に成功。
「やはり虫か」
大男は拳の骨を鳴らしながら言った。
「虫は虫でも、象を一針で殺す雀蜂だぜ。俺は」
「そうかい。だったら、己等の手で握り潰してやるぞ」
三発目の拳が放たれた。しかし、聖人は大男の拳と同じタイミングでモーニングスターを振り下ろし、お互いの攻撃が相殺された。
「軽いぜ。てめぇの拳」
「四発目」
聖人は先程と同様にお互いの攻撃を相殺しようと、モーニングスターを振り下ろす。ところがだ。今度は大男の拳に押されて、モーニングスターが弾き飛ばされてしまう。
「ッ!」
モーニングスターは音を立てて、道路の脇に転がって行った。
「五発目」
武器を持たざる者の腹に大男の拳が直撃した。一発目の攻撃よりも破壊力が増しており、聖人は激痛によって腹を押さえる。
「どういう事だ……?」
聖人はそう言って大男を睨みつけた。
「これが、己等の特殊能力だ」
「特殊能力?」
「獅剛拳。初撃こそ軽いが、虫に攻撃を喰らわせる度に威力が増大する獣の拳よ」
すると、大男は肥大化した右腕を振り回した。
「五発目、往くぜ」
大男の拳が再び聖人の腹を襲った。あまりの衝撃に、聖人は2メートル先まで吹き飛ばされた。
刹那、聖人の右腕に冷たい感触を感じた。モーニングスターだ。聖人はそれを手に取るも、起き上がって反撃する力は残されていなかった。
大男は足音を地面に響かせながら、ゆっくりと聖人に近づいてくる。
(死ぬのか……俺は?)
聖人は薄れゆく意識の中で、確実に死を覚悟した。
「冥土の土産に教えてやるぜ。己等の名前はガルシア・ボレゲーロ。地獄の門番に殺された相手の名前を訊かれたら、そう答えろ」
六発目の拳が聖人に向かって伸びた。聖人は恐怖のあまり、目を閉じてしまう。
「これで終わりだ」と、この場に居た聖人とガルシアは共に思っただろう。だが、『この場にもう一人の人物が居たとしたら?』その人物が諦めを知らない者ならば、戦局が変わる兆しに為るだろう。
「……あれ?」
聖人は恐る恐る目を開けた。見ると、ガルシアの拳が空中で止まっていた。
ガルシアの顔も勝利を確信した笑顔のまま、止まっている。
「時間は有限。そんな事、誰が決めた」
声が聞こえ、聖人は後ろを振り返った。そこに居たのは、全身を黒い衣服で身を包み、黒いマントを着ている青年だった。
青年はサングラスを装着しており、表情が読み取れない。怒っている様にも悲しんでいる様にも見える。
「てめぇ誰だ?」
聖人の問いには何も言わず、青年は黙って聖人からモーニングスターを取り上げた。
「何しやがる!」
青年はサングラスの縁を右手で触った。
「お前はまだ、本当の自分を理解していない……。たがら一瞬だけ、理解の境界線を覗かせてやろう」
青年がモーニングスターを握り締めると、モーニングスターから光が溢れた。それは、太陽の如く眩しさで、聖人は目を瞑ってしまった。




