055 裂き躯の雨
血の雨を浴びたラストラッシュ。彼は思い出していた。遠い日の記憶を。
次第に記憶の海に溺れたラストラッシュ。舞台は時計の針を幾分か戻した魔法界へ。
モードゥ街。
そこは魔法界の裏社会に生きる者達で溢れている。非合法の街と知られ、スリ・殺人・麻薬取引などが頻繁に行われていた。
この街で生きていくためには『自分の身は自分で護る』事だ。それ故、弱者達は自然に街から離れて行くのであった。
強者だけが生き残るシンプルな街の構造。
モードゥ街は至る組織の中で宝の山と呼ばれているのだ。
そして、モードゥ街に強者を求めて足を踏み込んだ者が二人いた。当時、魔法学校の校長を勤めていた・ラファエル=ランドクイスト。その教頭・ウォルター=アルムホルトである。
「校長」
「何かね?」
「私は納得出来ません。モードゥ街の子供をスカウトするなんて」
「嫌なら帰れば良い」
「いいえ、校長にもしもの事があれば困ります」
ウォルターは心配性だったのだ。いざとなれば、自分が盾になって校長を護るつもりなのである。
「大人として、未来ある子供をこんな土地で終わらせる訳にはいかんだろう」
「確かにそうですが」
「それに、ここから魔法界を支える者が誕生すれば、モードゥ街の治安も良くなるかも知れん」
「殺人者であってもですか?」
「過去はトイレの水に流せばいい。重要なのは未来だけだけだ」
二人は死臭が鼻につくエリアに踏み入れた。
探している人物はモードゥ地方で最も危険な場所で生活していると情報があったのだ。
「あれは……」
死体を積み重ねていた上で、高級時計や財布を抜き取っている少年がいた。見た目は金髪にモヒカン、奴で間違いないと二人は目を合わせて合図した。
裂き躯の雨。それが少年の二つ名だった。
その名の通り、死骸の血を雨の様に浴びているから裂き躯の雨と呼ばれていた。
「ん?」
少年が二人の存在に気づくと、鉤爪を構えた。
「待て待て、儂らは君と話をしに来ただけだ」
「僕と話を?」
「そうだ」
「フフフ」
少年は笑っていた。
「何が可笑しい!」
「真の天才とは剣を交える事で、お互いの真理、情念、理念を読み合うのです。そして僕には分かる……あなた達が知の快楽者である事を」
「何度でも言うが、儂の懐に戦う気など持ち合わせていないぞ」
次の瞬間、少年は理解不能の速さでラファエルの胸に傷をつけた。
「ふぐっ」
「校長!」
ウォルターは驚愕した。ラファエルが避けられないSPEEDで少年が動いたからだ。
「逸材か」
胸を斬りつけられたラファエルは、あくまでもポジティブに物事を進めるのであった。
「これで僕と剣を交えていただけますね?」
ラファエルの前にウォルターが仁王立ちした。
「校長がお前程度のチンピラに武器を手に取ると思ったか? 校長、ここは私にお任せを」
「いいや。儂がやろう」
「校長……」
「このエリア一帯に最上級魔法障壁を張れ」
「くっ。かしこまりました」
校長の命令は絶対のウォルターであった。
「決闘の前にあなたの二つ名を教えて下さい」
「その歳で戦いの心得を分かっているとは、感心だよ」
「伊達に死地を潜り抜けていませんから」
ラファエルは再び口を開いた。そして、次の様に言い放ったのだ。
「儂はラファエル=ランドクイスト。二つ名は……灰塵の振り子時計だ」
「僕はDDD・ラストラッシュ。二つ名は……裂き躯の雨です」
二人は同時に斬りかかった。




