035 優長な暴力
ポケットの中から屋敷の鍵を取り出した風華。
「破鏡」
合図と共に、鍵がレイピアに変化した。
風華はレイピアを右手で持ち、上空にて試し振りをする。
「首刈りのレイピア(くびかりのれいぴあ)」
それが、レイピアの名前だった。
「レイピア……16世紀ヨーロッパの主力武器ですね。実にあなたらしい」
「それはどうも」
「フフフ」
すると、ラストラッシュは両手を広げて、胸を出した。
「何の真似だ?」
「レディーファーストです。遠慮なくどうぞ」
罠だ。風華はそう思った。
しかし、罠にしては余りにも無防備である。
「………………」
「さぁ、来なさい」
ここのままでは、らちが明かない。風華はレイピアに力を入れて、斬り掛かった。
「フッ」
口角を上げて再び笑うラストラッシュ。風華は、ラストラッシュの不気味な顔を刈るつもりで、レイピアを振り落とした。
グサッ。という鈍い音が聞こえた。
「手応え十分」そう感じて、風華は目を開けると、あろうことか、レイピアは地面に刺さっていた。
「躱した?」
そう躱したのだ。あの至近距離を、いとも簡単に。
「驚きましたか」
ラストラッシュは、風華の後ろで背伸びをしていた。
「貴様、能力者なのか?」
レイピアを引き抜いて、再び構えた。
「いいえ。私は能力者ではありませんよ」
リズミカルに自分の肩を揉むラストラッシュ。
「では、今のは何だ」
「空間転移を応用した回避行動です。学校では習わなかったでしょう?」
「貴様ァ!」
足若丸高校を侮辱した言い方に、風華は怒りを覚えた。
風華が宙を舞った。
しかし、二回目の振りも、呆気なく躱された。
「くっ」
地面に手をついて、体勢を整い直す風華。
「攻撃を当てようと躍起になるのは、構いませんが……」
「その減らず口を閉じろ!」
今度はレイピアを叩きつける様に振ったが、当たらない。どうしても空気を切ってしまうのだ。
「あなたは」
「何だ」
「攻撃に気をとられて、防御を疎かにしている」
ラストラッシュの鋭い鉤爪が風華を襲う。
「っ!」
レイピアを盾にし、攻撃から身を守った風華。
「甘いですよ」
そう言うと、ラストラッシュはさらに切り込み、強力な斬撃でレイピアを弾き飛ばした。
「ちっ」
レイピアが手元から離れ、為す術を無くした風華であった。
「あまりの無神経さに、哀れすら感じますよ」
ラストラッシュが、風華の顎先を持ち上げた。
「唇を重ねる事も容易い」
「やめろ!」
本気で嫌がる風華。防衛本能で、ラストラッシュの腹を蹴り上げるも、当たり前の様に避けられる。
「接吻はお嫌いですか?」
「貴様とキスなど、こちらから願い下げだ」
「それは残念です」
ラストラッシュは、鉤爪をカチカチと鳴らした。鉤爪は、子供の脚の長さは有ろう。
「……………………」
「諦めはつきましたか?」
「誰がよ」
「為らば、少々痛い目にあって戴きましょうか」
ラストラッシュは、わざとらしく、ゆっくりと近づいた。




