034 ラストラッシュ再び
家出と言っていいのだろうか。霧登風華は、これまで一度も家出をした事の無い優等生だ。
林や森を駆けて、とにかく走った。走りたい気分だったのだ。
「うわああああああ!」
そして、叫びたい気分でもあった。
道路で走りながら奇声を上げるのは色々と不味い。警察に職務質問されかねないので、風華は敢えて山の中を選んだのだ。
(ここなら私を邪魔する者はいない)
朝からストレスの雨が降りかかった風華は、もう限界寸前だった。ストレス解消に走って叫ぶ。古典的な方法ではあったものの、風華にとっては、これで十分だった。
それにしても随分と長い時間走り続けている。時間で言うと、軽く30分近く経過したはずだ。
疲れもピークに差し掛かったが、前方から太陽の光が見えた。「もうすぐ出口だ」と思い、風華は森を抜けた。
森の先は丘だった。そこからは碩大区全体を眺めれられる穴場のスポットである。
「あの、バカ執事っー!」
風華は最後の力を振り絞って思い思いに叫んだ。
「疲れた……」
肩で息をする風華。
「お疲れ様です」
称賛の声と、それを称える拍手が聞こえてきたので、顔を上げた風華。そこには、金髪にモヒカンで眼鏡をかけた男がいた。
「あんた誰?」
「私はDDD・ラストラッシュです。以後、お見知り置きを」
「何処かで聞いた事ある名前ね」
風華は思い出せないでいた。
「ヒント1。私はとても有名人です」
「自分で言わないで」
「これは失敬」
風華は、ラストラッシュの事を見た目の割りに、とても礼儀正しい人だと思った。
「屋敷に来た格闘家の方?」
「いいえ違います。あなた、ユスティニアヌス・オバミュラーと勘違いしてませんか?」
「ああ、そうね」
また考え始めた風華。
「ヒント2。私はヴォルフガング・ロドリゲスと知り合いです」
「その名前は今1番聞きたくなかった」
「おや、何かあったのですか?」
「ちょっとした口喧嘩よ」
「それは……好都合ですね」
「!?」
ただならぬ気配を察知して、ラストラッシュの攻撃を寸前で避けた風華。
「良い回避運動です。さすが生徒会長さんだ」
「あんた何者」
「ヒント3。私は盗賊ギルドの一員です」
「はっ!」
風華は、ようやく気が付いた。ヴォルフガングに「こいつは要注意人物だ」と何年も前から言われ続けていたのにだ。
「改めて自己紹介致しましょう。私の名前はDDD・ラストラッシュ。二つ名は優長な暴力です」
薄ら笑いを浮かべたラストラッシュ。
「盗賊ギルドが、私に何の用だ?」
「あなたを誘拐させていただきます」
「なんだと」
「黙ってついてくるなら、手荒な真似は致しませんので」
「あいにくだが、見ず知らずの男と付き合っている暇は無いわ」
風華は武器を手に取った。しかし、これまで実戦経験の無い風華にとって、勝てるかどうか分からない戦いだった。
「仕方ありませんね」
ラストラッシュも武器を取った。鉤爪である。
「では、決闘といきましょうか」




