027 既視感
霧登家の屋敷と、足若丸高校は目と鼻の先である。余程の寝坊をしない限り、遅刻する事自体が不可能と言っていいだろう。
霧登風華は、いつもの様に廊下に立ち、いつもの様に生徒会長の仕事をしていた。
足若丸高校の生徒会長の仕事とは、ずばり内容が濃い。全校集会の挨拶や校則違反者の取り締まり、生徒会の書類に判子を押すなど、やってる仕事は校長先生と大差無いのだ。
「仕事は楽しい物ではないぞ」と父親に言われた事が、今なら解る気がすると思った風華であった。
「あ!」
風華は声を上げた。階段から、昨日取り締まりした後輩達が姿を現したのた。
「そこの二人と猫一匹止まりなさい」
昨日と一言一句違わない言葉で喋りかけた。
「またアンタすか」
生意気な後輩が偉そうに言い返してきた。風華は朝から機嫌が悪いと知らないで。
「それはこちらの台詞だ」
「何だと?」
「性懲りも無く、使い魔を放し飼いしてる様だな」
風華は腕を組んだ。虫の居所が悪い証拠である。
「残念無念」
そう言った後輩は、とても腹の立つ顔をした。言葉では言い表せない酷い顔だ。強いて言うなら、誰が見ても殴りたくなる顔。
「先生の許可を貰っていますぜ」
「馬鹿な……私は聞いてないぞ!」
「そりゃそうですよ。さっき担任に報告したばかりですから」
ぐうの音も出ない。先生が関わっているとなると、風華には手が負えなくなる。
「……行ってよし」
風華は歯ぎしりをした。とても屈辱的であると感じているからだ。
「だってよ、行こうぜ神代」
「わ、わかった」
後輩の女が、風華を憐れんだ目で見つめていた。朝からプライドを折らんとする出来事ばかりで、熱が出そうになる風華であった。
「ポジティブになるのよ風華」
しかし、ここで持ち直すのが、霧登風華だ。
「あの腹立つ顔を見なくて済むのよー」
「独り言かね?」
「ひゃっ!」
デジャブと言うべきだろうか。ラファエルが風華を見下ろしている。
「ラファエル先生……」
「驚かしてすまない」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
風華は素直に謝った。最近は謝る展開が続いていて、憂鬱になりそうな風華でもある。
「話は変わるが」
「はい」
「最近は何かと物騒だ。霧登君も気をつけなさい」
「心配ありません。どんな敵が襲ってこようとも、返り討ちにしてみせます」
「自信は成長の糧となる。その調子で鍛練を怠らぬ様にな」
ラファエルは階段を登っていった。 ふと、風華は昨日ラファエルが言っていた言葉を思い出す。
「生徒会長が遅刻なぞ目も当てられん」
そうだった。今日はいつもより遅く登校したのだ。「こうしてはいられない」と思った風華は、急いで自分のクラスに戻った。




