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ばいめた!~楽師トールの物語(サガ)~  作者: 冴吹稔
ミクラガルドの騎士
22/102

スキャルドボルグ(盾の壁)は崩せない

 土塁に近づくうちに、三度ほどハザール騎兵達とすれ違った。わざとらしく絡めたフリーダの腕から、そのつど緊張が伝わる。二人一組の体制で、街中を歩き回ってイレーネたちを探索しているらしい。

 しかし騎兵達は俺達を見ると、一様に一瞬目を凝らして注意を向けた挙句、困ったような顔をして視線をそらした。

「確認するのも面倒くさい、さっさと視界から消えろ」とでも言わんばかりのそっけない態度で、いっそ抗議したくなるほどの冷淡さだ。だがこちらにとってはまことに好都合。


「呆れた……本当に声もかけられないわね」

「それなりに命令系統がしっかりして、情報の共有が出来てるんだろうな。だがそれが逆に仇となる」

「……何語?」

「あ、すまん。また『俺の国の』言葉を使ってた」

俺のこちらでついた悪い癖だが、彼らの言語にまだない語彙はつい英語でしゃべってしまうのだ。そのたびに北方人たちは怪訝な顔をする。


 ヨルグのほうはなかなか面白いことになっていた。俺が「カバー」としてヨルグに負わせた役割は非常に嵌っているらしく、一度ならず彼はハザール人や地元民に呼び止められている。


 要するに、「気持ちはわかるが他人の恋路に干渉して付きまとうのはやめろ、同じ男としてみておれん」といった意味の説諭を再三受けていたのだ。あの聞き取りにくく、訛りの強い言葉でだ。


「少し可哀想になってきたな。俺達が奴らの任務に関係ないという印象を強化するのにこの上なく役立ってくれてるわけだが」

「あなた悪趣味よ、トール」


 否定はしない。俺はこういう底意地の悪い、それでいて笑えるせいで相手も心底から怒れないという性質のよくないおふざけを、大学時代から散々やった。

「まあ、あとで優しくしてやってくれ」


「それもちょっとなあ」

フリーダが微妙な顔をする。

「何かまずいのか」

「シグリがね――ヨルグのこと気になってるみたい」

「へえ」

 この航海中、フリーダとシグリは二人仲良く一緒に行動してきた。微妙な機微を含んだ話をいろいろと交わしたらしい。

 ガールズトーク、恋バナって奴か。人間のやることは千年くらいでは変わらないもののようだ。

「そういえばスネーフェルヴィクへの往き帰り、ホルガーに言われてあいつ、シグリの手をずっと握ってたっけな」

「あらあら」

フリーダが生温かい目でヨルグを振り返った。彼は道行く人にいろいろ言われて堪えたのか、がっくりと肩を落としとぼとぼと歩いている。肩に担いだ斧が重そうだった。


 やれやれ。ちゃんとフォローしてやらないと、本当に殺されそうだ。


 目印として教えられた、雷に撃たれて裂けたモミの大木は、いくつかの民家の前を通り抜けて入り込んだ先の裏手にあった。いつごろの落雷かははっきりしないが裂け目は黒々と焦げつき、炭化した木部の残骸が痛々しい。


 その横にひっそりとうずくまる、屋根の破れた家。


 後ろから追いついてきたヨルグが、戸口の前にあるものを見て低い呻きをもらした。

「なるほど、これならよほどの事がなければ後回しにするな」


 俺もそれを見た。肉がそげ落ちすっかり白骨化した人間の頭蓋骨が、木の杭の上にくくりつけられて虚ろな眼窩を恨めしげにあたりへ向けていた。


「誰が見ても判る、死の徴しだぜ。随分古いものだが――とにかくこの家の最後の住人は何かおぞましい流行り病で死んだんだろう。テントを建てに行く助けもなく、な」

 ヨルグが顔をしかめてその髑髏から目を離した。


「気分の良いものじゃないな。まあとにかく、フォカスとかいう男を捜すか」


 梁材などの落下に注意しつつ、廃屋へと踏み入れる。炉のそばに軍用品を思わせる意匠の粗雑で簡易的な煮炊き道具があり、何かを調理した跡があった。その奥に、寝具らしい布の塊と少しくたびれた寝藁が積まれている。


 破れた屋根の穴がいびつな入り組んだ形に空を切り取って、屋内に寒々とした光を投げ込んでいる。見回すが暗がりの中にそれらしい人影はない。声を潜めて呼びかけた。

「フォカス――いるのか? いたら静かに出てきてくれ。イレーネの使いだ」


「何か証明するものはあるか?」

不意に、どこからか声がした。皺ばった印象の、いかにも老人のものだ。

「短剣を預かってきてる」


 すると、丸めた寝具だとばかり思っていた布の塊が立ち上がった。身長は俺とほぼ同じ、180cm前後。だが肩幅や手足のバランスのせいか、よほど巨漢に見える。


 浅黒く日焼けした肌に彫りの深い顔立ち。口元と顎を覆う、密生した髭。ギリシャ人あるいはローマ人といわれて想像する、典型的な風貌。だがその毛髪は白く、肌にはシミが目立ち、何よりも深く刻まれた顔の皺がその生きてきた年月の長さを物語っていた。


「私はフォカス・メナンドロス・テッサリウス。イレーネ様の侍従で、武芸と哲学を教える家庭教師でもある。短剣を見せて欲しい」

「承知した。これだ」

ジーンズのベルトに吊って持ち歩いていた象牙作りの短剣を渡すと、フォカスは深々とひざまずいた。

「確かに姫様のものだ。今日で3日、連絡が取れず案じていたが、無事で何よりだった」

「無事と言うべきかな? 彼女は今身体の不調を抱えている」

「なんと! 詳しく聞かせてくれ」


 俺はイレーネが訴えた身体症状を、可能な限り詳しく伝えた。杭の刺さったような違和感、体のゆがみ、蒼白な顔色など――聞くうちにフォカスの表情が険しくなり、額を汗が一筋伝い落ちた。

「まずいな。姫様はどうやら危険な状態に陥っている。治療しないと命が危ないかも知れない」

「どういうことだ?」


「診て見ないと判らぬが、打撃によって骨格のひずみや内出血、その他にもいろいろな故障が起きている筈だ……姫様はどのくらいの距離を吹っ飛んだと言った?」

「俺やあんたの身長より、少し長いくらいか」


「ふむ、6~7パッススと言うところか。まだしも安心材料にはなるが……その場に崩れていたのなら、絶望的だった」

 なんとなく解ってきた。フォカスはヴァジの体当たりによる運動エネルギーがどの程度、イレーネを移動させる運動エネルギーとして伝達され、どの程度が内部への破壊力として逃げずに彼女の肉体に作用したかを推し測っているのだ。


 その内部へ作用したエネルギーが、彼女の骨格――おそらくは脊椎や、肋骨の基部の変形、またそれによる神経組織の圧迫や、重要器官の目に見えない内出血などを起こしているとすれば、フォカスの言うような生命の危機もうなずける。

「打ち所が悪い」などとよく言われる現象のひとつだろうか。ドラムの照井には空手をたしなむ友人がいて、時折そうした打撃による不可解な急死といったものについて、多少のファンタジーを交えて講釈してくれたものだった。

「じゃあ急がないとまずいな。出発しよう」


「途中でハザール人に出くわしたらどうするのだ?」

ルス族の間を旅してきたときのものだと言う外套や帽子を身に着けながら、フォカスが当然の懸念を口にした。

「そこは任せてくれ。怪しまれないように前準備がしてある。声をかけられても慌てるんじゃないぜ」

俺とフリーダが紛らわしい無関係の一組として、騎兵達に認識されている件を告げる。


 フォカスが身支度を整えると、俺達は連れ立って通りへ出た。ヨルグには今度は機嫌のよさそうな笑みを浮かべてもらっている。尾行していた相手に対する誤解が解けて、意中の少女と談笑しながら来た道を一緒に帰る、という構図だ。


「オオ、青年ヨ。ドウヤラ解決シタヨウディヤノ」

すれ違った一組の騎兵などは、実ににこやかにヨルグに祝福の言葉をかけてきた。

「女ノ話ハ、落チツィデヨク聞ベキゾ」


「ははは、ありがとうなあ。今日は良い日だぜ」

ヨルグも手を振って応えながらフリーダに手を引かれて歩く。


「なんだか引き続いて俺が莫迦のような役回りで、腹が立つんだが」

騎兵が行ってしまうと、ヨルグは頬に笑みを張り付かせながら、かすかに怒気を含んだ声で抗議した。

「本気にするな。すべてはまやかし、作り事の物語だ。サガを歌って聞かせるようなものさ。聴衆はつまりハザールの騎兵どもだ」


 ヨルグよ、お前は今、遠い未来の作劇手法をその身で実演してるんだぜ。恰好良いとは思わんかね。

 フォカスはしかし、この茶番の効用を今ひとつ理解できていないのか、ヴァイキング然としたいでたちに身を包みながらかすかに不安そうだ。


 ちゃんと説明すべきかな。そう思ったとき――


「マタオ前タチカ――ソノ男ハ誰ディヤ?」

あたりの民家から突出して大きな建物の前で、俺を威圧したあの隊長格の男が突然誰何してきた。

「この娘の叔父でね、久しぶりに訪ねて――」

言いさして舌がもつれた。くそ、なんて圧迫感だ。そこにいるだけで逃げ出したくなる。


「誰ディヤ?」

凍りついた一拍。まずい―


 建物の中から別の男がでてきた。白い布地の服に東方風の金札鎧をつけた、南欧系の若い男。その男を見たフォカスが息を呑む。


「どうした、ダーマッド。そこの蛮族どもが――」


(いかん、フォカスに声を出させるな!)

腹を殴ろうとしたが、遅かった。

「バルディネス!」

フォカスが小声で、しかし鋭く吼えた。


 その声に男が反応した。口元だけが肉食獣の笑みを浮かべ、目には獲物を捉えた鷹の気迫がある。こいつがバルディネスか。聞いた話から想像した、旧弊と権勢に固執する愚物とは大違いじゃないか!

「フォカスか。手間をかけさせてくれたな」


 だめだ、作戦は完全に破綻した。ならば。裏目が続いた最悪の場合を想定して、漠然と頭の中で漂っていたプランがあった。


「フリーダ、駆け足に自信はあるか」

「羊飼いはのろまじゃ出来ないわ」


「よし、皆のところまで走れ!桟橋で迎え撃つ。準備を頼む!」

皆を否応なしに巻き込むが、もはやこの連中を放置しておけない。


「解った!」

 鎖鎧を着させなくて正解だった。羊の群れの端から端を何度も往復し、犬と一緒に斜面を駆ける彼女の足はちょっとした陸上選手並みで、あっという間に200mほど先の曲がり角へ姿を消す。


「この二人、強そうだな」

ヨルグがこれまで見たこともない、緊張した顔をする。斧を長めに構え、足を肩幅に開いて腰を落とした。

「ああ。俺が使っても気休めにもならんが、盾をもって来ればよかったな」

「済まん、私としたことが度を失った」

フォカスが悔恨の色を表情ににじませる。


 拠点からは殆どのハザール人が出払っていたらしく、この場に現れたのはバルディネスとダーマッド、それにあと二人の騎兵だ。もっとも騎兵とは名ばかり、彼らには馬がないのだが。


「この場で勝負をつける必要はない。逃走を優先しつつ奴らの戦力を削ぐ――削げれば良いな?」

「ならば――」

フォカスが懐に手を走らせ、次の瞬間。鈍い小さな衝撃音が二つ立て続けに起こり、バルディネスとダーマッドの二人が右手を押さえて顔をしかめた。


 イレーネがヴァジの指を折った、あの技だ。おそらくは指弾か、きわめて小さいモーションでの投擲による飛礫。発射音こそしないが殆ど拳銃の早撃ちのようだ。

 前に出てきた騎兵二人に向かってヨルグが斧を振り回し、それをさけた騎兵がたたらを踏んで上体を大きく泳がせた。


「いまだ、走れ!」

 俺たち三人は後をも見ずに駆け出した。後ろで呼子笛らしい鋭い高い音がする。バルディネスだろう、聞きなれない言葉で何か指示を飛ばしているのも聞こえた。


 中央アジアあたりの騎兵って、確か弓が主兵器だったよなあ。走りながら高校の授業で使った世界史の資料図説本を思い出す。

「フォカス! あいつらはやっぱり、弓が得意なのか?」

「その通りだ。開けた場所を直線的に逃げるのはまずいぞ」


 いやはや。それなりに建蔽率の高い街中で助かった。尤も目当てがイレーネなら、俺たちを殺すような射掛け方はしないのだろうが。


 相変わらず後ろからばたばたと騎兵たちが追ってくる。時折吹き鳴らす呼子を頼りに、時々脇道からぱらぱらと騎兵が現れて追っ手に加わるのが、どうにも厄介だ。

 前方の脇道から飛び出してきた哀れな騎兵を、フォカスが疾走の勢いをそのまま乗せて殴りぬけた。ラリアット系の技を食らったレスラーよろしく、頭から仰向けに落ちる。その上をヨルグが的確に顔面を踏んで走り抜ける。



 ふと、建て込んだ民家の間を抜ける木道の先に、異様なものがあるのに気が付いた。


 裕福そうな構えの軒先、戸口の上に神棚めいた大きな台が設置され、その上に屠られた牛が丸ごと一頭。足を上に向けた仰向けの姿勢で掲げられている。天啓のごとくろくでもないアイデアが閃いた。

 俺は二人を促して先行させ、追いすがってくる騎兵たちを振り返ってタイミングを測った。この牛は多分神への供物なのだろうが、この際知ったことか。いや、うん。この家の一家にはごめんなさいだ。


だが、やる。


 台を支える柱は家の壁にロープで固定されている。片側の柱のロープに、斧で力いっぱい斬りつけた。そのままヨルグたちを追ってダッシュ。


 ちらりと振り返る。


 ゆっくりと傾いで崩れる神棚とそこから滑り落ちる血まみれの牛が見えた。木材の引き裂かれる破砕音と、ハザール人たちの悲鳴と怒号があたりに響く。何人かは牛を回避して走ってくるが、追っ手のうち6~7人ほどが巻き込まれてパニックに陥っていた。重軽傷者もそれなりに出したに違いない。

 そこからはもう振り返らずに、俺はヨルグたちに追いつくべくピッチを上げて駆け続けた。



 港まで駆け込むと、突堤の入り口にアンスヘイムの男たちが武装して集まっていた。フリーダが首尾よく連絡をつけてくれたらしい。俺はヨルグとともに、いつの間にかすっかり馴染んだいつもの鬨の声をあげた。

「アァンスヘインッム!」


 突堤からも山彦のように唱和する声が轟く。

「アアアアアンッスヘエエーーーーーインムッ!」


 一団に合流する。男たちから口々に、半ば罵声に近いような迎えの声が掛かった。肩を背中をどやしつける、親しげな拳と掌。

「どうしようもない奴だな、全くお前は!」

「退屈してた所にとんでもない騒ぎを持ち込んでくれた。楽しませてもらうぞ」

「戦いだ! 素晴らしい!」

 

そら、お前の盾だ。


そう声が掛かって、インゴルフに借りた円盾が目の前に降って来た。どうにか頭にぶつけたりせずに受け取り、左手に構える。

「無理はしなくて良いぞ、トール。お前は何の訓練も受けてない。俺たちと盾を並べるのは不可能だからな」

アルノルが手厳しいことを言い放つ。

「俺は――」

「良いんだよ。その代わり、お前は歌え。あの不思議な抑揚の付けられたお前の歌で、俺たちを奮い立たせろ」


 ハザール騎兵たちは十数人が港までやってきていて、バルディネスの到着と同時に隊列を整えつつあった。


盾の壁(スキャルドボルグ)を築け! ここであいつらを迎え撃つぞ」

号令とともに、男たちが突堤の入り口をふさぐ壁を作る形に整列し、円盾を二段に構えた。

端と端を鱗の様に重ね合わせ、がっちりと支えあってその隙間から剣や槍、斧がぎらぎらと鋼の輝きを覗かせていた。


 奮い立つ歌か。


 バンド時代を思い出す。俺たち「Goat Counter」には自前のテーマ曲があった。作詞は俺、作曲は矢部ケイコ。いささか陰鬱なフレーズも含むが、シチュエーション的には――


 悪くない。


 片刃の剣を掲げて突進してくる、馬なしの騎兵たちが盾の壁に最初の突撃を試みたその瞬間、俺は喉を震わせ渾身のエネルギーを込めて歌いだしていた。



高い岩棚を蹄で掴み、裂け目を飛び越えて


山羊は岩山を往く わずかな草のため


一頭、二頭、そして三頭


(四頭目はしくじった)


下を見るなよ兄弟――お前ならきっと跳べる


四頭、五頭、そして六頭


(七頭目が踏み切れない)


落ちた奴は忘れろ――お前ならきっと跳べる



 盾の壁を構成する男たちは見事に呼吸を合わせ、進んでは退き、突撃をいなしてはまた押し返す。防御を破ろうと三角形の盾をぶつけてきた騎兵の一人を、アルノルの剣が斜め左方向から襲い、気をとられたその男の顔面をシグルズの斧が断ち割った。



盲目の羊達を導いて、狼どもの窺う中を


山羊は高原を往く わずかな塩のため


一頭、二頭、そして三頭


(後に続くものはまだいるか?)



「おのれ! 弓だ、弓で横から狙え!」

バルディネスの下知にしたがって数名の騎兵が隊列を離れ、埠頭を突堤に沿って走り出した。だが桟橋に積み上げられた樽や木箱に巧みに隠れて、スノッリの弓が彼らを次々に狙い撃つ。


(速い!)


 比較的小さな彼の弓は、その分速射力があった。一度に二本撃ち出したと錯覚させる早さで、立て続けに矢が襲い掛かる。騎兵の一人がまた、顔と喉に一本ずつ矢を生やしてもがきながら倒れた。

 

「気をつけろ、トール! 一人水に飛び込んだ!」

誰かが叫ぶ。突堤の陰を不器用に泳いで、別のハザール騎兵が盾の壁の裏側へ回り込もうとしていた。

 突堤のふちに手をかけて体を持ち上げようとするその男に、俺は駆け寄って、何も考えずに斧を叩き込んだ。スイカでも割るようなもろくあっけない手応え。カジュアルシューズの足底で顔面を蹴り、水中へ叩き落とす。


「莫迦が。俺たちのステージに乱入だと? 他所のハコでやれ」


 吐き捨てて再び歌を再開する。いつの間にか俺はライブハウスでフロントに立っていた時の、懐かしい高揚感の中にいた。




すすり泣き逃げ惑う羊の間で


俺達は集まり仲間を数える


知った顔も次第に消え 俺の歯はすっかり磨り減った  


だが俺の角を見ろ! 俺の蹄を見ろ!


並べろ肩を 突き出せ角を


奴らは諦めない 夜はまだ長い



背中を見せるな兄弟――俺達はきっと勝てる


ついに殺人童貞を切って捨てたトール。

ゴートカウンターの歌とともに、平穏な日々は流れて過ぎ去り

斧の一撃が荒ぶる時代の幕を開ける。


今宵はこれまでに。

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