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アルメルシア クロニクル ―『君と紡いだ偽りの物語は、やがて世界の真実になる』  作者: amya


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第81話:『氷上の狂宴』

第81話:『氷上の狂宴』


ズズズズズ……バギィィィンッ!!


 不協和音と共に、氷河のドーム天井が崩落した。

降り注ぐ巨大な氷塊と、舞い上がる雪煙。その向こうから、無数の白い影が雪崩れ込んできた。


[System_Entity: Eraser_Unit]


 のっぺらぼうの白い巨人たち。

彼らは感情のない動作で、眼下にある「箱庭」━━レジスタンスたちの集落へと落下し、着地と同時に腕を振り回した。


ブォンッ!


 巨人の腕が、近くにあったドワーフの工房を薙ぎ払う。

破壊音はしなかった。建物は物理的に壊れるのではなく、触れられた部分から急速に透明になり、ワイヤーフレームへと還元され、そして「無」へと消滅した。


「迎撃ッ!! 俺たちの家を消させるな!!」


 ヴォルフの鋭い号令が響く。

それに応えるように、瓦礫の陰から矢と魔法が一斉に放たれた。


ドガガガガッ!!


 オークの弓兵が放つ剛弓が巨人の肩を貫き、人間の魔術師が放つ火球が白い装甲を焦がす。本来なら敵対するはずの種族たちが、背中を預け合い、一つの敵に向かって連携している。

それは、システムが想定していなかった「バグ(奇跡)」の光景だった。


「私も……!」


 私は杖を掲げ、戦場へと走った。

巨人の一体が、逃げ遅れた子供のNPCに手を伸ばしている。


「『炎槍フレイム・ランス』ッ!!」


ズドンッ!!


 放たれた炎の槍が巨人の手首を直撃し、爆散させた。

巨人がよろめいた隙に、獣人の戦士が子供を抱えて飛び退く。


「……すまねぇ、嬢ちゃん!」

「下がって! 前線は私たちが支える!」


 私は叫び、次々と魔法を放った。

けれど、敵の数が多すぎる。倒しても倒しても、天井の大穴から次々と白い巨人が湧いてくる。まるで、壊れた蛇口から溢れ出す水のように。


「ガアアアアッ!!」


 悲鳴が上がった。

前線で盾を構えていた重装歩兵が、巨人の拳に捕まった。彼の身体が、足元からノイズに変わっていく。


「身体が……消える……!? いやだ、俺はまだ、死にたくねぇ……!」


プツン。


 断末魔は唐突に途切れ、彼の存在は完全に消失した。

装備も、肉体も、彼が生きた証も、すべてが「0」に還された。


「……なんてこと」


 恐怖が伝染する。

死ぬことへの恐怖ではない。「無かったこと」にされる恐怖。

レジスタンスの戦線が動揺し、崩れかけたその時だった。


ドォォォォォォォォォォォンッ!!!!


 戦場のド真ん中に、隕石が落ちたような衝撃が走った。

舞い上がる氷片。その爆心地に、漆黒の影が立っていた。


 ボロボロのフルプレートアーマー。身の丈ほどある大剣。

そして、兜の奥で狂ったように明滅する、血のような赤い瞳。


『……障害物エラー……確認……』


 黒騎士━━悠斗だ。

彼は周囲のレジスタンスなど目に入っていないようだった。

ただ、目の前に立ち塞がる白い巨人たちを「道を塞ぐ邪魔者」として認識し、排除行動を開始した。


『……排除デリートォォォッ!!』


ズバァァァァンッ!!


 彼が大剣を一閃させた瞬間、三体の巨人が同時に両断された。

速い。ヴォルフが見せた映像よりも、さらに加速している。

けれど、その動きはあまりにも危うかった。


ガキンッ!


 巨人の拳が、悠斗の肩に直撃する。鎧が砕け、黒いノイズが散る。

だが、彼は怯まない。防御行動ガードを捨てているのだ。

肉を切らせて骨を断つどころか、相打ち覚悟の特攻スーサイド・アタック


「悠斗! やめて!」


 私の叫びは、轟音にかき消される。

彼は巨人の腕を強引にねじ伏せ、その頭部に剣を突き刺した。敵の返り血(白いポリゴン)を浴びながら、彼は次々と敵を屠っていく。

その姿は英雄ではない。血に飢えた狂戦士バーサーカーそのものだった。


「……ふざけんなよ、テメェ」


 低い、地を這うような声が聞こえた。

ヴォルフだ。

彼は二振りの大剣を引きずりながら、暴れ回る悠斗の方へと歩み寄っていた。


「そんな死に急ぐような剣を……俺に見せるつもりか!?」


 ヴォルフが地面を蹴った。

銀色の閃光となり、悠斗と巨人の間に割り込む。


キィィィィンッ!!


 交差した双剣が、悠斗の大剣を真っ向から受け止めた。

火花が散り、衝撃波が周囲の雪を吹き飛ばす。


 悠斗は弾かれたように後退し、すぐに体勢を立て直してヴォルフを睨みつけた。


『……ターゲット……変更……』

『……進行ヲ……妨ゲルナ……』


 赤い瞳が、かつての仲間を「排除対象」としてロックオンする。


「上等だ、クソ兄貴」


 ヴォルフはニヤリと笑った。その顔には、怒りと、それ以上の哀しみが張り付いていた。


「俺が知ってる英雄はな……もっと楽しそうに剣を振るうバカだったんだよ! こんな、自分の命をゴミみたいに扱う人形じゃねぇッ!!」


「オオオオオオオッ!!」


 ヴォルフが吠えた。

それはレジスタンスの指揮官としての声ではない。

かつて悠斗の背中を追いかけ、誰よりも彼に認めてもらいたかった「弟分」としての、魂の咆哮だった。


「思い出させてやるよ、悠斗ぉ!! テメェに剣を教わったのは、どこの誰だッ!!」


 巨人と、レジスタンスと、黒騎士と、銀狼。

四つ巴の乱戦が、崩壊する氷の箱庭で幕を開けた。





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