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アルメルシア クロニクル  作者: amya


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第7話:『最初の依頼と、地下水道の怪異』

第7話:『最初の依頼と、地下水道の怪異』


「……というわけで、弁償金は金貨一〇枚になります」

「は、はい……ごめんなさい……」


 冒険者ギルドのカウンターで、私は小さくなっていた。先ほど粉々に吹き飛ばした魔力測定用の水晶。あれ、ものすごく高価なマジックアイテムだったらしい。長老からもらった魔石を換金したけれど、それでも足りない分は「借金」となってしまった。


「身体で払うか?」なんて下品な野次を飛ばしてきた冒険者は、ユリオの氷のような視線だけで黙らせたけれど、お金の問題は現実的だ。


「仕方ない。一番手っ取り早く稼げる依頼クエストを受けよう」


 ユリオが掲示板から一枚の依頼書を剥がしてきた。


【依頼内容:西区画・地下水道の異音調査】 【報酬:金貨二枚(成功報酬含む)】 【難易度:E(初心者向け)】


「地下水道……。うぅ、臭そう……」

「文句を言うな、破壊神。お前が壊した水晶代だぞ」

「破壊神はやめてぇ!」


 私たちは渋々、その依頼を受けることにした。王都の地下には、古代遺跡を利用した広大な下水道網が広がっているらしい。最近、そこで「奇妙な金属音」がして、排水が滞っているというのだ。


 ピチャ……ピチャ……。


 王都の西外れにある入り口から地下へ降りると、そこは予想通りの悪臭と闇の世界だった。腐った水とカビの匂い。鼻が曲がりそうだ。


「……暗いな。リリア、明かりを頼めるか?」


「うん。……『灯火ライト』」


 私が杖を軽く振ると、先端の宝石から柔らかな白い光が生まれ、周囲をボゥッと照らし出した。湿った石壁。足元を流れる汚水。そして時折、ネズミがカサカサと走り去る音。


「……油断するなよ。地下水道には巨大化したドブネズミや、スライムが巣食っていることがある」


 ユリオは『星斬り』を抜き身で構え、慎重に進んでいく。私は杖を懐中電灯代わりにしながら、彼の背中にぴったりとくっついて歩いた。


「ねえ、ユリオ。さっきの『金属音』って何だろう? 誰かが工事でもしてるのかな」 「さあな。だが、ただの工事ならギルドに依頼は来ない。……魔獣か、あるいは浮浪者が住み着いているか」


 さらに奥へ進むこと三〇分。私たちは、第4排水区画と呼ばれる広い空間に出た。  そこは、複数の水路が合流する巨大な貯水槽のようになっていた。


 ━━そして、そこで「それ」を見つけた。


 ギュイィィィィン……ガガガッ……。


 耳障りな駆動音。闇の奥、水路の合流地点に、赤黒い光が明滅している。


「……なんだ、あれは?」


 ユリオが目を細める。私の『灯火』が、その正体を照らし出した瞬間、背筋が凍りついた。


 そこにいたのは、魔獣ではなかった。かといって、動物でもない。


 体長二メートルほどの、巨大なワニのような形をしている。けれど、その皮膚は鱗ではなく、ツギハギだらけの錆びた鉄板で覆われていた。口からは蒸気を吐き出し、左目はカメラレンズのようなガラス玉が埋め込まれている。


「……機械の、ワニ?」


 私の呟きに反応するように、ワニのカメラアイがギョロリとこちらを向いた。


 『━━ピピッ。生体反応、確認。排除行動ニ移行シマス』


 無機質な合成音声。言葉の意味はわからないけれど、明らかに「敵意」を持った響きだ。


「下がるぞ、リリア! こいつはただの野良魔獣じゃない!」


 ユリオが警告した瞬間、機械ワニが口を大きく開けた。その喉の奥には、喉仏の代わりに回転する銃身ガトリングのようなものが見えた。


「え、あれって……ガン!?」


 ダダダダダダダダッ!!


 狭い地下水道に轟音が響く。火薬の匂い。汚水が跳ね上がり、石壁が砕ける。


(嘘でしょ!? 剣と魔法の世界に、どうして機関銃があるの!?)


 私は混乱しながら、柱の陰に飛び込んだ。


「くっ……!」


 ユリオが大剣を盾にして銃弾を防ぐ。火花が散り、衝撃で彼の足が汚水の中を後退する。


「リリア、魔法だ! ……だが爆発させるなよ! ここで崩落したら生き埋めだ!」

「わ、わかってる! 熱で……焼き切る!」


 私は杖を構えた。相手は鉄の塊。なら、熱には弱いはず。でも、動きが速い。ワニは銃撃を止めると、低い姿勢で水面を滑るように突進してきた。


 ガァァァァッ!!


 鋼鉄のあぎとが、ユリオの足に噛みつこうとする。ユリオは跳躍してそれをかわし、空中で剣を振り下ろす。


 ガギィィン!!


「硬い……! イノシシ以上だ!」


 斬撃は装甲を浅く切り裂いたが、致命傷にはならない。ワニの尻尾━━チェーンソーのような刃がついた尾が、鞭のようにしなる。


「危ない!」


 私はとっさに叫び、魔法を放った。


「『閃光フラッシュ』!!」


 カッ!!


 地下空間を、目もくらむような白い光が埋め尽くした。二〇四〇年の知識。カメラレンズには強烈な光が効くはずだ!


 『━━視覚センサー、ホワイトアウト。再起動シマス……』


 予想通り、ワニの動きがピタリと止まり、首を振って混乱している。その隙だ。


「今だよ、ユリオ! 目が見えてない!」

「ああ、見えたぞ! 首の継ぎ目だ!」


 ユリオが着地と同時に踏み込む。『星斬り』の刀身に、青い魔力が奔流となって纏わりつく。


「そこだァァァッ!!」


 ズバッ!!


 一閃。装甲の隙間、わずかに露出していた動力パイプと首の関節を、鋭い刃が断ち切った。ワニの首がガクンと落ち、切断面から大量のオイルと火花が噴き出した。


 『……エ、エラー……任務……遂行、不……能……』


 機械ワニは断末魔のノイズを残し、汚水の中に沈黙した。


「はぁ、はぁ……。やった……?」


 私は恐る恐る近づいた。ユリオも剣を納め、油断なく残骸を見下ろしている。


「……なんだ、こいつは。魔獣の身体を、鉄で無理やり繋ぎ合わせているのか?」


 ユリオが剣先でワニの装甲を剥がす。中から出てきたのは、生物の内臓ではなく、びっしりと詰め込まれた歯車と、基板。そして、その中心にある黒いボックス。


 私はそのボックスに刻まれた文字を見て、息を呑んだ。


 【Product of Northgard - Type: Swamp Stalker 04】


 アルファベット。この世界の共通語ではない。私がよく知る、地球の言語だ。


「……英語?」


「エイゴ? なんだそれは」


 ユリオが怪訝そうに聞く。私は震える指でその文字をなぞった。


「これ……私の故郷の言葉に似てる。『ノースガルド製』……って書いてある」


「ノースガルド……? 北の国か」


 ユリオが眉をひそめる。


「確か、北の極寒の地に閉ざされた国があったはずだ。……だが、こんな機械を作る技術があるなんて聞いたことがない」


 私の心臓が早鐘を打つ。銃撃。カメラアイ。そして英語の刻印。明らかに「異質」な技術が、このファンタジー世界に入り込んでいる。


(もしかして、私と同じように……こちらの世界に来た「誰か」がいるの?)


 それとも、二〇四〇年の地球の技術が、何らかの形でこの世界に流れ込んでいるのか。  どちらにせよ、これはただの掃除依頼クエストじゃ済まされない事態だ。


「……これ、持って帰ろう。ギルドに見せなきゃ」


 私が言うと、ユリオは険しい顔で頷いた。


「ああ。王都の地下深くに、こんな偵察機が入り込んでいる。……何か、とんでもないことが起きようとしているのかもしれない」


 私たちは黒いボックスを回収し、重い足取りで地上への道を戻った。地下水道の闇よりも深い「世界の謎」が、すぐそこまで迫っているのを感じながら。





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