↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/221

第58話:『身代わりの少女』

第58話:『身代わりの少女』


 正午を告げるサイレンなどない。代わりに、地鳴りのような足音が大地を揺らした。


「……始まったな」


施設の裏手、鬱蒼と茂る森の茂みの中で、レンが手元のタブレットを操作しながら呟いた。画面には、第9研究棟の正面ゲート付近の映像が映し出されている。

 そこは、人の波で埋め尽くされていた。三万人の群衆が、プラカードや横断幕を掲げ、怒涛のように押し寄せている。


その最前列。アスファルトの陽炎の向こうに、一人の少女が立っていた。

 白いワンピースを着て、杖をつき、凛とした表情で機動隊と対峙する少女。……「私」だ。


「……よくできてるわね、あれ。近くで見ても、私自身が騙されそう」

 私は茂みの中から、画面の中の「もう一人の私」を見て感心した。


あれはレンが用意した自律歩行型のアンドロイドだ。巷にはいろいろなロボットショップがある。今回は金額を気にせずに、近場で最高級のアンドロイドを購入して、頭部には、私の顔をミリ単位でスキャンして作られた、最高級の医療用シリコン製マスクが被せられている。特殊なメイクアップスキンが施されたその肌は、直射日光の下でも不自然なテカリを出さず、本物の人間と同じように光を吸収し、反射している。


本物の私は今、泥だらけの作業服を着て、こんな薄暗い森の中に潜んでいるというのに。


「当たり前だ。マスクの内部には微細なアクチュエーターを仕込んである。まばたき一つ、口角のわずかな震え一つまで、俺がリモートで制御してるんだからな」

 レンが誇らしげに鼻を鳴らす。


「声はどうしてるの? 向こうは相当な騒音よ」

「アンドロイドの喉部分に設置した高出力の指向性スピーカーだ。周囲の騒音をリアルタイムでキャンセルしながら、お前の声を合成して流してる。……ほら、聞けよ」


『警告する! 直ちに解散しなさい! これ以上の接近は実力行使とみなす!』

 機動隊の指揮車から、拡声器の警告が響く。

 それに対し、画面の中の「私」がゆっくりと口を開いた。


『私たちは、ただ真実を知りたいだけです。この施設の中にいる子供たちを、現実に返してください!』


その声は、電子的な冷たさを一切感じさせない、切実な「肉声」として現場の空気を震わせた。


 最前列でジュラルミンの盾を構える機動隊員たちの数人が、一瞬、気圧されたように身を引くのがわかった。彼らの目の前にいるのは、光の虚像ではない。確かにそこに存在し、アスファルトの上に長い影を落とし、風にワンピースの裾をなびかせている、一人の生身の少女、そう、彼らの目には見えているのだ。


「撃てないだろ、黒田。……世界中が見てるんだからな」

 レンがニヤリと笑う。上空には報道ヘリが旋回し、ネット配信者たちが至る所でスマホを構えている。

 この状況で、非武装の少女に銃を向ける勇気のある人間など、この場には一人もいない。


「……よし、今だ。デコイがヘイトを稼いでいる隙に、俺たちは搬入用のダクトから地下へ潜るぞ」

「わかったわ」


私は最後にもう一度だけ、画面の中の「私」を見た。

 シリコンの仮面の下にあるのは無機質な機械の骨組み。けれど、その姿は今、三万人の希望を背負って戦っている。


「……偽物の、あの子に恥じないように、本物の私も仕事をしないとね」


私は杖を握り直し、レンの後に続いて、さらに深い森の奥へと足を踏み出した。





感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!

ちょっと面白いかなと思いましたら評価をお願いいたします。反響は励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。