第57話:『革命の作戦会議』
第57話:『革命の作戦会議』
夜が明けると、代々木公園の景色は一変していた。
瓦礫の山となった野外ステージを中心に、色とりどりのテントが無数に立ち並んでいる。それはキャンプ場のような牧歌的なものではなく、戦場における野営地の様相を呈していた。
ネットを通じて集まった支援物資━━水、食料、毛布、そして発電機━━が、トラックで次々と運び込まれる。昨日までただ祈るだけだった信者たちは、今や「革命の志願兵」として、バリケードを築き、見回りをし、組織だって動いていた。
その中心にある、一際大きな白いテント。そこが、私たちの司令部だ。
「……見てみろよ、このサマを」
レンがテントの隙間から外を覗き、呆れたように、しかしどこか楽しげに言った。
「ネットの募金は一晩で三億円を突破。世界中のハッカーが政府のサーバーに攻撃を仕掛け、主要メディアも『少女の反乱』をトップニュースで報じてる。……完全にお祭り騒ぎだ」
「お祭りじゃないわ。戦争よ」
私はパイプ椅子に座り、ウィ〇ーインゼリーを吸いながら答えた。目の前の折りたたみテーブルには、レンがハッキングで入手した第9研究棟の立体構造図が、ホログラムで投影されている。
「で、どうやって攻めるの? 正面突破?」
「自殺志願者ならそうするだろうな」
レンが指先で地図を回し、正面ゲートを拡大した。そこには、赤い点が密集している。
「機動隊のバスが50台。放水車に装甲車、さらに奥には自衛隊の戦車まで配備されてる。……アリ一匹通さない『鉄の壁』だ。三万人の信者が突撃しても、催涙ガスとゴム弾で蜂の巣にされて終わりだ」
「じゃあ、無理じゃない」
「まともにやればな」
レンは地図を反転させ、施設の裏手━━鬱蒼とした森に面したエリアを指差した。
「ここだ。地下廃棄物処理ルート。……核シェルターの排気ダクトや汚水処理施設がある裏口だ」
「ここから入るの?」
「警備は薄い。だが、問題は『扉』だ。……ここには生体認証付きのチタン合金製隔壁がある。ハッキングで開けるには時間がかかりすぎる」
レンが私を見た。
「そこで、お前の出番だ」
「……壊せってこと?」
「そうだ。だが、爆発音は出すなよ? 気づかれる」
無茶苦茶な注文だ。でも、不思議と「できない」とは思わなかった。
「……わかった。やってみる」
私は空になったゼリーの容器を握り潰した。脳に糖分が行き渡り、思考がクリアになっていく。
「作戦はこうだ」
レンが地図上に二つの矢印を描いた。
「明日の正午。……三万人の群衆を動かし、正面ゲートへ向けて大規模なデモ行進を行う。警察の戦力は、その対応で多くが正面に釘付けになる」
巨大な陽動。三万人の「人間の盾」が、警備の目を引きつける最強の囮になる。
「その隙に、俺たち別動隊が裏口から潜入。……最短ルートで地下最深部のICUへ向かい、悠斗を回収して脱出する」
「シンプルね」
「だが、失敗は許されない。……もし途中でバレれば、俺たちは地下でネズミのように狩られるし、表の群衆も暴徒鎮圧の名目で制圧される」
レンが真剣な眼差しで私を見据えた。
「やれるか? リリア」
私は自分の右手を見つめた。昨日の夜、鉄骨を止めた感覚がまだ残っている。物理法則の裂け目。その手触り。
私は目を閉じ、イメージした。チタン合金の分子構造。原子の結合。それを力づくで破壊するのではなく、結合エネルギーだけを「キャンセル」して、砂のように崩れ去らせるイメージ。
「……できるわ」
目を開けると、そこには迷いのない自分の顔が、消灯したモニターの黒い画面に映っていた。
「今の私なら、壁だって溶かせる。……悠斗が待ってるんだもの」
「上等だ」
レンがニカっと笑い、拳を突き出してきた。私も拳を合わせる。
「作戦開始は明日の正午。……世界で一番派手で、静かな『革命』を起こしてやろうぜ」
テントの外からは、変わらずシュプレヒコールが聞こえてくる。でも、それはもう私を縛る鎖ではない。彼らの声は、私たちが進む道を切り開くためのファンファーレだ。
私は残りの羊羹を口に放り込み、明日の戦いに向けて、静かに闘志の炎を燃やし始めた。




