↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/220

第5話:『野営の夜と、二つの月』

第5話:『野営の夜と、二つの月』


 日が沈み、街道が群青色の闇に包まれる頃、私たちは街道を少し外れた開けた場所で足を止めた。王都まではあと四日の道のり。今夜はここで野宿をすることにした。


「よし、ここなら見通しもいいし、魔獣が近づいてもすぐに分かる」


 ユリオが慣れた手つきで周囲の枯れ木を集め、石で炉を組み始めた。私はその横で、手に入れたばかりの『聖樹の杖』を構えてスタンバイする。


「リリア、頼めるか?」


「うん、任せて! ……優しく、小さく……」


 私は深呼吸をして、杖の先端を枯れ木の山に向けた。戦闘の時のように激しく燃え上がるイメージではなく、マッチの先にポッと灯るような、小さな灯火を想像する。


「種火、イグニス」

優しく落ち着いた声色で唱えた。


 ボッ。


 杖の先から小さな火の粉が飛び、枯れ葉に引火した。炎はパチパチと音を立てて広がり、やがて心地よい焚き火となって私たちを照らし出した。


「おぉ……! 完璧!」

「上達したな。これなら料理番も任せられそうだ」

「ありがとう、ユリオ」


「次は鍋に水を入れたいんだけど、これも頼めるかな」

ユリオから優しく頼まれてしまったら、これはやるしかない!!


落ち着け私。す~はぁ~す~はぁ~。よし。

私は少し離れた所に移動して、2,3人用位の鍋を手前に置いて、杖を鍋に向けて掲げた。


「水生成、ウォーターボール」

何もない空中に、鍋よりも3倍くらい大きな水玉を作り出すことができた。その水玉はふよふよとかたちを変えながら浮かんでいる。その水玉で鍋を包むように操作して、操作解除!!


バシャッ!!

結構周りは水浸しだけれど、鍋には溢れるほどに水が入っている。


よしよし、出来た。この世界では魔法で作った自然にもある様なものは、時間が経っても消えないみたいなんだよね。


ちょっと鍋の水が多過ぎるから少しこぼしてと……。火のところまで持っていくのは、なかなかの重労働だよね。そうだ、魔法でこの鍋ごと浮かせて持っていこう。


浮かせて運ぶ魔法……。う~ん。

「浮上、フロート!!」


おおっ、鍋がふよふよと浮かんだ。このまま火のところへ移動だ。杖を掲げたまま静かに一歩ずつ近づく。


「ユリオ~、できたよ~~」

チラッと見ると、ユリオは寝床の準備をしてくれているところみたいだ。私は鍋を浮かせることに集中しながら声を掛けた。


ユリオは驚いたようで慎重に近づいてきた。

「リリア、あぶないから一旦おこうか」

「俺、持つからさ」


私はゆっくりと鍋を地面に近づけていく。ふよふよしているので、このままではこぼれちゃうな。

「ユリオ~、地面にぶつかりそうだから、鍋持ってくれる~?」

「うん、浮かんでいるこれ、持っていいの?」


私は尚も集中したまま、チラッと頷くだけで同意を示した。ユリオは鍋の取手に手を伸ばして掴んでくれた。

「ふぅ~~~」

結構集中して疲れてしまったけど、グッジョブわたし。




季節感は夏を少し過ぎて、冬にはまだ遠い秋の頃だろうか。朝晩は少し肌寒く、隆盛を極めた草花も、落ち着いた栄華を満喫している様な頃合いだと思う。


 ユリオが鍋を火にかけながら笑う。夕食は、村で分けてもらった干し肉と野菜を入れたシンプルなスープだ。味付けは塩だけだったけれど、冷えた体に染み渡るような美味しさだった。


 食後、私は膝を抱えて夜空を見上げた。そこには、渋谷では絶対に見られない光景が広がっていた。


 満天の星々。そして、その中心に浮かぶ、大小二つの月。一つは青白く輝く大きな月。もう一つは、その周りを衛星のように回る、赤みがかった小さな月。


「……本当に、違う世界なんだなぁ」


 ぽつりと呟いた言葉は、焚き火の爆ぜる音に消された。でも、隣に座っていたユリオには聞こえていたようだ。


「違う世界?」


「あ、ううん! ……私が住んでた田舎とは、星の並びが違うなって」


 慌てて誤魔化すと、ユリオは不思議そうに空を見上げた。


「そうか。……俺には、この空が見慣れたものなのか、そうじゃないのかすら分からないな」


 彼は寂しげに目を細め、自分の手を見つめた。


「名前も、生まれも思い出せない。なのに、剣の握り方や、魔獣の殺し方だけは身体が覚えている。……俺は一体、何者なんだろうな」


 その横顔があまりに切なくて、私は胸が締め付けられた。悠斗先輩。もし彼が本当に先輩なら、彼は「サッカーボールの蹴り方」じゃなく「剣の振り方」を覚えている自分に、どれほどの違和感を抱いているんだろう。


「……大丈夫だよ」


 私は努めて明るい声を出した。


「ユリオはユリオだよ。私を助けてくれた、優しくて強い剣士さん。それだけじゃダメ?」


「リリア……」


「過去が思い出せなくても、今ここにいるユリオは本物だもん。……それに、これから新しい思い出をいっぱい作ればいいじゃない。私が付き合うよ!」


 私が胸を張って言うと、ユリオはきょとんとして、それから吹き出した。


「ふっ……くくっ。お前は強いな」

「む、笑わないでよぉ」

「いや、悪い。……そうだな。お前の言う通りかもしれない」


 ユリオは私の頭にポンと手を置いた。その掌の温もりが、冷たい夜風の中で何よりも心地よかった。


「ありがとう、リリア。……お前がいてくれてよかった」


私は子供の様なあどけない笑顔を向けた。充実感で胸がいっぱいになりながら、私は桃色になった顔を膝に埋めた。そんなこと言われたら、勘違いしちゃうじゃない。


「……もう寝ろ。見張りは俺がやる」

「え、でも……」

「子供は寝る時間だ。明日も1日中歩くんだぞ」


 ユリオに促され、私は焚き火の近くで横になった。ユリオは焚き火に背を向けて周囲を見張ってくれている。二つの月が見守る異世界の夜は、思ったよりもずっと穏やかで、優しかった。


(おやすみなさい、ユリオ。……明日も、いい日になりますように)


 私は祈るように目を閉じ、深い眠りへと落ちていった。王都グランドリアまで、あと四日。無事に着けますように……。





感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!

ちょっと面白いかなと思いましたら評価をお願いいたします。反響は励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。