第25話:『奪還作戦と、信頼の証明』
第25話:『奪還作戦と、信頼の証明』
ドォォォォォンッ!!
深夜の『第4再教育センター』に、爆音が轟いた。正門付近で黒煙が上がり、警報が鳴り響く。
『━━緊急事態。正門ニ、武装集団接近。テロリストト断定』 『━━守備隊、迎撃セヨ。繰り返ス、守備隊、迎撃セヨ』
警備のマキナソルジャーたちが、一斉に正門へ向かって走っていく。レジスタンス『野良犬』の本隊による陽動だ。子供たちは廃材で作ったデコイ(囮)と爆竹を使い、数倍の規模に見せかけて敵を引きつけている。
「……掛かったな。手薄になった裏口から入るぞ」
建物の影で、ヴォルフがハンドサインを送る。私、ユリオ、エララ、そしてヴォルフの四人による精鋭部隊は、排気口を焼き切って施設内部へと侵入した。
内部は、冷たい青色の照明に照らされていた。消毒液と、焦げた鉄の匂い。私たちはダクトを這い進み、工場のメインフロアを見下ろす通気口から、その光景を覗き込んだ。
「……ッ」
私は思わず息を呑み、口元を押さえた。ユリオの目が険しくなり、ヴォルフがギリと歯ぎしりをする。
そこにあったのは、巨大なベルトコンベアだった。流れているのは、機械の部品ではない。拘束された、人間たちだ。
ウィィィン……ガシャン。
無機質なアームが、流れてくる人間の頭蓋を固定し、ドリルで穴を開ける。悲鳴はない。事前に声帯を麻痺させられているのか、あるいは恐怖で声も出ないのか。別のラインでは、腕を切断され、代わりに削岩機のような義手を縫い付けられている者もいる。
「……なんだよ、これ。ふざけんなよ……!」
ヴォルフの声が震えている。
「あいつら……俺たちの仲間も、親父やお袋も、こんなふうに『加工』されたってのかよ……!」
人間を、ただの生体パーツとして再利用する。効率だけを追求した、狂気の沙汰。王都の地下書庫で見た光景よりも、さらにシステマチックで、救いようがない。
「……許さない」
私の体の中で、熱いものが沸騰した。これは「怒り」だ。命を冒涜するシステムへの、純粋な憤り。
「カレンの反応があったわ!」
エララが端末を操作し、叫ぶように囁いた。
「最奥の『第1処理室』。……脳チップの埋め込み手術が始まる寸前よ!」
「急ぐぞ!」
私たちはダクトを蹴破り、フロアへと飛び降りた。
ダダダダダダッ!
私たちは最短ルートを駆け抜ける。立ちふさがる警備ドローンは、ユリオが一刀両断にし、エララがハッキングで同士討ちさせ、私が熱線で焼き払った。
「そこだ! あの扉の向こうだ!」
ヴォルフが叫び、重厚な手術室の扉を爆破する。
ドゴォン!!
煙の中に飛び込むと、手術台の上に拘束された少女の姿があった。茶色の髪を短く切った、痩せた少女。カレンだ。彼女の頭上には、レーザーメスのアームが迫っていた。
「カレン!」
ヴォルフが駆け寄ろうとした、その時。
ズシンッ!!
天井から巨大な影が落下し、私たちの前に立ちはだかった。身長三メートル。全身が分厚い装甲板で覆われ、両腕が巨大な「粉砕ハンマー(クラッシャー)」になっている異形の兵士。
『━━侵入者、排除。……業務ノ、妨害ハ、許サナイ』
重低音の合成音声。工場の管理官だ。
「どけぇぇッ! カレンを返せぇッ!」
ヴォルフが激情のままに突っ込み、手製の銃を連射する。しかし、弾丸は分厚い装甲に弾かれ、傷一つつけられない。
「ヴォルフ、危ない!」
管理官の巨大なハンマーが、ヴォルフを叩き潰そうと振り下ろされる。彼は避けられない━━!
ガギィィィンッ!!
金属音が響き渡り、火花が散った。潰されたのはヴォルフではない。彼の前に滑り込んだユリオが、『星斬り』でハンマーを受け止めていたのだ。
「……死に急ぐな、クソガキ」
ユリオの膝が沈むほどの重圧。それでも、彼は一歩も引かない。
「余所者……! なんで……!」
「言ったはずだ。……仲間を助けに来たんだと」
ユリオは歯を食いしばり、ハンマーを押し返す。
「リリア! エララ! 今だ!」
「「了解!」」
エララが手術台のコンソールに飛びつき、高速でキーを叩く。
「レーザーメス停止! ……拘束解除!」
カプシュッ、と音がしてカレンの拘束具が外れる。同時に、私は杖を管理官に向けた。
「ユリオ、離れて!」
ユリオがバックステップで距離を取る。管理官が再びハンマーを振り上げようとするが、その動きは鈍い。油圧式だ。
「中の油を……沸騰させてあげる!」
私は杖のフィンを展開し、管理官の関節部分に照準を合わせた。
「『局所加熱』、沸点突破!!」
シュゥゥゥゥッ!!
目に見えないマイクロ波が関節のシリンダーを直撃する。内部のオイルが一瞬で気化し、体積が千倍以上に膨張する。逃げ場を失った圧力は、どうなるか?
ドパンッ!! プシューーーッ!!
破裂音と共に、管理官の肘と膝から白煙とオイルが噴き出した。
『━━警告。油圧低下。駆動系、破損。……エ、ラー……』
巨大なハンマーが床に落ち、管理官はその場に崩れ落ちた。動けない鉄屑の完成だ。
「……すげぇ」
ヴォルフが呆然と呟く。ユリオの防御、エララのハッキング、そして私の魔法。三人の完璧な連携が、難攻不落の管理官を瞬殺した。
「カレン!」
ヴォルフは我に返り、手術台へ駆け寄って少女を抱き起こした。少女の目がうっすらと開く。
「……ヴォル……フ……?」
「ああ、そうだ。助けに来たぞ。……バカ野郎、心配させやがって」
ヴォルフの声が湿っていた。彼はカレンを背負うと、私たちに向き直った。
「……おい、余所者たち」
彼は少し気恥ずかしそうに、でも真っ直ぐな目で言った。
「ありがとな。……あんたたちがいなきゃ、俺は死んでたし、カレンも助からなかった」
私は微笑んで首を振った。
「お礼はここを出てから。……エララ、脱出ルートは?」
「確保済みよ。……ついでに、この工場のメインサーバーに『プレゼント』を置いてきたわ」
エララが悪い顔でウィンクする。
「あと三〇秒で、製造ラインの制御プログラムが暴走する。……ここはもう使い物にならなくなるわ」
「最高だ!」
ヴォルフがニヤリと笑う。
「ずらかるぞ! 野郎ども、撤収だ!」
私たちが裏口から脱出し、安全圏まで離脱した直後。背後の工場から、盛大な爆発音と火柱が上がった。暴走したアーム同士が殴り合い、ラインが崩壊しているのだろう。黒い煙が、雪空に昇っていく。
雪原の物陰で、本隊の子供たちとも合流し、みんなで抱き合って喜んでいる。ヴォルフはカレンを仲間に預けると、私の前に歩み寄ってきた。そして、右手を差し出した。
「……俺はヴォルフ。レジスタンス『野良犬』のリーダーだ」
彼は改めて名乗った。それは、私たちを「怪しい余所者」ではなく、対等な「同志」として認めた証だった。
「私はリリア。……よろしくね、ヴォルフ」
私がその小さな、けれど傷だらけの手を握り返すと、彼はフッと笑った。
「ああ。……ここからは、俺たちも一蓮托生だ。マザーの居城だろうが、地獄の底だろうが、案内してやるよ」
固い握手。凍てつく雪原で、新しい絆が結ばれた。カレンを救い出し、工場の破壊にも成功した。でも、これはまだ小さな勝利に過ぎない。
本丸は、この先にある。カレンの持つ情報が、最強の敵『マザー・ブレイン』への道を切り開く鍵となるはずだ。




