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アルメルシア クロニクル  作者: amya


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第19話:『国境の要塞と、氷の門番』

第19話:『国境の要塞と、氷の門番』


 森を抜け、急な山道を登り切った私たちの目の前に、それは現れた。


「……あれが、国境の要塞『ウィンターゲート』」


 切り立った二つの岩山の間に、巨大な石壁が挟まるようにして築かれている。高さは三〇メートル以上。かつては王国を守る盾だったその場所は、今は不気味なほどの静寂に包まれていた。人の気配がない。見張り台に旗もなく、ただ閉ざされた鋼鉄の門が、私たちを拒絶するように立ちはだかっている。


「熱源反応なし。……人間の守備兵は一人もいないわね」


 エララがゴーグルを調整しながら呟く。逃げたのか、それとも排除されたのか。寒風が吹き抜け、ヒュオオオという音が亡霊の悲鳴のように響く。


「……罠か?」

「罠でも行くしかない。ここを通らなきゃ、北へは入れないもの」


 私は杖を握りしめ、ユリオと顔を見合わせた。彼が頷き、私たちは警戒しながら門へと近づいた。


 その時だった。


 ズズズズズ……ッ!!


 地面が激しく振動した。地震? 違う。門の前にある雪原が、盛り上がっている!


「来るぞ! 何かデカいのが!」


 ユリオが私とエララを背に庇う。雪が爆発したかのように舞い上がり、その中から巨大な影が姿を現した。


 『━━侵入者検知。防衛システム、起動』


 現れたのは、全高五メートルを超える「氷の巨人」だった。いや、ただの氷じゃない。  青白い装甲板の下に、無数の油圧シリンダーと冷却パイプが走る、人型の機動兵器。右腕には巨大なドリル、左腕には三連装のミサイルポッド。そして背中からは、常に白い冷気を噴射している。


「『氷結機動兵器(アイス・ゴーレム・マークⅡ)』……! ガルドスが配置した番犬ね!」


 エララが叫ぶのと同時に、巨人の左腕が火を噴いた。


 シュシュシュッ!!


「ミサイル!?」

「『聖樹の障壁シールド』!!」


 私はとっさに光の盾を展開した。着弾。ドォン! ドォン! パキキキキッ!!


 爆発と共に、周囲の空気が一瞬で凍結した。氷属性の弾頭だ! 障壁の表面が凍りつき、ピキピキとヒビが入る。


「うそ……私の盾が凍らされた!?」


「リリア、下がれ!」


 ユリオが飛び出し、巨人の足元へ滑り込む。ドリルの一撃を紙一重でかわし、装甲の隙間を狙って斬り上げる!


 ガギィン!!


「硬っ……!?」


 『星斬り』が弾かれた。斬撃の痕が、瞬時に白い氷で覆われて修復されていく。


 『━━自己修復機能オート・リペア、正常。氷結装甲、展開中』


「ダメよ! あいつ、周囲の水分を瞬時に凍らせて『氷の鎧』を作ってるわ!」


 エララの分析に、私は絶望的な気分になった。ここは雪山。材料(水分)なら無限にある。再生する鎧なんて、どうやって倒せばいいの?


 巨人のドリルが唸りを上げてユリオを襲う。彼は防戦一方だ。このままじゃ、ジリ貧になる。


(考えろ、リリア。……エララは言った。魔法と科学を融合させろって)


 氷の鎧。自己修復。それを破るには? ただ溶かすだけじゃ追いつかない。もっと根本的に、氷の構造を破壊する何か。


 ━━熱衝撃サーマル・ショック


 急激な温度変化による膨張と収縮。硬い氷ほど、急に熱せられれば内部から砕け散る!


「ユリオ! もう一度、あいつの懐に入って!」

「なに!?」

「私が合図したら、全力で叩き込んで! 装甲を剥がすから!」


 根拠は私の頭の中だけ。でも、ユリオは迷わなかった。

「わかった。信じる!」


 ユリオが巨人のドリルを剣で受け流し、火花を散らしながら懐へと潜り込む。巨人が彼を排除しようと動きを止めた、その一瞬。


「今よ! エララ、援護を!」

「了解! 『閃光弾』、フルバースト!」


 エララが投げた手榴弾が炸裂し、強烈な光が巨人のセンサーを灼く。私は杖を突き出し、イメージを集中させた。炎じゃない。分子レベルの振動。絶対零度の氷に、真夏の太陽を叩きつけるような温度差ギャップ


「唸れ、物理法則! 『極熱振動ヒート・レゾナンス』!!」


 カッ!!!!


 杖から放たれたのは、目に見えない高周波の熱波だった。それが巨人の氷結装甲に触れた瞬間。


 ピキッ……パキパキパキパキッ!!


 氷が悲鳴を上げた。急激な熱膨張に耐えきれず、強固な鎧が内側から無数にひび割れていく。


 『━━警告。装甲温度、急上昇。熱歪み発生。維持不能……』


 巨人の動きが止まった。氷が砕け散り、中の黒い装甲とコアが露出する。


「そこだァァァァッ!!」


 ユリオが跳んだ。大剣『星斬り』が、青い流星となってコアへと突き刺さる。


 ズドォォォォォンッ!!


 金属が引き裂かれる音。  巨人の背中から、剣先が突き抜けた。


 『━━システム……ダウン……』


 巨人は断末魔と共に膝をつき、そのまま雪の中へと崩れ落ちた。黒い煙が上がり、勝利を告げる。


「はぁ、はぁ……。やった……!」


 私は雪の上にへたり込んだ。魔力は空っぽ。でも、勝った。


「ナイスだ、リリア。……お前がいなきゃ、俺は氷漬けだった」


 ユリオが戻ってきて、手を差し伸べてくれる。その顔には、戦闘の煤がついているけれど、頼もしい笑顔があった。


「さあ、見なさい。……門が開くわよ」


 エララが指差す先。巨人の爆発に巻き込まれてロックが外れたのか、ウィンターゲートの巨大な扉が、重い音を立ててゆっくりと開き始めていた。


 ギギギギギ……ゴォォォォォ……。


 開かれた門の向こう側。そこから吹き付けてきたのは、王都の冬風なんて生ぬるく感じるほどの、痛いほどの冷気。そして。


「……これが、北の国」


 視界の全てが白く染まる、永遠の銀世界。吹雪の向こうに、うっすらと不気味な黒い影━━ガルドスの居城がある方角が見えた。


「行こう。ここからが本当の戦いだ」


 ユリオがコートの襟を立て、第一歩を踏み出す。私も立ち上がり、杖を握り直した。  エララがゴーグルを装着し直す。


 私たちは国境を越えた。引き返す道はもうない。この白い地獄の果てで、全ての真実を暴くために。





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