↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルメルシア クロニクル  ―魔法を鍛えてみんなで生き延びます  作者: amya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
161/231

第161話:『嵐を呼ぶ演算と、反逆の雷槍』

第161話:『嵐を呼ぶ演算と、反逆の雷槍』


 黄金色の壁に砕け散った光の粉雪が、静かに舞い落ちていく。


 メイが文字通り命を削って展開した絶対防御、ハニカムシールドは、進化するシステムが放った必殺の殲滅砲火を見事に左右の虚空へと逸らしきった。


ジュゥゥゥゥ……ッ。


 戦場の中央では、全長十メートルを超える合成獣が、全身の装甲の隙間から濃密な白い排熱の煙を噴き出して休んでいる。


 莫大なエネルギーを消費したことによる、数秒間の完全なオーバーヒートによる硬直状態なのだろう。私の魔法を打ち消していた厄介な青い光の波動も、今は完全に消失し、不気味な沈黙を保っていた。


反撃のチャンスは、今この瞬間しかない。


 だが私と悠斗は動けなかった。私は青い光の波動の重圧によって乱された魔力回路の回復に手間取り、悠斗は子供たちを庇って全身に浴びた泥の槍のダメージで、大剣を杖に立ち上がるのが精一杯だった。


「……ソラ」

 私は、倒れたメイの前に立ち塞がった、ひょろりとした少年の背中を見つめた。


「条件は……全部揃った」

 ソラは割れた銀縁眼鏡の奥で、かつての傲慢さとは全く違う、氷のように冷たく、そして炎のように熱い、戦士としての瞳を合成獣へと向けていた。


彼は両腕を天に向かって高く掲げた。


 指先からパチパチと青白いプラズマが弾け、周囲の空気がビリビリと震え始める。

 だが、それは以前彼が放ったような、ただの巨大な雷、フラクタルディスチャージの予備動作ではなかった。


「……気づいているか、ポンコツ機械」


 ソラは、ピクリとも動かない合成獣に向かって、誰に教えられるでもなく、彼自身の頭脳で導き出した、真の物理演算を口にし始めた。


「メイが逸らしてくれた、お前のそのバカでかい砲撃。……その莫大なエネルギーは、空振りして消え去ったわけじゃない。物理法則に従って、この戦場の空気を異常なまでに加熱したんだ」


ソラの言葉に呼応するように、私たちの周囲に生温かい突風が吹き荒れ始めた。

「極端に加熱された空気は、猛烈な上昇気流を生み出す……変数A、メイの盾が残した熱量……変数B、この閉鎖空間における気圧の急激な低下」


ゴロゴロ……ッ!


 上空を覆っていた赤黒いデジタルコードの空のすぐ下に、現実の物理法則に則った本物の黒雲が渦を巻き始めたのだ。


 それは、ただのゲームのスキルエフェクトではない。ソラの魔力がトリガーとなり、環境そのものを利用して強制的に生み出された、局地的な積乱雲だった。


「……魔法で、気象そのものを操作しているのね……!?」

 私は驚愕に目を見開いた。


 大気中の水分と熱量を操作し、疑似的な台風の目を作り出す。それは私でさえ、極限の集中を要する超高等な事象改変だ。


 それをこの環境でまだ数日しか経っていない十五歳の少年が、たった一人でやってのけようとしている。


「雷の電圧だけで攻撃すれば、お前のその避雷針みたいな触手に吸い込まれて無効化される。……なら雷はただの圧縮機、コンプレッサーとして使わせてもらう!」

 ソラが天に掲げた両手の間に、上空の黒雲から猛烈な勢いで大気が吸い寄せられていく。


 バリバリバリィィィンッ!!!!


頭上で雷鳴が轟く。だが雷は敵に落ちない。


 ソラは落雷の莫大なエネルギーをすべて自分の両手の先の空中に集束させ、吸い込んだ空気を極限まで圧縮し、超高熱のプラズマへと変換していったのだ。


「変数C……悠斗教官の星斬りの質量と貫通力! そして変数Dは……僕の絶対に諦めないっていう意志だッ!!」


ソラの咆哮と共に、彼の手の先の空中に、目も眩むような青白い光の束が形成された。


 それは雷ではない。


 超高圧のプラズマと、螺旋状に回転する真空の気流が幾重にも重なり合ってできた、長さ五メートルにも及ぶ超高圧の槍だった。


 槍の周囲の空間が、あまりの高熱と気圧差によって陽炎のようにグニャグニャと歪み、悲鳴のような風切り音を上げている。


「超高圧雷槍、プラズマティック・ジャベリンッ!!!!」


ソラが新たな魔法を叫んだ、まさにその瞬間だった。


 ブゥンッ……!!


 合成獣の冷却が終わり、左腕の幾何学的な紋様が再び青い光の波動を放ち始めた。同時に、背中から無数の泥の触手が飛び出し、雷を無効化する避雷針の陣形を組む。


システムの排除プロトコルが再起動し、再び私たちに死の宣告を下そうとした。


「いけぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 だが、ソラは一切の躊躇なく、その細い腕で光の槍を合成獣めがけて全力で投擲した。


ズドォォォォォォォォンッ!!!!


放たれた雷槍は、避雷針の触手に吸い寄せられなかった。

 当然だ。ソラの槍は、電気というより圧縮された大気の質量兵器なのだ。


 凄まじい推進力とドリル状に回転する渦が、合成獣の放つ青い光の波動を、物理的な力技でドリル状に抉り開けていく。


「……いけ、ソラッ!!」

 血まみれの悠斗が、大剣を握りしめながら叫ぶ。


雷槍が合成獣の巨大な胸板の、かつて流体装甲が悠斗の大剣の衝撃を吸収した部位へと激突した。


 水飴のように波打つ装甲が、槍の衝撃を分散させようとする。

 だが、ソラの計算はシステムの予測のさらに上を行っていた。


ギュルルルルルルッ!!!!


 雷槍は、装甲に触れた瞬間、内に秘めていた数万ボルトの超高熱プラズマを一気に解放したのだ。


 衝撃を吸収するはずの流体装甲が、プラズマの圧倒的な熱量によって一瞬で沸騰し、気化していく。


 装甲が機能不全に陥ったそのコンマ一秒の隙を突き、螺旋気流を纏った槍の切っ先が、合成獣の分厚い装甲を錐揉み回転しながらブチブチと引き裂き、その奥深くへと食い込んでいく。


「ギ、ギガァァァァァァァァッ!!」

 システムが構築した感情を持たないはずの合成獣が、初めて苦痛に満ちた絶叫を上げた。


「まだだ……! 貫け、僕の意志ぃぃッ!!」

 ソラは両手を前に突き出し、さらに魔力を送り込み続ける。


 彼の指先から血が滴り落ち、細い腕の筋肉が限界を超えて悲鳴を上げているのがわかった。

痛覚フィードバックによる擬似的な激痛が彼を襲っているはずだが、孤高の天才少年は決して目を逸らさなかった。


机上の空論だった数式に、仲間を護るという熱と、教官から学んだ泥臭い物理法則が組み合わさったその魔法は、システムの演算アルゴリズムという絶対の檻を、ついに打ち破った。


ドバァァァァァァァァンッ!!!!


雷槍が、合成獣の十メートルを超える巨体を完全に貫通した。

 背中から突き抜けた青白い光の奔流が、赤黒いデジタルコードの空へと立ち昇り、鳥籠のように私たちを閉じ込めていた空間の壁に巨大な風穴を開ける。


「……あ、ぁ……」

 ソラは、槍を放ち終えた反動で膝から崩れ落ち、荒い息を吐きながらも、その眼差しは希望に満ちているように見えた。


ガラガラと音を立てて、合成獣の胸に空いた巨大な大穴から、構成していた泥と白銀の装甲が崩れ落ちていく。


 システムの放った特異点殺しは、次世代のエースが放った、限界を超えた反逆の雷槍によって、致命的な一撃を受けたのだ。


だが、まだ終わってはいない。


 崩れ落ちる合成獣の奥深く、赤いポリゴンの光が不気味に明滅し、最後の悪あがきとばかりに、周囲の空間ごと膨大なエネルギーを吸い込み、膨れ上がり始めていた。


「悠斗!!」

「おうッ!! 分かってるッ!!」


子供たちが作ってくれた、この完璧な勝利への布石。


 私たち教官が、その想いを無駄にするはずがなかった。


 私と悠斗は、全身の痛みを必死に意志の力でねじ伏せ、崩壊していく合成獣のコアへと向けて、最後のトドメを刺すべく同時に地を蹴ったのだった。





感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!


ちょっと面白いかなと思いましたら評価をお願いいたします。反響は励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。