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アルメルシア クロニクル  作者: amya


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第13話 閑話:『氷の玉座と、疑惑の王都』

第13話 閑話:『氷の玉座と、疑惑の王都』


 北の果て、凍てつく要塞にて。


 大陸の最北端。永遠の吹雪に閉ざされた極寒の地に、その「異物」は存在した。


 氷河を削り取って建設された、黒ガネの摩天楼。ファンタジー世界の石造り建築とは一線を画す、幾何学的で無機質な金属の城塞都市━━『ノースガルド中央司令府』。


 その最深部にある「謁見の間」と呼ばれる空間には、王の玉座の代わりに、巨大なホログラム・インターフェースが鎮座していた。


 シュゥゥゥ……。


 空間転移ゲートが開き、白煙と共にガルドスが姿を現した。彼の黒いロングコートは焼け焦げ、片眼鏡モノクルにはヒビが入っている。しかし、その足取りは軽やかだった。


「……帰還しました。マザー」


 ガルドスが虚空に向かって恭しく一礼すると、部屋の中央にある巨大な円柱状の水槽━━その中に浮かぶ『巨大な脳髄』が、青白く明滅した。


 『━━報告ヲ。ガルドス・イワン・コワレフスキー』


 部屋全体に響くのは、女性とも男性ともつかない、合成された電子音声。これこそが北の国を統べる絶対君主。超高度演算生体コンピュータ『マザー・ブレイン』である。


「王都の地下実験場は放棄しました。……しかし、収穫は上々です」


 ガルドスは空中に指を滑らせ、データを転送した。ホログラム・ウィンドウに、暴走するユリオの映像と、それを光の雨で鎮めるリリアの映像が映し出される。


「逃亡していた『試作体ゼロ(ユリオ)』の覚醒を確認。リミッター解除時の出力は、想定の四〇〇%を記録しました。……やはり、彼の『感情』というバグは、兵器としての性能を飛躍的に高める鍵となります」


 『━━肯定。感情ハ、非効率デアルト同時ニ、爆発的ナエネルギー源ナリ』


「加えて、もう一つのイレギュラー……『魔法使いの少女』についても興味深いデータが取れました。彼女の魔法は、我々の科学技術テクノロジーに干渉し、書き換える性質を持っています」


 ガルドスの瞳が、狂気的な探究心で濁る。


「彼女の脳を解剖し、その回路を解析すれば……我々の悲願である『完全なる融合シンギュラリティ』に近づけるでしょう」


 『━━優先順位ヲ更新。試作体ゼロ、オヨビ魔法少女リリアノ捕獲ヲ最優先事項トスル』


 マザーの命令と共に、司令府のモニターに無数の赤い光が灯った。それは、待機状態にあった数千体の機械化兵マキナ・ソルジャーと、新型の殺戮兵器たちが起動した証だった。


「承知いたしました。……次なる舞台は、この氷の世界。彼らがここへ辿り着くのを楽しみに待ちましょう」


 ガルドスは薄ら笑いを浮かべ、窓の外に広がる猛吹雪を見つめた。その白銀の闇の向こうで、戦争の秒読み(カウントダウン)が静かに始まっていた。





王都グランドリア、夜明けの執務室。


 一方、王都グランドリア。王城の一角にある『騎士団総本部』は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


「報告します! 王立図書館地下の火災は鎮火! ……ですが、現場の状況が異常です!」


 若い騎士が、息を切らして執務室に飛び込んでくる。デスクで頭を抱えていたのは、王国騎士団長のヴァルガスだった。歴戦の猛者である彼も、今朝の報告書には目眩を覚えていた。


「異常とはなんだ。ボヤ騒ぎではなかったのか?」


「はっ! ……地下深くから、多数の『身元不明の遺体』と、破壊された『謎の機械残骸』が発見されました。遺体は……行方不明になっていた貧民街の子供たちと思われますが、その多くは……」


 騎士は言葉を詰まらせ、青ざめた顔で首を振った。


「……もはや、人の形をしていませんでした」


 ヴァルガスは拳をデスクに叩きつけた。


 ドンッ!!


「やはり、『神隠し』の噂は事実だったか。しかも、王の膝元である図書館の地下で、これほどの凶行が行われていようとは……!」


 彼は窓際へ歩み寄り、眼下に広がる王都を見下ろした。平和に見える街並み。だが、その足元には、得体の知れない闇が巣食っていたのだ。


「生存者は?」


「十数名の子供たちが保護されました。……彼らの証言によれば、『青い剣を持った少年』と『光の魔法を使う少女』、そして『図書館の司書』に助けられたとのことですが……」


「その三人の行方は?」


「不明です。現場から立ち去った後、行方をくらませています」


 ヴァルガスは顎髭をさすった。誰かは知らんが、王国の騎士団が気づけなかった悪事を、名もなき冒険者が暴き、解決したというのか。本来なら処罰の対象だが、今の状況では感謝するしかない。


「……総員に通達せよ。王都の警備レベルを最大に引き上げろ」


 ヴァルガスは低い声で命じた。


「現場に残された機械の残骸……あれは、噂に聞く『北の国』の技術に酷似している。……これは単なる誘拐事件ではない。戦争の前触れだ」


 彼は朝日に照らされる北の空を睨みつけた。


「名もなき英雄たちよ。……もし君たちが、この事件の真犯人を追って北へ向かっているのなら、どうか無事でいてくれ。この国の未来は、もしかすると君たちの手にかかっているのかもしれないのだから」


 王都に吹く風が変わった。穏やかな春の風は去り、鉄と火薬の匂いを含んだ、戦乱の風が吹き始めていた。





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