十一話 孝介の力
孝介と交戦していた龍助は、今胸にナイフが刺さりそうという非常事態に遭っていた。
もう刃先がすぐ前に近づき、誰もが刺されたと思った次の瞬間、孝介のナイフが後ろへ飛んでいった。
「な、何? 何が起きたの?」
「兄さん! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。俺はなんとも」
何が起きたのか誰もが分からない状況の中、穂春の声が響き渡る。
その声に答えた龍助の体は無傷で、どこも痛いところは無かった。
龍助にも何が起きたのかは分からず、ただ見たのは自分の胸の前で何かがナイフを弾いてくれたことだ。
「くそ!」
ナイフを飛ばされた孝介は歯ぎしりをしながら龍助から距離を取った。
「これで終わりだと思うなよ!」
お決まりの捨て台詞を吐きながら、孝介の姿は一瞬で消えてしまった。
消えたのと同時に、荒野だった風景が一変して、学校の中庭になっていた。
先程は孝介のクラスに突撃したはずなのに、なぜか中庭にいることに龍助達は動揺を隠せないでいた。
「何がどうなってここにいるんだ?」
「それよりも時間がまずいですよ!」
時間を見てみると、もう朝礼前となっていたので、急いで教室へと向かう龍助達。
この刹那の時間に一体何が起きたのか、謎だけが残り、深まるだけだった。
◇◆◇
午後の三時、全ての授業が終わった放課後に龍助達は帰宅途中だった。
その最中、朝に起きた出来事を話し合っていた。
「やっぱりあの時間でどうやって中庭に移動したのかが謎だよな……」
「それはある程度分かったよ」
「えっ! どんなからくりなんだ!?」
龍助の疑問に叶夜がはっきりと言い切った。
その言葉に龍助は前のめりに聞いて来て、それを落ち着かせながら龍助に説明してくれる。
「彼はおそらく、サイコキネシスとテレポートの使い手だと思う」
「そんな強い魔法の使い手なのかよ……」
「ただ、力が弱いから、出来る範囲が狭いと思う」
叶夜によると、孝介が使っているのは物体浮遊させるサイコキネシスと瞬間移動が出来るテレポートというものらしい。
ただ、孝介自身の力が弱いため、サイコキネシスも軽いものだけしか浮かせられず、テレポートも近距離にしか移動出来ないとのこと。
「すごいのか残念なのか分からないな」
「けど、龍助の力を奪ったことで範囲も広くなったと思うよ」
「あれ以上に面倒くさくなるのかよ……」
龍助が疑問に思っていたら叶夜が補足の説明をした。
龍助の力を一部手に入れた孝介は次からは手強くなって襲ってくるだろうと予測しているらしい。
朝の襲撃だけでも厄介だったのに、これ以上手強くなるのかと気が重くなる龍助だった。




