九話 孝介の企み
学校で生徒達が人形のように操られる異変が起き、その実行犯と思われる孝介のクラスへ突撃した龍助達。
しかし、それは孝介の罠だったようで、今龍助達は一時撤退しようとしていた。
「あれれ? まさか逃げ切れるとでも?」
龍助達がドアに手をかけたが、そこに広がっていたのはいつもの学校の風景ではなく、どこかの荒野だった。
「は? どうなってるんだよ!?」
「分からない。彼から空間を変えるほどの力は感じられないけど……」
龍助の声に叶夜はそう答えることしか出来なかった。
空間を変えるほどの力は、孝介からそこまで感じられないが、もしかすると力を隠している可能性があると考えられる。
しかし、今龍助達に敵と認識されている上、明らかに戦う気満々の仕掛けをしているのに力を隠している理由が分からない。
(どういうことなんだ?)
力のことを考えだすとキリがないので、龍助は考えるのをやめ、今は目の前の光景を打破する方法を考える。
荒野にたたずむ龍助達は前に立っている孝介を睨みつけるが、彼は特に動揺したりせずにただ笑っている。
「そんなに睨まないで遊びましょうよ」
明らかに挑発なのは龍助でも分かったが、下手に動けばいつ能力を奪われるか分からない。
なので、龍助達は様子を見ながら戦闘態勢に入る。
「それじゃ、遊ぼうか」
龍助がそう言うのと同時に颯斗が魔弾を何発も飛ばしていく。
命中するかと思ったが、孝介は目前で瞬間移動してそれを回避する。
回避した所を狙って、今度は叶夜が予め作った光の剣五本を飛ばした。
それを孝介は一枚の防御用の光の壁で食い止めてしまう。
「やっぱりそう簡単には当たらないわね」
「俺のことを舐めすぎですよ」
そう言った孝介は手を挙げると、それを合図と言わんばかりに岩石が浮かび、そのまま龍助達へと飛ばしてきた。
しかしどの岩石もそこまでの大きさはなく、数も少なかったので、龍助が一人で全て弾いてしまう。
その場面を見た孝介は少し驚いた表情をしていた。
「かなり強い力ですね。では、いただきますね」
にこやかに笑った孝介が手を龍助の方へかざし、目を閉じた。
(何して……ッ!?)
龍助が疑問に思ったのと同じタイミングで、自分の胸の中に何かが入ってくる感覚に陥る。
その感覚があまりにも気持ち悪く、思わず跪いてしまった。
「龍助?! どうしたの!」
「兄さん! しっかりしてください!」
叶夜と穂春の呼び声に反応しずらい龍助。
なんとかしてこの感覚をなくさないといけないのに、どうすれば良いか分からず、うずくまるしか出来ない。
(な、なんか力が抜けて……)
力が体の中から抜けていく感覚になるが、力が入らないわけではない。
なので、龍助は力を身体中に巡らせて抜けた部分をカバーした。
「な、なんだ!? この力は」
それを意識してみると、予想外にも孝介が慌てだす。
何が何だかさっぱりだった龍助だが、先程の感覚がなくなっていたので、引き続き力を入れてみる。
すると、
「ひっ……!」
裏返った声で短めの悲鳴をあげた孝介はその場に尻もちをついた。
理由は分からないがこれは好機だと思った龍助はすぐさま立ち上がった。
「覚悟は良いな?」
龍助の問いかけに孝介は怯えたまま答えなかった。
そして、龍助が素早く近づこうとしたその時だった。
孝介の体が強い力で覆われていた。
またもや突撃の異変が龍助達の前に立ちはだかったのだった。




