十二話 死体を操る者
霊安室の暗闇の中に潜んでいた男、吉田達也。
彼は指名手配犯でもあるため、直春も知っているようだった。
「捕まえるとは、舐められたものですね。これでも捕まえられますか?」
そう言った達也は手を叩くと、奥の部屋から大きな塊が大きな足音を立てながら姿を現した。
その塊は至る所から腕のようなものを伸ばしている。
そして、暗闇の中ということもあり、なかなか見えないので、叶夜が手から出した光を壁へ広げて部屋を明るくした。
その瞬間、龍助は目に飛び込んできたものに対して悪寒が走った。
そこにいたのは人間を無造作に集めて一つの塊にしているものだった。
「な、なんだこれ!?」
「素敵だろ? 僕の最高傑作」
どこをどう見たら素敵なのか龍助達には理解し難いものだった。
塊は龍助達を見るやいなや腕を伸ばして捕まえようとしてきたが、それを直春が作り出し、浮かび上がった影がそれを止めてくれる。
止まった隙を狙って龍助が素早く塊に近づき、弱点の丸印に警棒で攻撃したが、少しよろめいただけであまり効果がなかった。
「弱点をついたのに!」
「おそらく死体を集めている力の弱点だけど、すぐに修復するのかもしれない」
直春が言うには、龍助が攻撃したのは死体を集めて操っている力の弱点だが、それを一つついても、他の力がある限り倒すのは難しいとのこと。
「そうだよ。君の魔眼に対抗するための術式さ」
「なんで俺の魔眼を……」
「そりゃ情報をいただいたのさ」
「TBBか……」
龍助と達也は初対面だ。
なのに魔眼のことを知っているとなると、一つしか可能性は考えられなくなる。
情報提供者のことを口にしたら達也はなんの迷いもなく頷いた。
(やっぱりTBBかよ……)
龍助は内心のイラつきをなんとか抑えるが、それを見透かしたように達也が愉快そうに笑いながら彼を見ている。
「さて、そろそろ消えてもらいましょう」
そう言いながら達也が指を鳴らすと、塊が影を引きちぎって、再び動き出す。
次々と腕を伸ばして龍助を襲ってくるが、これくらいは彼にとってはどうってことない。
「やはりこれくらいは避けますか。ならこれはどうかな?」
次に伸びてきた腕をかわした瞬間、龍助の体中が何かに縛られたかのように動かなくなってしまった。
それを狙うかのように腕が龍助を潰そうとしたが、また影がそれを防いでくれた。
「待ってて、今解除するわ!」
どうやら直春が影を使って龍助を守ってくれたようで、次に叶夜が龍助を縛っている術か魔法を解いてくれた。
「ほほう。なかなかの力で」
「うるさい。お前ムカつく」
「ッ!?」
達也に対して龍助が抑えていた怒りの言葉を口にした龍助が塊が動くのより素早く動き、敵の目前にまで近づいた。
慌てた達也はすぐさま術か魔法を使おうとしたが、一歩遅かったようで、勢いよく振られた警棒の攻撃を腕に食らってしまった。
「龍助くん! そっちは任せた。こちらは僕達がやる」
直春の声に頷いた龍助が警棒を達也に向けた。
「さて、そろそろ諦めてもらおうか」
「ふふふ……。そう簡単に諦めるとでも?」
龍助の言葉をもろともしない達也の足下から突然発動式が現れた。
すぐさま攻撃しようとした龍助だが、その発動式から腕が何本か生えてきて、龍助を襲ってくる。
しかし腕の動きは鈍く、避けるのに苦労はしなかったが、ふと見ると、達也がその隙に奥の部屋へと逃げ出していた。
「待ちやがれ!」
龍助が怒鳴りながら追いかけ、部屋へ飛び込むと、そこに待っていたのは、大きな発動式を背後に展開して、強い力を集めている達也だった。
「ここまで来たらもう僕のものです」
「な、何、この強い力……」
その場にいるだけで気持ち悪くなるくらいのおぞましい力が漂っている。
そして、その力の影響で周りの解剖に使うナイフなどの道具や近くにあったキャビネットなどが浮き、龍助へと飛んでくる。
突然の現象に龍助は早く避けようとしたが、先程と同じ力が彼の体を縛って動けなくする。
「がっ!!」
避けることが出来なかった龍助は飛んできた道具の攻撃をまともに食らってしまった。
キャビネットとという重いものをまともにくらえば、流石の龍助でもかなりのダメージを負った。
「もうおしまいですか? 情けない」
「そんな、わけない」
達也が煽ってきたが、龍助はそれよりも早く立ち上がることに専念した。
能力のおかげで、大きなダメージを負ったが、そこまで苦痛でもなかったので、すぐに立ち上がれた。
「いやいや、無駄な足掻きはやめて、諦めた方が良いですよ? 君の代わりはいくらでもいるでしょうに」
「そうだな。確かにそうかもしれない……」
「でしょ? だから……」
「だから俺だけにしか出来ないことをやるだけだ」
達也の言葉を跳ね除けた龍助が構えに入り、すぐに動き出した。
「無駄なことを!」
達也はそう叫びながら先程と同じように物を飛ばしてきた上に、先程と同じ術か魔法を使うがそれを上回る力を発揮し、軽くかわしていく龍助。
動きを封じる力を逆に封じられた達也は分かりやすく焦った様子で他の技を繰り出そうとした。
「もう遅い!」
早さでは龍助の方が上だった。
力をまとい、勢いよく繰り出された攻撃を、今度は頭に食らってしまった達也はそのまま倒れる。そのおかげで展開されていた発動式も姿を消した。
倒れたまま動かなかった所を見たところ、倒せたのだろう。
龍助はこの時、腕にいつもとは違う強い力が湧き上がっていたことを初めて感じるのだった。




