十話 動く死体達
七不思議の一つを解決した龍助と叶夜は二階で調査を続けていたが、突然死体に襲われてしまった。
撃退は出来たものの謎だけがその場に残っていた。
「これ、もしかすると七不思議の一つじゃない?」
「あ、死体のやつか?」
「そうそう」
龍助と叶夜は倒れている死体を見て、七不思議の一つである、夜中の病院を動き回る霊安室の死体、なのではと予測した。
「じゃあ、これで解決……」
「ではないわね。何で動いていたのか調べないと」
龍助が言い切る前に叶夜が断言する。
死体を動かなくしたは良いが、なぜ動くはずのない死体が動き回るのか、それを調べる必要があった。
京に連絡しようと叶夜が電話をかけてみるが、電波が悪いのか、なかなか繋がらない。
何度も京にかけても繋がらなかったので、直接彼の元へ行こうとした。
「待って」
「え? 何?」
「なんか聞こえる」
龍助の耳になにかの唸り声が止まった。
それは先程の死体が発していた声と近しいものだった。
まさかと思い、龍助が能力で聴力を上げて声のする方向を探る。
聞こえてきた声は一階のさらに下、地下の階から聞こえてくるのだ。
実はこの病院には地下があり、そこにあるのは病院で亡くなった患者の死体が置いてある霊安室のみだ。
「地下から聞こえてくる……」
「やっぱり霊安室になにかあるのかも」
霊安室に置いてある別の死体が動き出したのかもしれないと考えた龍助達は急いで京の所へ向かおうと階段を上りかけた時だった。
「な、なにこれ?!」
龍助達の目に飛び込んできたのは、階段の上で待ち伏せるように立っている死体たちだった。
ゆらゆらと今にも倒れそうだが、その体はしっかりと壁になって龍助達の行く手を阻んでいる。
「もう一度倒すか?」
「そうしましょ」
龍助が警棒を持って死体に攻撃を仕掛けた。
弱点になる胸を突くと、死体は動きを止めた、はずだった。
龍助が警棒を引き下げ、次の標的に攻撃しようとした
瞬間、彼の腕を死体が掴んだ。
「なっ?! こいつまだ動くぞ!」
龍助は一瞬慌てたが、すぐに蹴りを入れて無理やり突き放した。
「さっきの死体とは違うってこと?」
「これじゃあ何度も倒してもすぐ復活するぞ」
いくら倒してもすぐに復活する死体を相手にするのは、さすがに手間がかかる。
本当なら叶夜のムスペルヘイムで燃やすのがいいかもしれないが、それだと病院ごと燃えてしまう。
個体ごとに燃やすことも出来るだろうが、大切に置かれていた死体をこんな形で燃やすのはあまり良くないとも感じる龍助。
「大元を叩くしかない」
「やっぱりそうよね……」
龍助と叶夜の二人は死体を動かしている者がいるであろう霊安室へと向かうことにした。
「僕も行くよ」
「わっ!!」
「きゃっ!!」
二人が決心したのを見計らったようにタイミングよく聞き覚えのある声が語りかけてきた。
驚きのあまり飛び上がった二人が後ろへ振り返ると誰もいなかった。
「え、まさか、ガチの幽霊……?」
「や、やめてよ!」
「違う違う。ここだよ」
龍助と叶夜が怯えている中また同じ声が話しかけてくる。
どこかと探していると、月光によって出来た龍助の影が突然動き出した。
すると、その影から一人の人物が浮かび上がってくる。
「直春さん?!」
「やあ、驚かせてごめんね」
「どうやって影の中に……」
「ああ、僕の能力の『影の力』だよ」
姿を現したのは直春だった。
彼は驚かせてしまったことを謝罪すると、叶夜の疑問に快く答えてくれた。
彼が持っているのは影の力という能力で、主に影を操ったり、影そのものになれたり、影にまつわる魔法を自由に使えるらしい。
「もしかして、影になってここまで移動してきたんですか?」
「そうだよ。それより先に急ごう」
叶夜の質問に答えた直春が階段の下へと下って行くので、龍助達もそれに続いた。
下へ行くほど暗闇は深くなっていく。
視界が真っ暗で恐怖に支配されそうになってしまうが、どこからか突然真っ白な光が現れた。
「さすがに暗すぎるから、ここからは明るくしていきましょ」
「ありがとう。よく見えるよ」
叶夜が能力で光を出してくれたようだ。おかげで視界が明るくなったので、恐怖はなくなっていた。
暗闇が光によって祓われると、階段の下から長い廊下が一つ部屋にまで伸びていた。
「あれが霊安室か……」
「変だね。ここだと死体が待ち伏せてると思ったんだけど」
廊下の先にあるのは霊安室一つだけだ。
直春の予想では死体達が出てくる所であるため、待ち伏せられていると思ったらしい。
「とりあえず、行ってみよう」
そう言って龍助が一歩踏み出した。
「待つんだ!」
「え?」
直春の声で止まった龍助だが、その足下から突然一本の腕が現れ、足をガッシリと掴んでくる。
そしてそれを合図と言わんばかりに壁や床からゾンビのようにたくさんの死体が這い出てきた。
「なっ! こいつら一体どうやって?!」
霊安室へと続く廊下が埋め尽くされ、まるで本当にゾンビの世界のようだと思う龍助だった。




