二話 目覚めない妹
穂春が通り魔事件に遭ってしまい、龍助は病院の中まで駆けつけた。
病室を聞くために受付の人に話しかけようとした。
「龍助くん!」
「先生!」
待合室に偶然居合わせたのは、龍助達が育った施設の先生、高原先生だ。
先生は龍助を見るやいなやすぐに駆け寄って来た。
「先生! 穂春は無事なんですか?!」
「今は眠っているわ」
焦りに焦った龍助を落ち着かせた高原先生が教えてくれた。
とりあえずは無事なようなので、心底安堵した龍助はその場に崩れ落ちる。
「とりあえず、病室に行きましょ」
そう言って高原先生は龍助から本人証明に使えるマイナンバーカードを受け取り、受付の人に説明しながら手渡すと、病室に入る許可をもらってくれた。
病院の入院棟に移動して、エレベーターで六階まで上る。その間も、龍助の心臓がドキドキと体内で鳴り響き、落ち着かなかった。
「こっちよ。そこが穂春ちゃんの病室だわ」
エレベーターを降りてすぐ右斜め前に穂春の病室が位置している。
足早に移動し、ドアを開けると、そこには人工呼吸器をつけて横たわっている穂春の姿があった。
龍助が勢いよくドアを開けたにも関わらず、ビクともしなかった。
「穂春……」
「今は安定してるけど、何故か目覚めないらしいのよ……」
先生の言葉に龍助は半分安心して、半分不安になってしまう。
医師が見た結果、傷も大して深くはなかったようで、今は息なども安定はしているものの、何故か目が覚めないらしい。
原因は医師にも分からず、傷以外になにかしらの損傷があったか、あるいは精神的に目覚めたくないのではないかという推測が上がっているどのことだ。
「……それで、犯人は?」
「今も逃走中ですって……」
龍助はその言葉で、犯人がただの人間ではなく、ある組織に関係しているのではないかと予想した。
しかし、確証が持てず曖昧で気持ちの悪い感覚が襲って来る。そんな中、ドアからノックが聞こえてきた。
誰かと思い、とりあえず入るように促すと、ドアを開けたのはよく知っている顔だった。
「京さん……」
「やあ、龍助。おまたせ」
入ってきたのは京と叶夜に颯斗、更には千聖がいた。
「田中先生! 龍助君がお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ」
高原先生が京に挨拶をした。
京は初対面の時から高原先生には偽名で眼科の医師を名乗っているのだ。
「なかなか目覚めないとお聞きしていたので、そちらに詳しい医師を連れてきました」
そう言って京が千聖の方を見ながら挨拶を促し、それを受けた千聖が京の前に出た。
「初めまして、私式野と申します。よろしくお願いいたします」
「まあ、こちらこそよろしくお願いいたします」
双方丁寧な挨拶を済ませ、早速千聖が穂春の容態を見てくれることになった。
ちなみに千聖は一般の医師としても活動しているらしく、ここの病室の院長とも顔見知りらしい。
なので、もう許可ももらっているとの事。
腕の脈や、目、次々と穂春を見ていき、何やら考え込んでいる。
「千聖さん、どうですか?」
「そうですね。彼女の頭に小さくですが、ぶつかったあとがあります」
千聖が穂春の前髪を上げながらそのあとを龍助達に見せた。見てみると、確かに青くなっている部分がある。
「おそらく頭部外傷による意識不明だと思います」
「だ、大丈夫なんですよね?」
「大丈夫です。治療さえすれば」
「良かった……」
千聖によると、頭をうってしまい、軽いが頭部外傷になって意識不明だという。
治療すれば、後遺症もなく、治すことが出来るらしい。そうすれば目覚めることが出来ると千聖は言う。
色々話をしていると、またドアからノックが聞こえてきた。
「高原様、少しよろしいでしょうか?」
「あ、はい! すみません先生、少し外しますのでよろしくお願いします」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」
入ってきたのは看護師で高原先生に用があるらしく、呼び出された先生は病室から出ていった。
「さて、千聖。本当のことを教えてくれ」
「本当のこと……?」
京が高原先生が出ていったのを見計らって、千聖に語りかけた。
龍助は本当のことという言葉に不安が募ってしまう。
もしかしたら本当はとんでもない病気なのかと。
「実は、頭部外傷は嘘です。本当の症状は力者としての病気です」
「え?! 穂春が力者!」
力者としての病気だから、あまり高原先生に聞かせられないということで、嘘を言ったらしいが、龍助はそれ以前に穂春が力者だという事実に驚いてしまう。
「彼女、力源が弱ってますね」
「力源が弱ってる?」
「薬と能力の力が強いせいで、力源の力の消費量がとても大きいのです」
龍助をよそに一通り説明をしてもらったが、いまいち分かっていない。
「分かりやすく言えば、力源が小さくなっているせいで目覚めないのです。それは力者にとって致命傷です」
致命傷という言葉に目眩がしそうになった。ふらついた彼を叶夜が支えてくれる。
「ですが、大丈夫です。治療すれば数日以内で目覚めます」
「本当ですか?!」
「ええ、僕が作った治療薬を投与すれば」
目覚めることを断言した千聖は詰め寄る龍助を落ち着かせながら微笑んだ。
その笑顔は嘘を感じさせなかったので、龍助の中から不安が小さくなっていったのだった。




