96 王立学院研究科魔法学科の研究室はどこも魔窟である
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
国語科、数学科、理科はとても良い議論が出来た。私は満足である。
特に理科の先生方は実験なんかにも意欲的で、異界の教育や科学技術を知りたがってた。私もそんなに教わってないですからって躱した部分もあったけど、取り入れられそうなところだけは教えてきたよ。
そんなわけで、魔法科の会議室にやって来た。物凄い歓待である。
「ヴァイオレット殿下!魔力原子理論の論文、拝見いたしました!あれは実に素晴らしい!水や砂など、観念的な考えしかなかった魔力理論に新風を巻き起こす天才でいらっしゃる!いやはや、レナードがこの歳になって魔力が増えたなどと言うので馬鹿なことをと最初は思いましたが、王宮に連行されて陛下からわざわざ測定器を借りてまで見せつけられ、衝撃を受けました!これでセオドア様の魔力の秘密が今になって分かるとは!何度教えを請うても頑として教えてくださらなかったというのに!是非私も殿下から直接ご指導頂きたい!」
あれ、論文なのかなぁ?清書してもらったやつは論文と言えなくもないけど。結構な分量書かされたもんなぁ。そして、レナード。無茶しやがって。
「ありがとう、ハワードせんせい。でも、あのろんぶん?がいまわかっているすべてなのよ。」
「まだまだ検証の余地があることは存じております!この幼年学校は新理論の実験場も兼ねているのでしょう?心躍らずには参りません!」
「そこまでわかってくださっているのなら、だいじょうぶそうね。」
「次に参りましょう。」
「ああっ!せめて!せめて魔力交換を!ここにいる皆にも教えてくださいませ!魔力の深淵というものを!」
大袈裟だなぁ。仕方ない、先生の魔力原子が大きい状態じゃ教える立場としてもちょっとかっこ悪いもんな。時間、大丈夫かな?チラッとダスティンを見ると腕を組んで指でトントンしてる。イライラしてんな。
「魔力交換だけなら。」
「お願いします!」
圧強めのオジサンに圧倒されちゃうよ。ハイハイ、せっせっせしますかね。
「これが殿下の魔力……直ぐに私の魔力と同化してしまう。」
そうは言うけど、結構私の魔力の状態保ってますよね?さすが元王立学院研究科教授というべきか、魔力を整えるのがとても上手いよ。
「マリオン君。君も試してみたまえ。」
「はい、教授。」
「あら、おしりあい?」
「魔法科の教諭は二人とも私の研究室の者でした。若手は研究や学院の講師だけでは食べていけないので、家庭教師のアルバイトをする者も多いのです。研究科に進むには、全教科万遍なく優秀な成績でないと進学出来ませんからね。二人とも、一通りのことは教えられますが、こちらでは魔法研究に専念出来るので誘ったのです。」
「そうだったの。」
魔法科の座学の先生がなかなか見つからなかったんだよね。新理論を理解するのが難しいみたいで。
それなのに、急にパパッと決まったのはハワード先生が教え子をスカウトしてくれたからなのか。ありがたいや。
「こちらのマリオン君は弱いながらも御技の使い手です。研究室では聖女の魔力の研究をしておりました。」
「あら、なら、せいじょがっこうのはなしはきいていて?」
「はい、殿下。わたくしも一期生として聖女学校へ行くことになっております。生徒の中にも血は薄いですが聖女の末裔がいると聞いておりますので、幼年学校で教師をしながら引き続き聖女の魔力の研究をしたいと思っております。」
「ならば、わたくしのおしえごになるわけね。」
「まあ、殿下がご指導くださるのですか?」
「いっきせいだけは、わたくしとアーテルでおしえるよていよ。」
「大変光栄でございます。無茶なスケジュールを組んだ甲斐がありました。」
「そうなの?たいちょうにはきをつけてね。」
「頑丈さがわたくしの取り柄ですから、ご心配いりませんわ。」
いやいや、そのうちガタが来ますからね?今は若いからいいけどさ。マリオン先生、二十代半ばくらいでしょ?三十過ぎるとヤバいよ、ホント。年々衰えてくもん。
「なら、まずふつうのまりょくをながして、つぎにせいじょのまりょくをながすから、ちがいをよくかんじとってくださいね。せいじょがっこうをはやめにそつぎょうしていただいて、ようねんがっこうにせんねんしてほしいもの。」
「ありがとう存じます。すぐに習得してご覧に入れますわ。」
さあ、行くぞ!普通の魔力からね。ある程度流したところで、次は聖女の魔力。
「わかるかしら?」
「わかります。同位体、ですわね?同じ性質であって、同じでない。先に配られた教本に書いてございました。」
あー、魔力に関してのことだけは予習してきてもらおうと思って先に教科書配っといてってアーネストに頼んだんだった。役に立ってよかったよ。
「そうよ。わたくしはしょうきもどういたいだとかんがえているの。」
「はい、教本で読みました。わたくしは母に、魔力の真理に近づけろと教わりましたが、そういうことだったのですね。」
「おかあさま、うまいこというわね。」
「何代も前にわたくしの家に嫁いできた聖女の教えだそうです。わたくしも母も、保護対象にはならない微弱な力しかございませんが、そうやって教えを引き継いで来たのです。真理に近づけた者は神の加護があるのだと思っていたのですが、殿下の論文と教本で理論的に解明出来ることだと知って衝撃を受けました。ああ、おしゃべりに夢中ですぐに同化してしまうわ!いけないいけない!」
「ふふ、もうしばらく、まりょくこうかんをつづけましょう。まりょくのしんり、ほんらいのたんげんしぶんしにちかづけていくのよ。」
はー、そうか。王家と三公以外の外に嫁いだ聖女の末裔なのか。相当血が薄いのかも。これはいい実験台を見つけたかもしれない。
いや、人をそんな目で見るのは良くないんだけど、ついね。ごめん。本人喜んでるんだから許してね!
「ふう!これは非常に集中力がいりますね!これ以上は維持できそうにありません!」
「どうだ、単原子分子は分かったか?」
「そこまではまだ至らずです。精進いたします。」
「わたくしもかんちはできてもたんげんしぶんしのじょうたいではあつかえないもの。よりかるいどういたいにして、かんしょうへのていこうをへらしているのよ。」
「なるほど、勉強になります。次はデリック君にもお願い出来ますかな?」
「もちろんよ。こちらにいらして。」
男の家庭教師もいるにはいると聞いていたが、そうか、研究科の人のアルバイトだったんだね。男の子にはやはり男の家庭教師が望まれるらしく、ひっぱりだこで採用は難しいかもって言われてたから良かった。
体育科以外は女性教員ばかりになるんじゃないかと思ってたから、ちょっと安心。男女比のバランスが取れてた方がいいに決まってる。
「うわ!これはすごいですね!マリオン、よく耐えたな。手のひらでしか感知が難しい。」
ハワード先生やマリオンと比べて、かなり魔力分子が大きい。ブライアンくらい?
「すこしこちらでちょうせいするわね。いまからぶんしのかたまりにしてながして、それをどんどんこまかくしていくわ。すこしずつへんかをかんじとって。」
「はい。集中しますのでご無礼があればお許しを。」
「かまわないわ。まりょくをかえるタイミングだけこえをかけるわね。」
「お願いします。」
デリックには時間をかけて魔力交換をした。まあまあの及第点かなってところで終了。あとはそれを維持出来るかどうかだ。
そろそろ体育科に移動しようかなと思ったところで、レナードがやってきたよ。
「魔力交換は終わったか?」
「ああ、非常に有意義だった。これで研究も捗る。」
「お前たち、幼年学校では整理整頓を心がけろよ。職員室は研究室ではない。他の教科の教員と共同で使うんだからな。」
「ふん。幼年学校は直ぐに規模を拡大することになるだろう。そうすれば、研究室を設けてもらうことにするさ。」
「そうしたらお前は引きこもるだろう!全く、山積みの本と資料にいつのものだかわからないコップに皿などそのまま置いとくんじゃないぞ。子どもがいるんだ。不衛生極まりない。」
「ならば、世話人でも雇うさ。」
「自費で雇えよ。」
「だ、だいじょうぶなのかしら……。」
「魔法科の研究室は何処も魔窟です。ヴィオラ様は決して立ち入らぬように。」
ダスティンが溜息混じりに教えてくれた。
ハイ!絶対に行きません!ご安心を!
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