95 幼年学校の教員顔合わせ
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
メリディエス〜セレンの旅が五日後に迫っている。
淑女教育は……順調とは言えないけど、笑顔だけはなんとか及第点をもらった。とりあえず、謁見でやらかさなければいいので、笑顔、歩く、おじぎだけは必須と言われた。
綺麗な所作の女性には尊敬が集まる、とコーデリア先生。それは分かる。お母様は尊敬に値するステキな女性だもの。
今日のレッスンは終わったので、昼食のあとはいつものように雛の給餌に向かい、ハイ、現在第二大会議室ですよ。コーデリア先生も一緒です。
私たちが不在の間、コーデリア先生も学校の準備をしながら雛に魔力をあげたり、聖石に魔力を入れたり、お母様の補佐をしてくれるらしい。ただでさえ開校準備があるのに申し訳ない。
「では、教員の紹介を致します。」
会議室で何してるかっていうと、採用の決まった先生と顔合わせ。別に私が顔合わせなくてもいいと思うんだけど、先生方の希望でお会いすることになった。発起人として責任は取れ、とダスティンに言われたのさ。
かなり無茶な段取りで開校するので、その辺は仕方ない。私に会っても嬉しくないと思うんだけど。
低学年クラスは六月に開校。これはお母様の選んだ復職する侍女たちの子どものため。王宮侍女長が選んだ元侍女たちの子どもも慣らし保育のために預かることになった。引いては私の専属事情選定のためなので、引き受けてくれたお礼はしないとね。
高学年クラスは七月開校。こちらはカリキュラムをしっかり決めないといけないので、時間を取った。いや、時間足りてないけどさ。
高学年の入学者、ほぼ男の子なのよ。最高学年なんて全員男子。
やるべきことは座学の穴埋めと魔力増加、魔力操作。どこまで出来るか分からないけど、やるだけやるしかない。教本は事前に配布して、入学したら即実力テスト。クラスを習熟度別に分けて、訓練に励んでもらう。
女子は男子の戦闘訓練の間、コーデリア先生が淑女教育をやるんだって。体育の乗馬は十歳からあって、これは女子も受けられる。横乗りだけどな!普通に乗るより難しくない?
騎士団の馬場を借りられることになってるので、そこで行うんだそう。男子の乗馬の授業とは別に組んだ。
訓練場と一時間半交代で、乗馬と魔法実践、授業を週二回、午後を丸々使って授業をする。最高学年は剣術、槍術、弓術、体術の授業を加えて週三回。今年度だけは騎士がつきっきりでみっちり教えるらしい。騎士団には足を向けて寝られないね!
今は採用が決まった先生からどんどん研修を始めて、新魔力理論を教えている。かなり驚かれたみたいだけど、レナードが教えていて(ほとんど引き継ぎが終わってるから三月の退団まで暇なんだって。暇なのかよ!)、この歳で魔力が増えるなんて!とみんな驚いてるって。
次々と先生方の挨拶を受ける。一応、名簿もらってるんだけどさ。見比べながら、なるべく顔と名前を一致……出来そうにない。
校長はコーデリア先生、副校長はレナード、これは忖度人事なのか?普段は兵部省にいるんだよね?
高学年は国語、数学、理科、社会、体育、魔法、教養、各科目の教科主任がいて、この先生方は正規雇用の専任講師。他にも何人かいるけど、他に非常勤講師が五名。総勢十五名。
教養は男女それぞれ貴族として必要なマナーを学ぶ。淑女教育やダンス、音楽もここに入ってる。
あと、低学年の担当の先生が六名。五歳〜八歳の各学年の担任と補助教員って感じ。次年度からは四歳も預かることになっていて、教員は今年度の家庭教師が終了したら来てくれる先生が三人。
今年度の募集を打ち切った途端に申し込めばよかった!と嘆くご家庭が多かったらしくて、今年度の児童数からすると先生の人数が多いんだけど、これからに備えて先生が新しい集団教育の方法に慣れるためにも多めに採用したらしい。
数学科と社会科、魔法科の教務主任は王立学院の元教授だって。四年生(日本でいう高校一年)で専門コースに分かれて、六年で卒業なんだけど、その上に大学みたいな研究科というのがあって、いや授業ほぼないから大学院に近いのかな?
研究費用という名の給料が国から出るけど、王立学院の講師もしなくちゃならないし、研究の成果も出さないと研究費の支給も打ち切られる。あと、研究室に所属する人のお給料も研究費から支払う。
こちらのお三人はレナードのスカウトで来てくれたんだけど(学院の同級生らしい)、定年より少し早めに退職して、新しいことをやりたいと思っていたら、都合よく幼年学校の話が来たので飛びついたそうだ。
レナードと同い年なら五十代後半?元気な人たちだなあ。王立学院と違って、貴族として未完成な子どもたちだけど、ちゃんと教えられるのかな?教授って変わった人多いしさ。
数学科はトリスタン・フルウム。社会科はエルトン・クロセウス。魔法科はハワード・ウィリディス。三人のうち二人はセプテントリオの出身か。ふむふむ。まあ、高学年しか持たないし大丈夫かな?
「みなさま、このたびはようねんがっこうのきょうしをひきうけてくださってありがとうぞんじます。あたらしいこころみなので、てさぐりではありますが、きょうりょくしてよりよいがっこうづくりをおこないましょう。」
教員が全員揃うのは今日が初めてだそうで、ここからは小会議室を使ってそれぞれ話し合う。教科間の横のつながりも大事だけど、まずは各教科ごとに方針を決めるんだって。
私はまず低学年の会議に参加。全部顔出せって言われたよ。雛の夕方の給餌に間に合うかしら?
「みなさんもたくさんの子どもを一度に面倒を見たことがないと思うので、どのように指導していけばいいのかを考えて行きたいと思います。」
低学年の主任教諭、マーシャが議題を提示した。家庭教師だと多くて三人くらいだもんね。大体、貴族のひと家族の子どもは多くて五人、平均二人、ひとりっ子家庭もそこそこいるらしい。意外。
「学院のような集団生活を小さな子どもが出来るでしょうか。」
「四歳、五歳は難しいかもしれないわね。喧嘩も多いと思うわ。」
「殿下はどう思われますか?」
「あの……わたくしがまだ2さいなのだけど……。」
「貴女が発起人なのですから、案をお出しになってください。何かあるのでしょう?」
ヴッ。ダスティンめ!みんなが期待の目でこっちを見てるじゃないか!旅の強行スケジュールの恨みは忘れてないんだぞ!
「あん、というより、ちゅういてんでしょうか。まずさいしょのころはおとなしくすわっていられないこもいるとおもいます。ちゅういはもちろんひつようですが、どなったり、ぶったりはこころのせいちょうによくないのでおやめください。あとは、ひとみしりやきのよわいこは、じゅぎょうちゅうにおてあらいにいきたくなってもいいだせないこもいるかもしれません。おもらしをしないように、ていきてきにおてあらいにつれていってください。あそびにむちゅうになっているこもどうようです。こそだてけいけんのおありのかたは?」
マーシャともう一人、名前わからん。二人かぁ。他は結構若い先生だから仕方ないけどさ。
「ちいさいこたちはおもらししたときのおきがえをほごしゃからあずかっておくとよいですね。」
「その時の着替えは誰がするのですか?」
「え?せんせいがたですが……。」
若い先生たちが困惑しながら顔を見合わせている。なんかおかしい?
「それは侍女の仕事なのではないのですか?」
ああー!そゆこと!盲点だった!
「何を仰るの、貴女方。子どもの下の世話くらい出来なくてどうします。」
「ですが、わたくしたちも貴族の子女です。そのようなことはした事がございません。」
「侍女のような仕事もしなければないなんて、考えておりませんでした。」
「あら、王妃殿下の侍女にはフラーウム家の跡継ぎの奥方もいらっしゃるのよ。そんな方がヴァイオレット殿下のおむつ替えだってしているの。それを貴女方にできな道理があって?」
「それはぼうろんですわ、マーシャせんせい!もとからきめられていたぎょうむでないのはわかりましたし、みなさまのこんわくもりかいできます。そのてんはけいえいがわでこうりょいたしますから、すこしおじかんをくださいませ。それと、わたくしもアーサーもトイレトレーニングはおわってますからね!」
かといって、失敗しないわけではない。いや、私はしないけど。
「乳母経験者を二人手配いたしましょう。庶務も任せられるような者に心当たりがあります。」
「ダスティン、おねがい。」
「お任せ下さい。」
「ほかにもむしのかんさつをしたり、どうぶつとふれあったり、しょくぶつをそだてたり、しぜんにふれることもしたいのです。みなさんだいじょうぶですか?」
「虫!わたくし苦手ですわ!」
「わたくしも。」
「わたくしは蝶くらいなら。」
「それを教える事でどのような効果をもたらすのですか?」
「しぜんにふれることでこうきしんをしげきします。これはどうしてこうなっているのか、どんなやくわりをしているのか、どういうかていでそのようになるのかをじぶんでしらべたりかんがえたりすることでしこうりょくをきたえるのです。そういったけいけんをとおしたまなびは、まほうをつかうときのそうぞうりょくのみなもとになります。」
「殿下は既に聖女の御技まで修めておられる。優秀な殿下の、経験から来るお言葉だ。そこをよく考えるように。」
うわ、パワハラじゃん!やめなよ、ダスティン。
「そこはこうがくねんのりかきょうゆのかたにもごきょうりょくねがいましょう。まいにちのことではないのです。せんせいがたにはいままでおこなっていたようなきょういくをしていただくほかに、ねんどであそんだり、えをかいたり、うたをうたったり、そういうことをとりいれていただきたいの。たいいくはせんにんのせんせいがおこないますけれど、ふだんからからだをつかうこと、とくにゆびさきのつかいかたをおぼえるのは、まほうをつかうにもいかせるはずですわ。」
「楽器のレッスンは行わないのですか?」
「しゅうだんでおしえるのにてきしているものはおしえたいとかんがえています。ピアノはこじんレッスンのほうがむいているのでむずかしいですが、ヴァイオリンやフルートならばかのうでしょう。いずれ、ほごしゃむけにはっぴょうかいなどもしたいですね。ひごろ、おこさんがどのようなことをがっこうでがんばっているのかみていただくよいきかいになります。」
「それは楽しそうな試みですわ。」
「9じから17じまでとながいじかんせいとをみるのはたいへんだとおもいますが、こどもだけであそばせるじかんもあります。あんぜんにはじゅうぶんちゅうういしていただいて、こどもがけんぜんに、じりつしたにんげんにせいちょうするよう、てだすけしてまいりましょう。」
みんな、かしこまりました、とは言ってくれたけど、不安だな〜。何かあればコーデリア先生がなんとかしてくれるとは思うけど。
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