父と兄
急に心が空っぽになって、もう全てどうでもいいような、それでいて、すごく寂しいような気持ちになることがある。芽生子は、そういう時、だいたい動けなくなる。動きたいけど、どうやっても、この気持ちからは抜け出せない、と、そう思う。
芽生子は、兄のことを考える。会ったことのない、兄。私は、別に、複雑な家庭で育ったわけじゃない。父親が再婚で、前の奥さんとの間に兄が生まれていたらしい。そういう人がいるってことだけしか、芽生子は、知らない。
芽生子は、一人っ子として育ったから、兄という存在に純粋な憧れがあった。会ってみたい、とも思った。でも、母親が嫌な顔をするんじゃないか…と、思って言えなかった。私と兄は血がつながっているし、母親と私も血がつながっているのに、兄と母は、血がつながっていないってことに、芽生子は、不思議を覚えた。
母がいない時、父親に聞いたことがあった。
「ねえ、お兄ちゃんってどんな人?」
「どんな人って?」
「顔は?お父さんに似てるの?」
「似てないよ。」
「え?」
「前の奥さんの方に似てるんだ。」
「そうなんだ…じゃあ、背は?」
「お父さんより高いよ。」
「175、6?」
「そのくらいじゃないかな…」
父が、定期的に兄に会いに行っているのも知っている。高校2年生になるらしい。父は、どこか外で、例えば、フードコートとか、ラーメン屋とか、そんなところで、兄と待ち合わせしているらしかった。私は気になりつつも、興味本位で、親子の再会を邪魔するのも、どうだろう…と思って、余計な詮索はしなかった。
父はいつも、兄と会う時、「ちょっと行ってくる。」と言う。そして決まって、母に対して気まずそうな顔をしている。何も知らない時、芽生子は、「お父さん、どこ行くの?」と、聞いたことがあった。
「お兄ちゃんのところ…」
父は、何もごまかさず答えてくれた。




