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天空記  作者: 緒俐
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第五十四話:高校生の夏休み

「終わったあ!」


 歓声が教室に響き渡る。聖蘭高校の一学期は本日で終了、明日から夏休みである。


 クラスメート達は夏休みの話題で盛り上がり、当然翔もこの夏おそらく一番深く付き合うであろう、紫月に喜びいっぱいという表情で彼女の元にかけていく。


「紫月、帰ろうぜ!」

「はい。だけど良かったですね、赤点も取らずに何とか夏休みを迎えられて」


 微笑を浮かべながら、紫月は相変わらずの反応を返した。


 最近、秀の妹分になって来たのかどんどん似て来てるなぁ、と翔は付き合ってて思う。紫月も秀を尊敬している性か、知らず知らずに影響されているのだろう。


 だが、あの冷徹非道なところまで影響されて欲しくはないと心から願うが……


「紫月、分かってないなぁ。俺は夏休みに無駄な勉強をしたくないから赤点ギリギリで乗り切ってるんだぜ?」

「自慢にならないですよ。それに帰ったら通知表、龍さんと秀さんに見せないといけないんでしょう?」

「うっ! 沙南ちゃんいるといいなぁ……」


 とはいっても、紫月にスパルタ教育を受けた性か翔の一学期の成績は至って普通というところ。もちろん、体育は5と当たり前のように取っている。

 だが、きっと紫月と比較されて秀から毒舌の数々を受けることにはなるだろうが……


「とにかく帰りましょう。翔君が早く宿題を片付けてさえくれれば、夏休みは楽しく過ごせますし」

「紫月様〜!!」

「はいはい、今日からお世話になるんですからみっちり付き合ってあげますよ」


 本当に仕方のない人ですね、と紫月はくすくす笑った。なんだかんだ言っても、紫月も夏休みを楽しみにしている。

 今年は天宮家という居心地のいい場所を見つけたのだ。自分達を理解してくれる者達と過ごせる休みが楽しくないわけがないのだから……


 その時、紫月はクラスメートの女子から声を掛けられた。


「お姉様、ちょっとよろしいですか?」

「はい。すみません翔君、少し待ってて下さい」

「はいよ」


 いつの間にか一緒に帰ることが自然になっている。未だに二人を冷やかす声はあるが、二人で会話をする時間というのはリラックスタイムを満喫するものだと互いに思うようになっていた。


 かといって、彼等の弟妹のように手を繋いで毎日帰ろうという仲にはとてもなろうとは思えないが……


 そして、紫月が女子達からデートの誘いを受けている間、翔は彼を羨む男子生徒達から囲まれることになる。


「おい天宮〜! さっきの会話はなんだぁ!!」

「なんだって紫月が家に泊まりに来るってことか?」

「そうだよ! しかも真夜中まで付き合うって何をだぁ!」


 「すべて白状しろ!」と、翔は頭を抱えられるなり脇腹を肘で突かれるなりと迫られるが、彼はキョトンとして言い切った。


「何って宿題だろ。俺達、今週末に別荘に行くからそれまでに出来るだけ宿題終わらせとけって兄貴達からの命令でさ。

 当然、俺一人の力じゃどうにもなんないから紫月が数日泊まり込みで宿題見るって」


 ついでに紫月が飯作ってくれるからそれも楽しみなんだよなぁ、と彼女の力作料理を想像して翔の表情はとろけていく。本当に彼女の料理は翔にとって魅力的だ。


 だが、彼等はあくまでも健康的な男子である。紫月が翔の家に泊まるということはそれなりの妄想は膨らむものだ。


「ってことは、うまくいけば篠塚の風呂とか着替えとか覗けるのか!?」

「夜ばいだって出来るじゃねぇか!」

「まずねぇんじゃないのか?」


 男子の健全な妄想を翔はばっさり切った。しかし、友人達はまだ興奮が収まらず翔に詰め寄る。


「何でだ? チャンスなんていくらでもあるじゃねぇか!」

「だいたいお前だって自分の家に篠塚がいて何も思わねぇのか?」

「ないことはないけど、紫月は一緒にいられるから楽しいんだろ? んなことより、どうせならあいつとこの夏休みはガチンコ勝負で遊びたいんだ」

「だけど海とかいったりするんだろ?」

「ああ、紫月と競争するんだ。どっちが速いかって!」

「じゃなくて水着姿を想像してとか」

「競泳用しか思い浮かばねぇ」


 あっ、でもスキューバダイビングも捨て難いかな、と翔の頭の中の紫月と過ごす夏休みは本当に健全なものだった。


 そんな翔に男子生徒は目を丸くしてもっともな質問を投げかけた。


「天宮、お前篠塚のこと好きなのか?」

「当たり前だろ? 紫月といると楽しいんだ」


 本当に翔は楽しそうに笑う。だが、それは恋愛の対象としてではないことは一目瞭然だ。そんな翔に友人達は顔を見合わせるなり彼の耳元で囁いた。


「天宮、本当に好きなら早く捕まえといた方がいいと思うぜ。この前の夜、篠塚は年上のかっこいい男と歩いてたぜ?」

「そうそう、あれはどう見てもお似合いのカップルだったよな」

「紫月の兄さんじゃないのか? 結構イケメンだし」

「いや、相手を名前で呼ぶくらいだ。兄じゃないだろ」


 それを聞いて、翔は何となく面白くなさそうな表情を浮かべた。自分以外の誰かと紫月が夜に歩いている。あまり想像はしたくない光景だな、と本能が告げる。


 そんな翔を見て、友人達は心の中で苦笑しながらポンと翔の肩を叩いた。無意識というものは非常に面白い。


「まっ、頑張れよ。あんまりはしゃいでばかりだと恋愛したくなった時に一番困るタイプだぜ、天宮は」

「ああ、違いない」


 それだけ告げられて翔は解放されると、同じように解放されて来た紫月は柔らかい表情を翔に向けた。


「すみません翔君、お待たせしました。帰りましょうか」

「ああ」

「……どうしました? なんだかさっきの勢いが失くなった気がしますけど」


 なんだか拗ねているような表情を翔がしているので、紫月は何が起こったのかと尋ねてみるが、どうやら言うつもりはないらしい。翔は肩に鞄を下げて紫月の手を引っ張って歩き出す。


 おまけに駐輪場に向かう最中も静かで、掴んでくる手が少し強いことに紫月は首を傾げた。あまりにも翔らしくない。


「本当にどうしたんです?」

「何でもねぇよ。だけど紫月の作った飯が食いたい」

「……いいですよ、沙南さんと腕によりをかけて作りますから」


 きっとさっき囲まれていた男子生徒から何か言われたんだろうが、話す気がなければ聞いてやるつもりはない。それに自分が作った料理で気が静まるのなら、そうしてやれば翔という人物はまた笑ってくれるのだから。


「紫月」

「何です?」


 自転車の籠に二人分の荷物を無造作に入れて翔は紫月の方を向いた。やっぱりどこか変な表情だと思う。


「夏休みは何しようか?」

「えっ?」


 突如尋ねられた漠然と問いに紫月はすぐに反応出来なかった。しかし、翔はまっすぐ紫月の目を見てさらに続ける。


「何したい? 別荘行って海で遊んで皆で花火とスイカ割りやって騒いで、純や夢華とプールいったり家でゲームしたり、沙南ちゃん達の買い物に付き合わされたりする以外に何かねぇか?」


 それだけでも今までに自分が体験したことのない楽しい夏休み。だけど、きっとそれだけでは物足りなくなる、それだけ時間が惜しくなる気がするなんて初めてだ。


 それこそ、真夏の冷たいプールの中に飛び込んで行くような、あのドキドキする感じに似ていて……


 それから紫月は少し考えて、やがてフッと微笑を浮かべて答えた。


「考えておきます。ですが! 今週末まで宿題の三分の二は片付けていただきますから!」

「うっ! そりゃ鬼だろ!!」

「何言ってるんですか! 今日は徹夜で見てあげますから覚悟しといて下さい!」


 時が過ぎて少しだけ変わったこと。


 初めて自転車に乗った頃より、少しだけゆっくりした自転車のスピードに変わっていた……




いかにも健全な夏休みになりそうな高校生組。

きっと紫月ちゃんがスパルタで宿題を片付けさせた後、二人は夏休みを満喫することでしょう。


だけど一章に比べて紫月ちゃんがちょっと明るくなったかなぁと思います。

これは翔の影響が大きいですが、秀さんと仲良くなってるのも原因の一つです(笑)


柳に悪いかなと思いつつも、秀と紫月はメル友で夏には一度翔と紫月が訪れた秀のバイト先の喫茶店で彼女もアルバイトする予定です。

ちなみにその喫茶店のスタッフとも裏繋がりで仲良くなってます(笑)

いずれ書けるといいなぁ。




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