第五十三話:女のお茶会
この日、街のお洒落なカフェテラスでやけに人目を引く美女が三人、午後のティータイムを楽しんでいた。
当然のように異性から声を掛けられるが、最強の女医が簡単に追い払ってしまうので女子大生二人は安心してスイーツを堪能しているわけである。
そして専ら、三人揃えば話題が恋バナになっていくのがこの女子会のお決まりだった。
「今月入って四回目ね」
「紗枝さんどう思う?」
「医者としては責められないけど、沙南ちゃんを悲しませるのは許せないかな」
「確かに龍さん忙しそうだものね」
沙南、紗枝、柳の三人はその日街へショッピングに繰り出していた。
七月も後半となると大学生もテストとレポートに追われるが、テストがない平日は遊ぶためにある。
特に聖蘭女子大学の医学部はレポート提出がテストの代わりとなるので、数科目のテストを受ければあとは一足早い夏休みを体感出来るのである。
テストなど持ち込みオッケーとなれば、特に勉強する必要のない二人は紗枝に「今週末のために買い出しにいくわよ!」と、ほぼ強制的に連れ出されていた。
そして、会話は相変わらずな医者の話となっているわけである。
「オペより私は魅力がないのかしら……」
「そんな事ないわよ。龍さん、患者さんを大切にし過ぎる人だって兄さんも言ってたし……」
「だけど最近暇さえあれば、啓吾さんとうちの書庫に篭ってるんだもん……」
「あ〜ごめんね、うちの兄さん本好きだからきっと龍さんも付き合わされて……」
「柳ちゃん、龍さんも活字中毒だから二人揃って夕食抜きでも読み続けてるわ……」
止めなければ一週間でも気付かないのではないかといえるほど、あの二人の本に対する集中力は凄まじいものがある。
さらに医学書となれば、二人揃ってこれでもかというほど議論を繰り広げているので尚更性質が悪い、と沙南はどんどん沈んでいった。
その話を聞いて、あの二人揃って沙南を悲しませてるのかと紗枝は呆れながらも、医者として議論してしまう気持ちだけは理解した。
確かにあの二人は互いの秘密を明かした時から非常に仲が良くなっている。医者としても互いが良きパートナーと認めている性か、龍があそこまで心を開いて話せる友人は少ない。
つまり自分の兄達とはまた違った感覚で、楽に啓吾と付き合っているのだろう。
「にしても面白くないわね」
「えっ?」
「だって、あの医者二人は沙南ちゃんのことなんて露知らずでのうのうとオペしてるんだもの。特に啓吾なんか沙南ちゃんと龍ちゃんのデートの妨害してるとしか思えないわよ!」
「紗枝さん、さすがに啓吾さんにそんな気は……」
「ないから腹がたつのよ! 柳ちゃん、啓吾に弱点とかない? 少しぐらいは反省させなくちゃ!」
啓吾の弱点、嫌いなものなどなく飄々としているイメージを持つ啓吾にそんなものがあるのかと誰もが思うが、やはり妹は心当たりがあったらしい。
「日焼け……ですね」
「えっ?」
日焼けってあの?と紗枝が尋ねれば、柳はコクンと頷いて答えた。
「ええ、兄さん肌弱くて海に行くときは必ず日焼け止め塗っておかないと肌が赤くなるそうです……って、すみません、本当に弱点見当たらない兄なんで……」
「いえ充分よ。要するに海に連れて行けば良いんでしょう?」
紗枝はちょっと待ってて、と立ち上がり、携帯をかけ始め何やら簡単な交渉をしてニッコリ笑ってよろしくねと通話を終了した。
そして、席に戻って来るなり紗枝は満面の笑みを浮かべて告げる。
「話はついたわ。啓吾も三連休別荘に付き合わせましょう」
「えっ!? 紗枝さんそれって大丈夫なんですか!?」
「大丈夫よ。ただ、今週末まで啓吾がちょっと家に帰れなくなればいいだけの話しなんだから」
それにタフさは天宮兄弟と張れるから、と紗枝は笑い飛ばす。
ただ、そうなると啓吾があまりにも不敏なシフトになるのでは……、と沙南は一応紗枝に問う。
「でもそれって啓吾さん、下手すればまるまる一週間泊まり込みになるんじゃ……」
「大丈夫よ! 啓吾だって龍ちゃんの別荘に三日も泊まれるんだもん。きっと今頃、大はしゃぎで龍ちゃんに抱き着いてるはずだわ」
「確かにそうかも……」
行けて最終日だけという状況に啓吾は非常に拗ねていたのだ。間違いなく降って湧いた有り難い休日に疑いもなく飛び付いているはずである。
「まっ、そうと決まれば啓吾にはサンオイルぐらいたっぷりと塗ってやって、二人の水着も少しぐらい男性陣を慌てさせるものを選ばないと」
「あの…紗枝さん、沙南ちゃんは分かりますが私は……」
何故かと問えば紗枝はあっさりと返してくれた。
「そりゃ秀ちゃんを陥落させるために決まってるでしょ? 秀ちゃんの姉としてはそろそろ彼女の一人ぐらい作ってもらいたいもの」
「そうよね。柳ちゃん、せっかく秀さんが柳ちゃんに興味示してるんだから落とさなくちゃ損だよ! あれほどの美青年なんて世界中探したってなかなかいないんだから!」
「ええ〜っ!!」
柳は真っ赤になった。秀を落とすなどそれは恐れ多いことで、それ以前に秀が柳にするいたずらの数々にだってドキドキさせられっぱなしだ。
これ以上秀に近付くなんてことをすれば間違いなくパンクする自信があるが、この二人はそれが楽しくて仕方がないらしい。
「だけど柳ちゃん、実際のところ秀さんのことどう思ってるの?」
沙南は肝心なことを初めて聞いた。秀と柳をからかうのが面白過ぎて、つい忘れていた言葉である。
「優しい人だとは思うけど……」
「恋愛対象としては意識出来ないのかしら?」
紗枝の質問にふと柳は考え込んだ。
きっとこれだけドキドキさせられてるのだ、秀の事は好きなんだと思う。しかし、恋愛とはまた別の何かが彼女の心に陣取っているのも事実だ。
つい最近見た南天空太子の夢。彼女は夢の中で自分が従者で、その同じ顔を持つ秀がただそれに重なっているからこれほど秀が気になるのではないかと思っていた。
特に北天空太子と従者だった夢華が実際に目の前に現れてしまったのだから……
「よく分かりません。ただ、秀さんは私より素敵な女性がいると思いますから、幸せになってもらいたいと思います」
あれっ、と沙南は何かを思い出した気がした。柳が悲しく笑っているこの表情を知っていると思った。遠い遠い過去に……
「だったら私は柳ちゃんを推すわよ! だいたい秀ちゃんも秀ちゃんなのよね」
「はい?」
柳は紗枝の言ってる意味が全く掴めなかったが、沙南は紗枝が言いたいことを理解しているらしくクスクスと笑った。
その後、秀を落とすという名目で、思わず柳が赤面するほどの水着を押し付けられたことは言うまでもない……
女の子のお茶会ってやっぱり恋愛話は欠かせません。
美女が三人お茶を飲むなんて絵になりますよねぇ。
ここで余談ですが、緒俐はあえて彼女達の容姿の特徴を書いていません。
人のイメージを固定しない方がいいかなぁという緒俐なりのこだわりです。
(性格は決めちゃってますけどね)
そんな彼女達がこの夏どんな恋愛をするのか非常に楽しみです。
そして紗枝さんが二人に選んだ水着って一体……




