第四十九話:決着
「あちっ!!」
「兄さん!!」
啓吾に抱き抱えられていた夢華は突如、その小さな身体から高熱を発し始めた。それからふわりと宙に浮いたかと思えば、柔らかな光が彼女を包み込む。
一体何なんだ、と思ったのも束の間、その直後に啓吾達が近寄れないほどの高熱の柱が天まで伸び、それが消えたかと思えば中からゆったりした黒い衣を身に纏った少女が宙に浮かんでいたのである。
「北天空太子様……」
そう呟き彼女の周りに無数の雫が集まって来たかと思えば、それは黒の柄を持つ銀色の細剣に変わる。
「夢華……?」
柳の声に反応し夢華の視線は少しだけこちらを向けたが、すぐに彼女は雷雨の中を飛んでいった。
夢華が北天空太子のもとに辿り着くほんの数分前の出来事だった……
細剣に光を帯びた水泡が取り巻く。少女の胸の中には主への絶対的な忠誠心はもとより、彼を守りたいとの願いがその黒の瞳に宿っていた。
だからこそ彼女も降臨したのだ。雨が主の心だと知っていたから……
「北天空太子様、お下がり下さい。あのような不届きものは私が斬り棄てます!!」
とても普段の彼女からは想像出来ないほどの凛とした声と態度は、まさに彼女が二百代前は北天空太子の従者として仕えていたことを思わせる。
「従者まで出て来るとは……」
夢華を視界に捉えて高原は呟く。夢華の姿を見るなり、彼女が天空記に記されている北天空太子の従者だと容易に想像出来た。
篠塚家の面々が二百代前に従者だったという確信は、天宮家の面々が天空太子だという確信以上だったからだ。
そしてその従者は今、主を守るために自分に刃を向けてくる。
「我が主に対する狼藉の数々を許してはおけぬ。その身に己が罪の重さ刻み付けよ!」
まるで燕が翻るかのように夢華は高原に急降下していった。だが互いの視線が絡まった瞬間、彼女の刃は止められる!
「喝っ!!」
「うっ!!」
体が金縛りにあう。そして光のロープが夢華の両手首にきつく巻き付けられて自由を失い、そのまま彼女は地面に叩き付けられて気絶した。
頭を打ち、切れた額から流れた血が地に広がっていく……
その瞬間、北天空太子の中で何かが崩れた。
「貴様……!!」
これまで以上に目は黄金に輝き、高原の頭上に雷光が集まる。だがその間に高原は夢華が持っていた細剣を拾い、剛速球で投げ付けた。
「落ちるがいい、北天空太子!!」
「くっ……!!」
細剣が北天空太子の右胸に貫通し赤い血を滴らせるのと雷が高原に直撃するのは同時だった! 北天空太子は地に落ちていく。
その様子を見せ付けられた翔は、目をカッと見開きブチ切れる!
「くっそ〜〜〜!!!」
翔を縛っていた光のロープは弾け飛ぶ!
「翔っ! 行くんじゃない!!」
「翔君っ! 引きなさい!!」
だが、兄達の制止を聞かず翔は走る。これ以上自分の目の前で弟が傷ついていくなど御免だ!
「純っ!!」
倒れている弟のもとに駆け付けようとしたその時、雷撃によってあいた穴から高原の手が翔の右足首を掴んだ。
「まだ…じゃ……!!」
「グアッ!!」
足首に激痛が走り、翔は尻餅をついて倒れる。雷撃に打たれボロボロになりながらも高原は生きていた。まさに執念とも言えようその表情は人というにはあまりにも悍ましい。
そして高原は穴からはい上がると倒れた翔の首を絞めて体ごと持ち上げた。翔の足は宙にぶらりと下がる。
「この際構わん……大人しく喰われよ、西天空太子……!」
「うわああああ!!」
さらに首を絞められ翔は絶体絶命のピンチに陥った。それを見た龍と秀もようやく光のロープを引き千切り、弟の元へ駆け出す!
しかし、邪魔をさせまいと高原は再度光りのロープを放つ!
「邪魔をするな天空王!」
「ぐっ!!」
「兄さん!!」
無数の光のロープに弾き飛ばされた龍を秀が背後に回って止めた。その威力は傷つくはずのない身体に血を滲ませるほどだ。
「終わりじゃ、西天空太子」
『クソッ……純!!』
叫び声は微かに純に届いた。朦朧とする意識の中、彼は呟く……
「にい……さ…ん」
守りたいと思い、純が意識を無くしたと同時に高原の身体に弱い電気が走り彼は怯む。
「くっ!!」
その最後のチャンスを翔は逃さなかった。首を絞められていた手をへし折り、渾身の一撃を高原の鳩尾に叩き込む!
「どりゃあ!!!」
「ぐおっ!!」
高原は吹き飛ばされるが足を地につき踏み止まり翔を睨みつけた。
「西天空太子……」
「まだやるのか!!」
再び殴り掛かろうとした翔の腕を龍が止めた。その表情は重たい。
「龍兄貴!」
「もういい、全て終わったんだ……高原は、死んでる……」
高原は立ったまま動かなくなった。寿命が尽きていたのである。その終わり方があまりにも呆気なく感じて、翔は何とも表現しがたい気分に陥った。
「兄貴……」
「よくやった」
珍しく龍は翔の頭を撫でてやる。翔に必要なのは言葉ではないと分かっていたから……
それからすぐに馴染みの声が背後からかかる。
「龍!」
「啓吾」
啓吾は上半身裸でやって来た。そして、彼が来ていた黒のTシャツを龍に差し出す。
「ほら」
「ほらって、何だ?」
「何だって服いるだろ? 夢華が裸で倒れてたんだから、多分末っ子もそうなんじゃないのか? 濡れた服を着せるわけにはいかないだろ?」
「えっ!?」
それはまずい、と龍は純のもとに走ろうとしたが、裸のまま純は秀に背負われてこちらにやって来た。
「兄さん、啓吾さんのおっしゃるとおりでしたよ。服貸して下さい。風邪を引いてしまいます」
「ああ」
龍は啓吾のTシャツをすっぽりと純に被せる。さすがにサイズはぶかぶかだが、今は我慢してもらうしかない。だが、そこで翔はハッとした。
「って、純の怪我は!?」
高原に細剣を投げ付けられ右胸に貫通したのだ。無事なわけがないが、秀はあっさり答えた。
「無傷です。それより翔君こそ足首大丈夫なんです?」
「えっ?」
秀の言葉を受け、医者の顔付きになった龍は翔のジーパンの裾をたくし上げ、赤く腫れている右足首に診断を下した。
「……常人なら全治二ヶ月の骨折だな。まっ、お前なら今日中にでも治るだろ」
「痛テェ〜〜!!!」
触られた瞬間、ようやく痛みはやってくる。秀は苦笑し、啓吾は腹を抱えて笑い始めた。そして涙を拭きながら啓吾は促した。
「とりあえず、お前らも濡れてるんだから早く柳に乾かしてもらってこい。俺は適当な車掻っ払ってくるからよ」
自衛隊基地なら一台くらいあるだろう、と啓吾は歩き出していった。こんな時は気が回るんですねぇ、と秀が言えば、いい奴なんだよと龍は苦笑した。
「さぁ、兄さん行きましょう」
「いや、お前達は先に行っててくれ。今回の騒動でもう一人話すべき相手……、いや違うな、初めて会ったあの時に全てを聞くべき相手だった」
「えっ?」
その瞬間、ふわりと花びらが舞う。そして目の前に現れたのは、常に高原の傍らにいたあの和装美女だ。彼女は綺麗な微笑を浮かべたあと恭しく頭を垂れた。
「……お見事でした、天空王様」
「誰だ、あの色っぽい姉ちゃん?」
「翔君、純君をお願いします」
秀は純を渡した。高原と対峙していた時以上の鋭い空気が兄達から立ち込めている。目の前にいる和装美女が只者ではないということは分かるのだが……
「秀兄貴……」
「大丈夫、すぐに行きますから」
「……分かった」
純を背に背負い直し、後ろを気にしながらも翔は柳達の元へ歩き出した。
そして、翔に声が届かなくなった頃合いを見て龍は言葉を発する。
「さて、君には何から聞くべきなのか……」
互いの間にある独特の感覚と空気。それはあまりにも不思議で言葉には出来ない感情が沸いて来る。
それは親しみや恋情でもない、寧ろ何かが引っ掛かっているのに思い出せないといったものにも近いが不快とも思えない。
そして、その答えを彼女は知っていると龍は思った。
「語らずともお会いした時から感じていらっしゃったのでしょう? あなたの二百代前、あなたが天空王だった頃に会っているのだから……」
まるで花が綻ぶかのような笑みを浮かべて和装美女は答える。その笑みは見覚えがある、龍はそう感じた。
「我が主達より言伝がございます。『幾年を越え、再び見えることを心待ちにしている。その時、雌雄を決しよう』と……」
「その主とは?」
「すぐお会いすることになります。その時までしばしお休み下さい」
和装美女が一礼してその場から去ろうとした時、秀は強くその腕を掴んだ。
「秀っ!」
「だったら貴女を逃すわけにはいきません! これ以上何者かに振り回されるのは御免です!」
鋭い視線で射抜き掴んだ腕の力がさらに強くなる。しかし、それに対して和装美女は痛みなど感じておらず、花が綻ぶようにふんわりと笑った。
「南天空太子様、やはりあなたも変わりませんね。柳泉が私達の手に落ちた時よりは幾分か穏やかですが」
「なっ!!」
掴んだ手が花びらに変わっていく。それが散り和装美女の姿は完全に消えた。
「では四天空王、またいずれ……」
声は遠くに消えていった……
やったあ! 翔が頑張ってる! 今回の君はいつもより輝いてたぞ(笑)
オチはいつも通りだけど……
だけど元に戻った純も夢華ちゃんも服着てないって……(覚醒時に全て吹き飛びますからね)
覚醒って別の意味で恐ろしや……
まだ小学生二人だからなんとかなってますが、高校生より上って大丈夫なのか!?
そして、いつも大君に付き従ってた名前も明かさぬ和装美女。
彼女は謎を残したまま戦いは終了。
ですが次の登場を待っていてください。




