第四十八話:北天空太子
光に飲み込まれていく中で純はどんどん遠くなっていく翔を見た。自分の元に必死になって走ってくる兄に純は右手を伸ばしたが、それはとても届きそうにない。
だが、消えていく兄の姿を見ながらも少しだけ意識はあった。自分が人より少しだけ丈夫で良かったと思う。
『翔兄さん……、僕はもう無理みたいだ……だけど伝えたいんだ……ねぇ、知ってる? 翔兄さんはいつも僕のヒーローだった。僕のピンチには必ず助けてくれるから……だけどね、僕だって男の子だもん、兄さんみたいなヒーローになりたかったな……』
目を閉じる。体が消えていく。意識は何かに飲まれていく。
そして……弾ける……!!
「夢華! しっかりして下さい!! 夢華っ!!」
「あっ…あああ……!!」
紫月は必死に妹の名を叫ぶ。戦場から離脱していた紫月と夢華は今まで以上にない轟音を聞いた後、突如夢華が異変を起こし始めたのだ。
体が光り、目は力を解放したときのように黒く、紫月の腕の中で痙攣を起こして声も聞こえていないようだ。
「一体何が……」
「紫月!!」
「兄さん、姉さん!」
啓吾と柳が慌てて駆け寄って来る。そして、夢華は啓吾に渡されその様子に彼は目を見開いた。
「夢華に何かあった気がして来てみれば何だこれは……!!」
「兄さんでも分からないの?」
「ああ、こんな現象見たことない」
力の暴走というわけではない。どちらかといえば、夢華の中の何かが弾けてしまいそうな空気がひしひしと伝わって来る。
おそらく夢華が感じていた嫌な予感の一つがこれなのだと思う。啓吾の心はまださらに上の最悪な事態が起こるのではないかと感じていた。
その時、天からポタリポタリと雨が落ち始める。
「雨……」
「紫月、この一帯でいい。雨避け作ってくれ」
「はい」
紫月は風の力で彼女達四人が濡れないように雨避けを作る。まだ優しい雨もこれから本格的に降り始める空になっていた。
「……兄様」
「夢華?」
突如、夢華が言葉を発した。しかし、目の焦点は合っていない。彼女が一点見上げているものは黒雲が立ち込める空。
「私……、行かなくちゃ……北天空太子様が…純様が……、泣いてる気がする……」
一方、翔達に何かがあったと感じた秀は慌てて駆け付けると、そこには翔がただ呆然と立っていた。
「翔君っ! 一体何があったんです!?」
「秀兄貴……」
翔の声に力がない。秀と目を合わせることが出来ず、いま自分がどういう状況下にいるのかすぐに説明出来る頭が回転してくれなかった。
雨は少しずつ強まり彼等を濡らしていく。さっきまで立ち込めていた砂煙も少しずつ晴れていった。
そして、何度か秀に名前を呼ばれた後、翔はようやく言葉を発した。
「秀兄貴……ゴメン、純のところになかなか行けなくて……そしたらありえねぇミサイルの数が純に飛んで来て……!! 純を守れなかった……!!!」
「翔君……」
「勝手に弟を殺すんじゃない」
「龍兄貴……」
水を滴らせながら龍は歩いて来た。その表情は黒雲のように重く、そして静かだった……
「あいつは生きてる。上を見てみろ」
「……純?」
翔は弟の姿をとらえる。黒雲よりさらに黒い衣を身に纏い、たっぷりと袖布が使われてるその腕にはところどころで雷が走っている。黒い生地には金糸と銀糸で刺繍を施しており、それは太子というに相応しい姿だった。
だが、どこか人離れした虚ろな目は一体何をとらえているのだろうか……
「……あれが純なのか?」
「おそらく。北には水を司る神の話がいくつかある。天空記が本当に真実だとするなら純が、いや、もし北天空太子が彼等の先祖というのならこの雨はおそらく……」
「純君の力ということですね……」
「ああ、確証はもちろんないが早くあいつを元に戻さなければならないことだけは確かだ。この空気、このままだととんでもない大雨が降るぞ……!」
三人は純のもとに走り出そうとした時、ぼんやりと空を見上げる高原の姿を確認した。まるで長年の再会を待ち望んでいたかのようにその声は歓喜に満ちていた。
「ついに見えることが出来た。二百代前の伝説を数百年の間待ち続けた。四天空の内最強の力をもつと讃えられた北天空太子!! なんと神々しいことよ……!」
「あいつ……!!」
「待て、翔!!」
龍の制止も聞かず翔は走り出した! 目の前に純を害した者がいる!
「お前が純を!!」
「あまいの、西天空太子」
怒りの拳は高原の顔面を殴り飛ばそうとしたが、光のロープが翔の体の自由を奪い転倒させさらに腹部を蹴り飛ばされた。
「ぐはっ……!!」
「翔!!」
「翔君!!」
翔を助けようとした二人の兄も高原がはなった光のロープに自由を奪われた!
「天空王、この力も天宮家によって与えられたもの。たしか二百年前に喰ろうた女が肉体的に超人でなかった変わりにこの力をもっておっての」
「ふざけんなぁ!! 離しやがれ!!」
体が縛られても翔は抵抗することをやめようとはしなかった。その威勢の良さと闘争心に高原は微笑を浮かべる。
「急ぐな、西天空太子。主は弟の後に喰ろうてやる。まずは北天空太子、あやつを撃ち落とさねばの」
光が北天空太子に集まる。再び戦闘機が標的にミサイルを撃ち込み始めた。それは先刻の比ではない。
「やめろーー!! 純!!!」
轟音が響き大気が震える。翔の声はけっして弟に届くことはない。
やがて全ての弾を撃ちきったのか攻撃はやみ、戦闘機は基地へと向かい始める。標的は消え去ったか地に落ちたと推測されていた。
しかし、北天空太子はかすり傷一つ負わず空に立っていた。そして、その腕をすっと上げて自分を害した者を視界に捉える。
「愚かな……」
純の目が黄金に輝いた瞬間、叩き付けるような雨と雷が愚かな者達に降り注いだ!!
次々と戦闘機は墜落し、炎上しても雨ですぐに消されていく。しかし、水に雷が走り、雷の直撃をよけても多くのものが感電していった。
龍達には影響がなくとも、それを黙って見ているわけにはいかない。
「純っ!! やめるんだ!!」
「純君!!」
叫んだ瞬間、彼等の傍にも雷撃が落ち二人は吹き飛ばされる! 直撃していたら間違いなく無事では済まないほどの威力にどんどん跳ね上がり始めていた。
それでも高原は冷静だった。視界はぶれる事なく一点をとらえている。
「荒れておる。じゃが、捕らえられる」
「ぐっ!!」
一直線に伸びた光のロープは北天空太子を捕えた! それを必死に解こうと抵抗するが、自力で切れないほどの圧倒的な力が彼を縛り付ける。
「さあ、こちらへ来い! 北天空太子!!」
「させません!」
一閃。水の力を宿した白銀の細剣がロープを断ち切った。そして、北天空太子は二百代の時を経て再会する。
それを断ち切ったのは北天空太子と同じ黒の衣を身に纏う少女。二百代前、北天空太子の従者として共にあった少女だ。
彼女はこの雨の中を全く濡れもせず、主の危機を悟り飛んで来たのだ。
「夢華……」
少年は従者の名を呼ぶ。少しだけ雨が優しくなった……
純が大暴れしております。水と雷フルパワーで暴れております。
普段は穏やかな子なのに…
しかし純に続いて夢華ちゃんまで飛び出してきました!
まさか彼女が剣を振り回すなんて……
空手が出来ないかわいいぴょこぴょこした女の子でいてほしかったなぁ。(まあ、前からここだけは設定してましたけど)
そしていよいよ天空記第一章クライマックス!
はたしてどのような結末が待ってるのでしょうか?
だけど翔! 君は最後まで縛られて三枚目で終わっていいのか!?




