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天空記  作者: 緒俐
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第三十九話:突撃隊長

 夜風を浴びながらビルからビルへと飛び移り、閑静な住宅街になってくれば民家の屋根や木の上、または電柱伝いに駆け抜ける。

 そんな非常識は天宮家にとっては日常茶飯事なのだが、啓吾も全てを受け入れてますと言わんばかりか自分も同じことをやってのけてる訳だ。


「意外ですね、啓吾さん」

「何がだ?」

「僕達の身体能力に付いて来れるとは思わなかったんですよ。それも重力を操って成せる技なんですか?」


 秀は結構飛ばしていた。翔がついて来れるのはいつものことだが、啓吾は超人的能力は持っていても身体能力は天宮家に及ぶわけではない。だとすれば、やはり重力をいじってるのではないかという結論に達する。


 そしてそれが正解とでもいうかのように、啓吾は息も切らさずあっさり答えた。


「まぁ、ズルはしてるな。体を軽くしてるわけだし」

「じゃあ、空を飛ぶとか出来るのか!?」

「そりゃ無理だ。浮くことは可能でもそこまで自由自在ってわけにはいかない。飛びたければ紫月に頼め」

「そういえば紫月ちゃんは風の力でしたね」

「ああ、あいつは器用だからな、力の応用は兄妹の中でも一番うまい」


 じゃあ、今度自転車に乗ってるときにでも頼んでみようかな、と翔が言えば、啓吾の眉間にシワが寄った。


 そんなシスコンのことなど露知らず、秀は郷田邸の情報について話始める。


「とりあえず、郷田邸には郷田議員直属のボディーガードもいるみたいですから」

「はいっ! そいつは俺がやる!」

「いいですよ。ただし二度と再起する気力も無くすほどに叩きのめして下さいね」

「可哀相に……、ただのボディーガードなのに……」

「啓吾さん、秀兄貴はこれでも優しいって。俺はこれからゴリラ親子がどれだけひどい目に遭うかと思うと鳥肌立ってくる……!!」


 青くなる翔を見て三男坊も大変なんだなぁと啓吾は同情した。当事者は自業自得だと綺麗過ぎる微笑を浮かべているのだけれど。


「啓吾さんは一応保険として付いて来て頂いただけですが、翔君はたまにはおっちょこちょいですからね、ゴリラ達を僕が戻るまで縛り付けておいて下さい」

「ん? お前は別行動か?」

「ええ、あくまでも天宮家の平穏な生活を守るのが兄さんでそれを乱そうとする輩を排除するのは僕の役割なんですよ。なので二度と手が出せない事をしなければならないので」


 秀は黒い笑みを浮かべる。誰がどう見てもよからぬことを考えている顔だ。出来れば妹達にはこいつの黒さに気付いて欲しくないと思う。


 そして郷田邸の松の木にそれぞれが降り立った。松の木から見下ろせば黒スーツを着た警備員達が配備されている。

 どうやら今宵は厳重な警戒体制を敷いて自分達の来襲を予測されていたようだ。


「結構いるなぁ、遊びたい放題?」

「そういうことです。では突撃隊長、さっさと片付けていらっしゃい」

「うおっ!!」


 翔を軽く蹴り落とし秀も誰にも気付かれないように郷田邸へと飛び移った。

 弟を簡単に囮にしてしまうのは翔に対する信頼の表れなのか、ただ単に自分の仕事をやりやすくしたいのかは微妙である。


「…いてぇなあ、蹴る事ないのに」


 地面に叩き付けられる前に翔は一回転して見事な着地を見せた。だが、ここには彼の技を褒め讃える観客はいない。


「動くな!!」


 すぐに囲まれ翔は無数の銃口を向けられた。


「おっと、早速ピンチだ!」


 しかし、臆した様子など全くなくその顔は笑っている。そして彼の目前の部屋の障子が開けられ、縁側に郷田親子が姿を現した。


「天宮家の三男坊だな?」

「あっ! ゴリラが二匹!」


 啓吾は吹き出した。息子はともかく、初対面の翔に開口一言目からゴリラ呼ばわりされたことは郷田の議員生活の中でまずなかっただろう。

 しかし、郷田はまだ息子より冷静だった。


「長男には全く似てない礼儀知らずのようだな」

「沙南ちゃんを誘拐する奴らに払う礼儀なんて持っちゃいねぇや。それに俺を育てたのは秀兄貴だから多少曲がってたって俺に責任はないよ」


 そうだよなぁ、と啓吾は木の上に座りもっともだと納得していた。秀に育てられては多少なりともその影響を受けても仕方ない。


「それとさ、そろそろ俺達に構うのやめにしてくんない? 俺、喧嘩好きでも秀兄貴と違って人をいたぶって喜ぶ趣味はないんだ。

 それにこの前潰した暴力団みたいになりたくなかったら銃を引いてごめんなさい、もうしませんと言え!」

「何だと?」

「反省だけなら猿でも出来るぞ! ってゴリラだったか……」


 絶対三男坊は二枚目になれないタイプだなぁ、と啓吾は思う。天宮家の血筋なのでそれなりに整った顔はしてるのだが、言うことが子供の屁理屈なのでどうにもならない。


「撃て!!!」

「えっ!!!」

「そんな!!!」


 突然の発砲命令に警護の男達は戸惑う。


「構わん! ガキ一人ぐらい死んでも揉み消せる!! やるんだっ!!」

「うわあああ!!!」


 一人の男が叫んで発砲したのを皮ぎりに、翔が蜂の巣になるほど銃弾が四方八方から乱射された。しかし、ありえない光景が彼等の前に広がったのである。


「嘘だろ……」

「そんな馬鹿な……!」

「スゲェ〜啓吾さん!」


 翔は歓声を上げた。翔の周りには今発砲された銃弾が全て浮いて止まっていたのである。啓吾の重力を操る力が発動したのだ。

 そして、それをやってのけている当人はいかにも気の抜けた声で翔に尋ねる。


「三男坊、これを全部相手に返してもいいがどうする?」

「男の喧嘩は拳でするもの!」

「よく言った」


 弾が全て地面に落ちた瞬間、翔の反撃は始まった!


「せいやぁ!」

「うわっ!」

「ぐおっ!」


 顎を蹴り上げて宙に舞い、相手の後ろをとって首筋に手刀を叩き込む!

 相手が後ろからライフルを持って殴り掛かってくれば先にライフルを破壊し肘鉄を食らわした。


「そこの木の上にもいるぞ!」

「おっと、バレたか」


 松の木の上にいる啓吾はのん気だった。数発発砲されるが、夜の闇と狙撃手の腕が悪い性か啓吾には当たらない。


「さて、ちょっとこっちも反撃するかな」


 啓吾は落ちていた銃を自分の元まで浮かせて掴んだ。弾数が残り僅かということはさっき翔を蜂の巣にしようとしたときに使ったのだろう。啓吾は木の上から叫ぶ。


「三男坊、出来るだけ銃を壊さず暴れろ!」

「了解!」


 銃弾をかわし、翔は相手の顔面をおもいっきり殴り飛ばす。


「さて、下手くそな狙撃手達に銃の扱い方を教えてやる」

「うわっ!!」

「くっ!!」


 啓吾が撃った弾は見事に男達が持っていた銃を弾く。そして弾がなくなればぽいと捨てて次の銃を引き寄せて撃ち、そしてなくなればまた捨てるを繰り返しているうちに、それはちょうど翔の頭上に飛んできた。

 天性の喧嘩好きはそれを見るなり行動に出た。


「シュートッ!!」

「ぐっ!!」


 啓吾が木の上から落とした銃を左足で蹴り、それは男の腹部にゴールを決めてさらに他の者達を巻き込んだ。


「化け物だ……!!」

「言わなくても結構。とりあえず俺の近くに来た弾は返しとくぜ」

「うわあああっ!!!」


 啓吾が返した銃弾で化け物といった男の銃は弾かれ、その直後に翔の蹴りが顎に決まった。


 さすがに劣勢と確信した郷田は、彼直属のボディーガードの名を叫んだ!


「松宮っ! 松宮はいないのか!!」

「いますよ。すみません、相手の力量を見たかったもので」


 部屋の中から障子を開け、ゆらりとして現れたそれなりに価値のありそうな日本刀を持つ優男は、幾人も斬り殺してきた危険な目をして今宵の獲物を確定した。鞘から刀を抜き、切っ先を翔に向ける。


「今宵はあの少年にしよう」

「返り討ちにしてやるから掛かってこいよ」


 翔は勝ち気な笑みを浮かべるのだった。




ようやくアクションシーンに突入。

いまいち派手に翔は暴れていてもかっこよく書けないです……(やっぱり三枚目か)


だけど前回かなりすすけた啓吾兄さんは今回立派に活躍してます。

実は銃の腕がかなりのものだったりするという設定です。

じゃあ武道の方は?と言われると人並みです(笑)

だって重力操ればオールオッケーですから無駄な努力はしません。

銃は若かりし頃の趣味とでも思ってください。


さて、その頃一体秀は何をしてるのでしょうか?




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